[ 162 ] 市長への手紙
「ここが市役所です」
役所は西側の中でも歴史が長く、市民からも大事にされている場所である。
前世だと役所なんて引っ越しの時くらいしか来ることはなかったけど、この世界では街に関することはほぼ全て役所で行っているため、ひっきりなしにひとが出入りしている。
「こんにちは、冒険者のロイエです」
「昨日この街についた冒険者のロゼです。フォレストのアルノマール市長からの親書をお持ちしました」
確かキャロルという名前の受付嬢だったと思う。僕の事を覚えていたらしい。
「あ、ロイエさんこんにちは。ロゼさん初めまして、あいにくですが市長は入港日のため港で公務をしておりまして……」
あー、前回グイーダさんと来た時もそうだった……。そうだよね。今日は入船があるからレオラも仕事してるんだし、もっと早く気付けばよかった。
「お預かりする事も可能ですが、お急ぎであれば港に直接持って行って頂けると幸いですが、いかが致しましょう」
ロゼに視線を送るとコクコクと頷いている。
「この後は港に向かう予定だったので、直接渡すことにします」
「そうですか。かしこまりました」
「いえ、お仕事中にお邪魔した」
「これがお仕事ですので……あ。ロイエさん少しお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「はい?」
「ギルドから出されていた騎士団への協力要請ですが、やはり厳しそうです。先週アクアリウムに向かったばかりですので、あちらもあちらで忙しいらしく……」
「そうですか」
「えぇ、実害が子供一人で、なおかつ死んだわけでもないならと、軽くみられてしまって」
まぁ確かに被害だけで見ると誰も死んでいないけど、毒殺しようとしてる人物がうろついてるなんて、穏やかな話じゃないと思うけど……。
「明日ラッセさんがこちらに顔を出して頂ける予定なので、その時に伝える予定ですが、速報としてギルドへ戻るついでに伝えて頂けると幸いです」
「わかりました」
キャロルさんなりの優しさなんだろう。情報をもらった事で、市役所に来たことが無駄にならずに済んだ。
市役所を出て西側から港へ向かって入り組んだ道を歩いていると、ロゼが立ち止まった。
「ロゼ?」
「あの、ロイエさん……。わたくしを酷い奴だと蔑んでも嫌われても構いません」
「どうしたの?」
「えっと、昨日ギルドについてラッセさんから、事件の報告書には目を通しましたが……」
その報告書は僕も目を通した。基本的には僕が知っている内容と同じだったけど、犯人は黒いフードを被った男で、顔はわからないし、どんな装備だったのかもわからないと記載されていた。
「先ほどの男の子の仰っていた、変な声という情報は報告書にありませんでしたわ」
そう、それは僕も引っかかった。
あの報告書を作ったのが市役所の人なのかギルドの誰かなのかわからないけど、明らかに情報の漏れがある。それがミスなのか故意なのかで、全く話は違ってくる。
「あの子……『こないだのお兄さんには言ったけど』そう言ってましたよね?」
「……あ」
「小さな男の子が、お兄さんと呼ぶような人だと限られてきませんか?」
「そうですね……。ちょっと僕の方で探ってみます」
「はい、新参の私には荷が重くて……。よろしくお願いします」
報告書をまとめたのはたぶんラッセさんな気がするが、情報収集を行なったのが誰なのか……。役所でキャロルさんに聞いた方が良いか? いや、これは最悪の場合、情報を隠蔽している人物が、役所またはギルドにいるって疑ってかかる話だ、受付嬢のキャロルさんには荷が重いだろう……。
「この件は、僕とロゼだけの秘密にしておこうか」
「はい」
あまり広げすぎて、毒男の耳に入ることがあれば何が起こるかわからない。慎重に扱った方が良さそうだ。
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