[ 014 ] 採掘所キーゼル
「ここだよ。採掘所キーゼル。俺の働いているところさ」
見上げると大きな入り口の上に巨大なツルハシが飾られている。どうみても採掘やってますと言わんばかりの存在感だ。
「ロイエ、入って入って。今の時間ならみんな出払ってるから」
「お、お邪魔します……」
中へ入ると壁には無数のツルハシや作業着が掛けられているが、広いフロアには多数の丸机に丸太を切っただけの椅子が並べられ、まるで居酒屋だった。
「あら、ハリルベル。どこ行ってたのよ。親方が怒ってたわよ」
バーの下からジョッキを持った女の子がひょっこりと顔を出した。ピンク色のショートカットで横を編み込んでいる。活発な張りのある声と、大きめの瞳が印象的な子だった。
「だよね……。ごめん、エルツ」
「私に謝ったって仕方がないでしょう。親方ー! ハリルベル帰ってきたよー」
エルツと呼ばれた女の子は、僕が心の準備をする暇もなく親方を呼んでしまった。どうしよう。何を言おう。
「そんないきなり呼ばなくても……」
「ダメよ。帰ってきたらすぐ呼べって言われてるんだから」
「ああ?! ボケナスが帰ってきただとぉおお!?」
地鳴りのような声を響かせて、店の奥から現れたのは、エルツと同じファンシーなピンクの髪をした大男だった。
「お、親方……」
「テメェ、仕事サボってどこ行ってやがった!」
親方はピンク色のおさげをゆらしながら、ズシンズシンと足音を響かせハリルベルを持ち上げた。体格はハリルベルの四倍近い巨大で、腕の太さは本当に同じ人間かと疑うほどの筋肉だ。
「す、すいません! ちょっと野暮用がありまして……」
「はっ、どうせまたツマラねぇ事だろう、聞きたくもねぇ」
「いやー、ははは」
ポイっと床に投げられて倒れるハリルベル。何をやってたか問い詰められないのか、それはそれで助かるけど……。ハリルベルは信頼されてるんだが、されてないんだか……。
「まぁいい。無事で帰ってきたなら。罰として明日までに、三番のクズ岩を石場まで運んでおけよ」
「げっ! 最悪」
「なんか言ったか?」
「いえ、わーい。嬉しいなぁ」
ガックリと項垂れるハリルベル。よほどクズ岩とやらをを運ぶのが嫌なのだろう。大変なのかな?と首を傾げていると、親方の視線が僕に飛び火した。
「なんだ? そこのちっこいやつは」
「あ、えーと、親方。この子は……」
ドシンドシンと店を揺らしながら親方が近づいてくる。親方の後ろでハリルベルがものすごい勢いで首を横に振って手をバツにしているのが見えた。大人しく従えってこと?!
「ちょっとこっち見ろ」
親方の赤い瞳が、鋭い眼光となり突き刺さる。その威圧感は凄まじく、蛇に睨まれた蛙というのこう言う事なのだろうと痛感した。
「ふーむ。ん? なんだこりゃ。ちょっと見せろ」
親方が僕のズボンの裾をちょこんと摘むと持ち上げて、足枷を凝視した。
捕虜だった事がバレちゃったかなとか、いろんな心配をしていたら、親方は僕の足の激重の足枷を握ると、魔力を練り始めた。
「……ドルック」
その瞬間、足枷にビキビキとヒビが入り……粉々に砕け散った。
「うぐっ……」
「……ふん。足腰はなかなかだが、腕がヒョロすぎだ。うちじゃあ使えねぇな」
「え?」
「親方待ってくれ。ロイエを、この子をここで雇って欲しいんだ!」
「ああん?! なんで俺様がどこぞの馬の骨かもわからねぇ奴を雇わなきゃならねぇんだ!!」
親方の怒号でハリルベルが吹き飛びそうだ。そして親方の言ってることはもっともだった。僕が親方の立場なら同じことを言うと思う。
「そんな……俺の時やグラナトの時は雇ってくれたじゃないか!」
「はっ! そんなこったろうと思ったぜ。どうせ、お前がまたどっかで拾ってきた孤児だろう。残念ながらうちはもう定員オーバーだ。残念だったな。他を当たれ」
マズいかも……。親方のところで雇ってもらえれば身分と住む場所とお金の心配が無くなり、家族を探せるって話だったけど、その前提が崩れてしまう。
「待ってくれよ」
「んじゃお前が辞めて、こいつと交代するか?」
「そ、そんな……」
「いいか? 明日の朝までに三番のクズ岩の移動やっておけよ」
それだけ言い残すともう話すことはないとばかりに、親方はまたズシンズシンと店の奥へと戻っていった。
「ハリルベル。大丈夫だよ。この街は広いからどこか別の働き口を見つけるよ」
「ロイエ……ごめん。こんなはずじゃなかったんだ。親方はなんだかんだ言って雇ってくれると思ったんだけど……」
「良いって、ここまで連れてきてくれただけでも本当に感謝しているんだ。これ以上迷惑かけられないよ」
「そうは言ってもロイエ、一文無しだろ? 金を貸してやりたいけど、俺も貸せる金が無いんだ」
それでも、これ以上ハリルベルの厚意に甘えるのは申し訳ない。だけど、この街の地理もよくわかってない僕が、果たして職を探せるのだろうか。
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