[ 163 ] 貨物船
「おい! その荷物はこっちだ!」
港に近づくと、男達の活気ある声が聞こえてきた。
「わぁ、大きいね」
「あー、アーバレストですか。うちの会社でもよくお世話になっています」
アーバレストと呼ばれた船は、真っ白い帆船だった。あまり船は詳しくないけど、確かキャラック船という種類の輸送をメインとした船だった気がする。
「全長五十メートルくらいかな?」
「いえ、六十メートルですわ。基本的に輸送をメインとした構造でして風魔法で航行致します」
そうか、帆船だけど風魔法があるから前世よりも遥かに早い速度が出るのか。よく見ると船の中に重力魔法使いがいるらしく、ふわっと荷物が浮かぶと港にゆっくりと降りてきた。
「オラオラオラー! 次ぃいいい!」
デザントのマッチョな男性達も、重そうな荷物を軽々持って運んでる。恐らく火魔法の練度★2アングリフで筋力を強化しているのだろう。
「あ、レオラさんですわ
ロゼの指差した方向へ視線を向けると、船から降ろされた荷物を浮かせて別の場所に運んでいる姿が見えた。仕事の邪魔をしちゃ悪いから声をかけるのはやめておこう。
「おや? ロイエ君じゃないか」
港の仕事を見学していると、市長のフォルクが声をかけてきた。
「市長。こんにちは」
「どうかね? 入船は初めてかい?」
「ええ、こんなに大きな帆船が入ってくるんですね」
「あれはアーバレストという商業船団の船だ。各町の商会がお金を出し合って運営している輸送船でね。フォレストを除く、ナッシュと王都、デザントにアクアリウム、それとヘクセライを行き来しているんだよ」
「なるほど……」
市長と話し込んでいると、服の袖をツンツンとロゼに引っ張られた。あ、そうだ手紙……。
「市長、こちらナッシュにあるフリーレン商会のご令嬢、ロゼ・フリーレンさんです」
「おお、噂には聞いたことがあるよ。なんでも凄腕の商人という話でどんな豪傑かと思ったらこんなに、可愛らしいお嬢さんだったか。どうも市長のフォルク・オックパートです」
フォルクが手を出すと、ロゼさんと握手を交わした。
「ロゼです。ナッシュの市長にはお世話になっております」
「いえいえ、弟は少し抜けたところがありますから、フリーレン商会に支えて頂いている事は最大の幸運です」
「そんな事ありませんわ。あ、本日はお渡ししたい物がございまして……。こちらフォレストの市長アルノマールからの親書になります」
ロゼはポーチから手紙を取り出すと、フォルク市長へと手渡した。
「ふむ、あの女からか……嫌な予感しかしないが……」
手紙を開いて読む市長の表情が、少しだけピクっと動いた。
「ペンと紙を」
市長がそう呟くだけで、脇に控えた秘書の女性がボードと筆記用具をサッと取り出して渡した。
市長はサラサラっと手紙を書く横で、秘書が封蝋のために蝋をスプーンの上で温めて、受け取った手紙を封筒に入れて市長の印で封蝋を行った。
「……よし、これをアルノマール市長に至急渡してくれないか?」
「かしこまりました」
神妙な顔で渡された手紙を受け取って、ロゼがポーチは仕舞うと同時に、遠くから張りのある声で僕の名前が呼ばれた。
「あ!! ロイエ君!」
相変わらずの坊主頭にねじり鉢巻を巻いた。港長のポルトが駆け寄ってきた。
「いやー! すまない! ギルドからどっちか一人しか派遣出来ないと言われて、勝手をしてってるレオラに頼んじゃったんだ」
「いえ、元々レオラが担当してた仕事なので、大丈夫です」
「そうかい? そう言ってくれると嬉しいよ」
今度入船がある時は、報酬奮発してくれるって話だし、それに期待しておこう。
「あれ? 今日は外に出てて良いのかい? 出れないと聞いたけど」
「ああ、ずっとギルドに篭っていたので体が鈍っちゃって……午前中だけ外出の許可を貰いました」
「そうか、せっかく天気も良いしな。おや? 今日は肩に鳥を乗せてないのかい?」
「ピヨですか? 今日はピヨも外で遊んでるみたいです」
「へぇ賢い鳥だねぇ、どこで見つけたんだい。最初に港に来た時には連れてなかっただろ?」
やけにグイグイ来るな……。
「あー、えっと……」
「ポルト、そろそろ荷物の確認をしたいんだが」
回答に困っていると、市長が話に割り込んでくれた。
「え? あ、そうですね。フォルクの旦那。やりましょうか」
「ああ、私も仕事が推してるからな早いところ頼む。ロイエ君、ロゼさんまた会おう」
市長が手を振りながら、秘書とポルトを連れて事務所の方へ去って行くのを見て少し安堵した。ピヨのこと、やけにポルトは聞いてきたが、どんな意図があるのだろう。
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