[ 053 ] 二番坑道・後半

「な……!」


 なんて大きさだ。子犬ほどだったリーラヴァイパーが可愛く見える。小型と同じく、紫色の巨体に入った白のライン、異様に発達した頭と凶暴な牙は、軽く人間を丸呑みできそうな大きさだった。


 しかし、幸い陣形的には、 ハリルベル、僕、クルトさん、砂の兵士、ボスリーラヴァイパー、リーラヴァイパー十匹と、砂の兵士を盾に使えば、問題ないかもしれない。


 その考えはクルトさんも同じだったらしく、砂の兵士を操ってボスリーラヴァイパーへ攻撃を仕掛けた。ここで倒しておかないと街に甚大な被害が出る。倒せるなら倒しておきたい。


「後方は敵影なし!」

「わかった! 応戦しよう!」


 ボスリーラヴァイパーは思ったより動きが鈍い。尻尾による攻撃と噛みつきくらいしかなく、知能指数はやはり低いままだった。


 砂の兵士の攻撃も次々と決まるが、皮膚が厚すぎて見た目よりも攻撃が効いていない気がする。


 もう一つ心配もある。魔石の効果だ。


 これまでの事から、恐らく魔石を食べる効果は魔力最大値を永続的に伸ばすのではなく、一時的に最大値が増えると解釈した方が良い気がする。


 つまり使ったら無くなるエクストラゲージみたいなもの。それに薄々気付いてるからこそ、クルトさんは魔石を拾っては食べているのだろう。


「クルトさん! 右脇から二匹抜けてきます!」

「わかった!」


 砂の兵士が僕らの前を飛び回り、ボスリーラヴァイパーの攻撃を避けながら、小型リーラヴァイパーも仕留めていく。


「小型あと三匹です!」

「よし! いけるな! 先に小型を倒す!」

「あ! クルトさん! そっちは!」


 僕が忠告するのが間に合わず、砂の兵士がジオグランツの有効範囲外へ駆け出してしまった。


 とたんに剣の重量が元に戻り、バランスを崩した為にフェルスアルトファーラーが強制解除され、砂の兵士が崩れ落ちた。


「しまった! 退避!」


 クルトさんの判断は早かったが、それ以上に敵の判断も早かった。目の前の敵がいなくなるや一番先頭にいたクルトさんへボスリーラヴァイパーが襲いかかる。


 すぐにフェルスアルトファーラーを発動させたいが、連続発動制約で十秒間は再発動はおろか他の魔法も使えない。それは僕も同様だった。


「ヴェルア・オルト!」


 後ろに退避したクルトさんとは逆に ハリルベルが炎を纏った剣で切り込む。


「時間を稼ぎます! その隙にもう一度!」

「すまない!」


 やはり戦闘時の十秒は長い。それよりも剣がボスリーラヴァイパーの後ろにある状況をどうにかしないと、僕もジオグランツを使えない。


 砂の兵士を出しても、この位置から剣を取りに行くと完全に有効範囲外で、砂の兵士の維持は出来ないだろう。かと言って、 ハリルベルの横を抜けて取りに行くにはまだ残っている小型のリーラヴァイパー三匹が邪魔だった。


「クルトさんあの剣は諦めて、僕の剣を使いましょう」


 砂の兵士の使っていた剣は、長さはあるがボスリーラヴァイパーにはあまり効いている感じがしなかった。刀身は短いが宝剣カルネオールなら貫けるはずだ。ジオグランツの再発動出来ない状態では提案出来なかったが、いまならこれが最善だ。


「ヴェルア・オルト!」


ハリルベルの魔力も相当無理をしている。基本的に ハリルベルの魔力はヴェルア・オルト2回が限界だった。クルトさんの持ち込んだブルーポーションで凌いでいるが、ポーションも残り少ない。


「あと三秒!」


 なんとか間に合う。その時だった。


  ハリルベルが戦闘に集中する事で、僕らは周囲への警戒を怠っていた。


「なん……だと」


 クルトさんと僕の背後……入り口からもう一匹のボスリーラヴァイパーが現れた。

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