[ 052 ] 二番坑道・前半
「思ったより暗いな……」
「足元にも気をつけましょう」
魔力で光るランタンをそれぞれ腰につけて坑道を進んでいく。坑道の入り口付近は元々整備されていたので、真ん中には岩を運ぶためのトロッコのレールが敷かれていた。
「あの……いまさらなんですが、クルトさん。俺はキーゼル採掘所で働いてる冒険者のハリルベルと申します。今回討伐クエストのリーダーをやって頂いてありがとうございます! その若さで練度★四だなんて尊敬に値します!」
ハリルベルが律儀に自己紹介をしているが、クルトさんは「確かに練度★四だけど、ブルーポーション大量買いでブーストしただけなんて言えない」って顔で、明後日の方向向いてる……。
「む。右から二匹来ます。そのさらに奥に三匹」
坑道に入ってすぐにわかった事だけど、これだけ視界が悪い中、 ハリルベルにはリーラヴァイパーの位置をなんとなくだけど、感じるらしい。
「そういえば、ルント湖でブラオヴォルフの群れに襲われた時も、 ハリルベルはブラオヴォルフの姿が見える前に気付いてたよね。なんで?」
「俺もわからないだけど、なんとなくわかるとしか」
「……それ、練度が上がる兆候かもしれないな」
リーラヴァイパーを片付けながら会話できるほどこの陣形に慣れてきた。訓練のかいあって砂の兵士は剣を自在に振り回して次々と倒している。
倒して魔石にしたら、クルトさんが拾って食べる。
この光景を初めて見た時、 ハリルベルはめちゃくちゃ引いていた。最初の尊敬の眼差しはどこに行ったのか。
「練度が上がる前って、感覚が鋭くなるんですか?」
「練度が上がる前は、体内の魔力が普段より高くなるんだ。それでモンスターが感じやすくなるんだと思う」
リーラヴァイパーを倒しながら、クネクネとした坑道を進んでいく。
「なぜ魔力が高まるとモンスターの居場所を感じやすくなるんですか?」
「うーん。オレの仮説だけど、モンスターってなんだと思う?」
「穢れから発生したモノと聞きましたけど」
ハリルベルを振り返ると、首を縦に振っている。よくわからないけど、僕もそういうものだと思っていた。
「ふふ、穢れってよく言われる説だけど、抽象的すぎだと思わなかったかい?」
「左から四、上から三匹来ます」
砂の兵士が、機敏な動きでリーラヴァイパーの注意を惹きつけながら、次々と倒していく。
「じゃあ穢れって何?って話だよね。オレの仮説はこうだ。モンスターは、この星が人間を殺すために生み出したって説だ」
「星が? 人間を?」
唐突なその仮説に、どう返したら良いのかわからなかった。 ハリルベルも首を傾げている。
「えーと、もしその仮説が正しいのなら、モンスターは倒すと魔石になる。魔石を食べると魔力の最大値が上がる。つまり、モンスター=魔石=魔力の構図って事ですか?」
「上です!」
上から落ちてきたリーラヴァイパーを、砂の兵士がひらりと飛び上がり斬り捨てる。
「あくまで仮説だけどね。じゃあ誰の魔力って話なる。世界中に、モンスターを……魔力を溢れさせるなんて、この星くらいしか無理じゃ無いか?とね」
「二人共! 挟まれてる!」
ハリルベルの声に反応して、砂の兵士が剣を構える。 ハリルベルは後ろを警戒しいつでも戦えるように臨戦体制をとった。念のため僕も宝剣カルネオールを構える。
「前方から八! 後方から十二!」
合計二十匹。いくらなんでも多すぎる。それにいつのまに背後を?! 入り口はマスターと親方が見張っているはずなのに!
「クルトさんどうしましょう。まずは数の少ない前方からやりますか?」
「いや、前方はさらに先に増援がいたらまずい。まずは後方からだ! チェンジ!」
クルトさんの掛け声で、前衛との後衛を瞬時に入れ替えた。
砂の兵士の前にはリーラヴァイパー十二匹。 ハリルベルの方には八匹。砂の兵士がリーラヴァイパーの群れに飛び込み次々と刺し殺していく。
「ヴェルア!」
ハリルベルの剣から出現した炎が、リーラヴァイパーの群れを襲うが、射程が全く足りていないし、火力も足りない。しかし、これで良い。
「あと三! 持ち堪えてくれ!」
「くっ……ヴェルア!」
砂の兵士が、後方最後のリーラヴァイパーを倒すと、すぐさま「チェンジ!」の掛け声で砂の兵士と ハリルベルの位置を交代した。
「下がれ!」
今度は砂の兵士が八匹のリーラヴァイパーを相手にする。疲れを知らないダメージを負わない砂の兵士だから出来る芸当だ。
後方からの危険が去った事で、 ハリルベルがブルーポーションを飲んで魔力を回復させる。
僕は万が一の場合に備えて宝剣を構えているだけだ。何もして無いように見えるが、砂の兵士の持つ剣のために僕の範囲四メートルから出ないように調整しつつ、いつでも回復やポーションを使える位置を取らなくてはいけない。
意外と見なきゃいけない、気を配らないといけない事も多い。ただ敵が一方向からの攻撃になれば、あとは必勝パターンだ。砂の兵士で蹴散らせれば確定で勝てる。
「ふぅ……いまので六十匹くらいか」
「ちょっと驚きましたね」
「ああ、知能指数が低いって話だったが……。連携取ってきたな……何か嫌な予感がする……」
「クルトさん! 前方に十……!」
「やはり控えていたか……」
「いや、なんだこの大きさは……まさか」
ハリルベルの発言を聞いて、すぐさま撤退を叫んだクルトさんだったが、その決断ですら遅かった。
坑道の壁を溶かして、僕らの前に二メートル近い巨大なリーラヴァイパーが現れた。
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