[ 160 ] 案内

 いつも通りギルドで寝泊まりした僕は、簡単に朝ごはんを済ますとロビーでロゼを待っていた。


「はぁはぁ……お待たせ、しました!」

「そんなに走ってどうしたんですか? あ、どうしたの?」


 ロゼは全速力で走って来たのか、息を切らしながら入って来た。待ち合わせの時間にはまだ早い。


「もっと早く来る予定でしたけど、準備に時間がかかってしまって……」

「大丈夫だよ。まだ時間はあるし」

「ダメです! ロイエさんとの時間は一分一秒もおしいです! 早く行きましょう!」

「う、うん。そうだね」

「では、ラッセさん行って来ます」

「午後には帰って来てくださいよ?」

「はい」


 ギルドにはラッセしかいない。基本的には朝から夕方をラッセさんが、夕方から夜までをグイーダさんが、夜中をマスターがギルドで待機している。


 昨日の夜中に港の男と冒険者達は交代を終えていて、港では今頃入船作業をしている頃だろう。


「ブリュレ、しこたま飲んでたけど門で寝てるんじゃないかな……」

「あら、あれでもブリュレさんはお酒に強いんですよ?」

「そうなんだ」

「ええ、フォレストでも酒豪のアルノマール市長と朝まで付き合えるのはブリュレさんくらいです」

「それはすごい……」


 人は見かけによらないみたいだ。僕は前世でもお酒はほとんど飲まなかったし、こっちでも飲んでないからどこまで耐性があるかわからないな。


「ロイエさん! 行きましょう!」

「そうだね、噴水から始めて旧市街の西側、港、新市街の東側の順で見ていこうか」

「はい!」


 当たり前のようにロゼが僕の腕を組んでくる。それは良いんだけど、柔らかいものが押し付けられていて集中出来ない……。


「あら? ロイエさんにロゼさん。おはようございます」


 ギルドを出てすぐ近くの噴水に行くとグイーダさんが水魔法で噴水に水を溜めていた。


「あの……グイーダさん、何をしてらっしゃるんですか?」

「ああ、これは」

「元々砂漠だったこの街は雨がなかなか降らないから、生活用水を魔法で賄っているんだよ」

「なるほど、ギルドでそれを維持しているんですわね」

「そうです。ふふ、こんなところで油を売ってないで市内散策楽しんでくださいね」

「はい」


 現在、南門はブリュレ、東門をシュタイン、西門をマスターが見張っている。


 本当は、西門を僕かレオラが担当するはずだったが、今日ばかりは入船の作業があるのでレオラが使えず、マスターがギルド夜勤明けの体で西門へ行き、警備をしている。


 グイーダさんの水やりが終わったら交代すると聞いているからそれまでの辛抱だな。昨日見た限りだと、この一週間でマスターもだいぶやつれて来た。市長や港長との打ち合わせや、ギルドでの夜勤に加えて日中の市内パトロールまでやっているせいだ。


「ロイエさん?」

「あ、ごめん。なに?」

「いえ、何か考え込んでいるようでしたので、どうされたのかなと」

「ううん、何でもないんだ」

「そうですか。疲れたら仰ってくださいね」

「うん」


 僕らは店長の店をスルーして、村の西側へとやってきた。グイーダさんとレオラの説明が全く違った砂の剣を前に、どちらの説明をするか悩んだ挙句、説は色々あるけどと前起きをして二つの物語を説明した。


「どちらのお話も素敵ですね」

「そうだね。僕としてはレオラの話の方が少し悲しいけど好きかな?」

「ロイエお兄ちゃん!」


 突然、名前を呼ばれて振り返ると家の中から手を振る男の子が視界に入った。一瞬、誰だったかな?と思ったがすぐに思い出した。


「おはよう。あれから体調は大丈夫?」

「うん! 元気だよ!」


 毒を飲まされた男の子だ。特に後遺症のようなものも出ておらず良好だと聞いていたけど、実際に見ても元気そうで安心した。


「元気だけど、あれからお母さんが家から出ちゃダメって言うからみんなと遊べなくてさぁ」

「はは、そっかそっか。なるべく早く事件を解決してすぐ遊べるようにしてあげるからね」

「本当? 約束だよ!」

「ああ、任せて!」


 事件のすぐ後、この子を含む子供達から事件当日の様子について再度聞き取りをした報告書を読んだけど、有力な手がかりは書かれていなかった。いまさらこの子に聞いて事件を思い出させる必要もないか……。


「それじゃまたね」

「あ、こないだのお兄さんにも言ったけど、犯人は変な声だったよ」

「……うん、聞いてるよ。危ないから家の中で遊んでね」

「はーい! またねー!」

「誰と話してるの!!」


 男の子の話し声を聞いて、母親が血相を変えて飛び出て来た。また不審な男が来たと思ったようで睨みつけられたけど、僕だとわかるとペコペコとお辞儀をしていた。

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