[ 090 ] 合流

 ルヴィドとガンツを追って正門近くにまでくると、正門の向こうにモンスターの影が見える。ざっと数にして五十体は超えているように見える。辺りは避難が済んでいて人の気配はないのが幸いだ、


「ルヴィドさん! 教えてもらいますよ!」

「そうですね。あの数を我々だけでやるのは骨が折れます。応援が来るまでお話しましょうか」


 喫茶店の前で立ち止まると、辺りを警戒するガンツと、優雅に椅子に座るルヴィド。モンスターが来るまでまだ少し時間がある。次いつ聞けるかわからない。聞けることは聞いておこうと僕も座った。


「まず、ロゼさんはどこですか」

「ロゼさんは封印教団が借りてる樹上の街アストのメルダーホテルです。事情を話して待機してもらっています」

「事情? ロゼさんは納得して捕まっているというんですか?!」

「そうです。私がロゼさんにお願いしました。モンスター発生装置を抑えるために手伝って欲しいと」


 意味がわからない……。


「ちゃんと説明してください」

「モンスターが大量発生する前には前兆地震がある。これは自然に発生しているなら仕方ありませんが、フォレストではここ一カ月で、グリズリー大量発生、リンドブルム大量発生、シルバービー大量発生、そして今のこの騒ぎです」

「自然発生ではなく、人為的に仕組まれたと……?」

「そうです。怪しいのは回復薬の需要を上げようとしたアルベルタ商会か、護衛の仕事が欲しいギルド。どちらかが関与してると睨んだ私たちは、二つに網を貼りました」


 もし人為的に起こしているなら、確かに怪しいのはその二つだ。権力者という意味では市長も権力を持っているが、前市長が死んだために急遽押し込められたアルノマールは、そこまでの恨みや執着を持つとは考えられない。


「ギルドには信者のガンツ君を起き、受付の女の子とギルドマスターのルーエさんを監視してもらいました。問題はアルベルタ商会です。ガードが固すぎて内情が探れませんでした」


 一応商会だからな……。僕たちも中には入れてもらえなかった。


「それで怪盗ノワールなんてものを作って、アルベルタ商会を揺さぶり、荷物や人の動きを確認してたのか」

「正解です。今日のシルバービーの騒ぎの少し前、アルベルタ商会のブーデは自室に閉じこもりました」


 ギルドのメンバーか、アルベルタ商会のブーデか、選択肢を迫られて人員の少ない封印教団は、街に来たばかりの僕らを利用したのか。


「ブーデが自室でモンスターを呼んでいる可能性を追った私たちは、ロゼさんを使い君たちにアルベルタ商会を見張らせることにしました。あとは、ご存知の通りです」


 その後、僕らがブーデさんと話してる時に地震が起こり、ガンツはルーエが地震を起こしたのを確認し、合図の花火を打ち上げたと……。


「ロイエ! モンスターは?! なんでまったり座ってるんだよ!」

「ロゼさんは見つかりましたか?!」


 ルヴィドの話を聞いていると、ハリルベルとリュカさんが走ってきて怒られた。モンスター討伐も大事だがロゼさんも所在も大事だ。


「ごめん。ロゼさんは封印教団の取ったホテルにいるらしい。本人も納得してのことなので後で迎えに行こうか。まずはあのモンスターをなんとかしないと……」


 正門に視線を向けると、のっそのっそと動く熊の様なシルエットが見える。最初に発生したというグリズリーか?


「まずいですね……。よりによってカルミーンベアですか」

「ルヴィドさん、あれはどんなモンスターですか?」

「世にも珍しい遠距離系のヴェルアを使う巨大な熊です」


 魔法を使うモンスターがいるなんて……。ルヴィドは集まったメンバーの属性と練度を確認すると、ちょっと厳しいかもしれませんねと、珍しく弱音を吐いた。


「ここに集まったメンバーに水魔法使いがいないのと、近距離系が多すぎます。カルミーンベアは遠距離のヴェルアを使いつつ、近づいた敵を強力な爪で攻撃してくる厄介な相手です。遠距離魔法で駆逐するのが楽なのですが……」

「今ある手札でやるしかないと思います」


 作戦を練っていると、正門近くにまでカルミールベアの鳴き声が響き渡った。


「ゴアアアァアアア!!」


「時間切れのようです。慣れた戦いをしましょか。ガンツ君、私ときてください」

「おっす!」


 ルヴィドとガンツは正門の左側へ向かって走り出した。


「ハリルベルは、リュカさんと組んで右側から攻めて! 恐らくヴェルアは効きにくいと思うからアングリフで行こう! リュカさんは、以前僕に使った空気の拘束でカルミールベアを拘束、ハリルベルが倒す作戦で!」

「わかった!」

「はい!」


 作戦を確認するとハリルベルとリュカが正門の右へ向かって走りだした。僕の重力圏内だと近接するハリルベルやリュカさんまで重力の効果がかかってしまう可能性がある。僕は単独で正面へ真っ直ぐ駆け出した。

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