[ 187 ] 旅立ち

 翌日、旅立ちの日の朝は何人か南門まで見送りに来てくれた。


「ロゼ! ロイエをよろしくね!」

「え、あ、はい……っ」

「勝負はまだ決まって……あれ? なんかロゼとロイエ、近くない?」

「そんなことないですわ」

「え、待って? 嘘でしょ?」

「さ……さて、ロイエさん行きましょうか」

「待ちなさいよー! 何かあったでしょ! 白状しなさい!」

「なんにもないですわー!」


 ロゼがレオラに首を絞められているうちに、マスターのオスティナートが声をかけてきた。


「ロイエ。お前にはいろいろと助けられたな」

「いえ、僕の方こそ学んだことが多くありました」

「ロイエさん、Dランク冒険者として恥じない行動をお願いします」


 ハルトスコルピオンの騒ぎのあと、僕のギルドカードは更新された。重力魔法は練度★4になった程度ではランクは上げられないらしいが、それ以外にもクエストを数多くこなしたことと、ボスハルトスコルピオン討伐によりマスターの権限で上げてくれた。


「回復魔法の事が勘定出来れば余裕でCランクなんだが、まぁ我慢しろ」


 Cランク以上は他のギルドマスターの推薦も必要らしく、僕の現在の表向きの実力だとDランクでも異例らしい。


「あのロイエさん、シュテルンさんに会うことがあったらこの手紙を渡してくださいませんか?」


 グイーダが小さく折りたたんだピンクの手紙を手渡してきた。もうシュテルンはここには戻らない。それはグイーダも感じているんだろう。この手紙はグイーダの気持ちが詰まった手紙だ。


「はい、絶対に渡しますね。シュテルンさんには彼なりの何か事情があったような気がします」

「私もそう思っています。私たちを殺すことが目的だったら、いつでもできたはずですし」


 そうなのだ。フィクスブルートから魔力を取るだけなら、いつでもできたはずだし、あんな手間の込んだことをする必要はない。きっと何か事情が……。


「ロイエ! 早くしろ! たこ焼きが俺を呼んでる!」


 店長が馬車から顔を出してせかしてくる。よほどたこ焼きを調理するのが楽しみなようだ。聞いた話によると、店長は生まれたからこの街を出たことがないらしく、未知の料理との出会いも楽しみにしているらしい。


「ピヨもたこ焼き食べたいピヨー!」

「だよな?! お前も食いたいよな?」


 今朝は喋るピヨに驚いていた店長だったが、食いしん坊という点で気が合ったのか、すっかり仲良しだ。幽霊屋敷を占拠してた幽霊の正体はピヨなんだけどな……。しかも、店長がこの街を出るならピヨはあの屋敷を出る必要なかったんじゃと思ったが、それは結果論か……。


「ロゼ! いい加減……白状しなさーい!」

「ごめんなさい! グリーゼル!」

「ああ?! 足が! これ解きなさいよー!」

「ロイエさん! 行きましょう!」

「う、うん! みんなありがとう! またね!」

「ロイエー! ロゼを泣かしたら承知しないから!!」


 ロゼの手を取ると、ギルドの面々に別れを告げて僕らは馬車へ飛び乗った。


「ジオグランツ!」

「フリューネル!」


 軽くなった馬車はピヨの風魔法で加速すると、フォレストへ向けて軽快に走り出した。

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