[ 026 ] 中央地区へ行こう

 初日は迷子の冒険者とテトの相手をして、東側のアルバイト事情を見るだけで心が折れて終わった。


 翌日からどうするか考えたが、東側では富裕層しか雇って貰えず、中央地区は王国騎士団が目を光らせている可能性があるため、結果的に僕は西側から移動が出来なかった。


「はぁー? 金がなくて死にそうだ?! うちこいよ! クソ安いけど雇ってやるよ! ロイたん!」

「いや、僕の名前はロイエ……」


 テトにあった次の日から五日間。ジャックの飲食店で臨時アルバイトとして雇ってもらえることになった。


 日給は銀貨二枚。前世で言うと日給二千円くらい。なお労働基準法などはないので、労働時間は朝から夜の客が帰るまでとアバウトだ。


 仮に残り十三日フルで働いても、金貨二枚と銀貨六枚……。全く足りない。それでも仕事が終わった後は、重力魔法を解放させるために ハリルベルの集合住宅の屋根に上り飛び降りてみたけど、何も成果かが無いまま五日間が過ぎようとしていた。


 早くも残り八日。手持ちの資金は銀貨十枚、つまり金貨一枚になったけど、間に合わない……。


「ロイエ! 朗報だ!」


 ジャックの店の仕事を終えて、クタクタの体で家に帰宅すると、なんたがテンションの高いハリルベルが出てきた。


「どうしたの……悪いけど僕は疲れてて」

「いいから聞けって! 中央騎士団がナッシュを出たらしい!」

「……本当?」

「ああ、親方が街の役人と話してたから間違いないと思う!」

「このままジャックの店で働いてても、お金は貯まりそうも無いんだろ? 中央地区へ行ってみたほうがいい。俺もたまにしか行かないけど、とにかく店の量が半端無いから何か仕事はあるはずだよ」

「そんなに栄えてるんだ……」


 それを聞いて少しワクワクした。すぐにジャックの店に戻り明日は休ませて欲しい事を伝えると「エルツの情報よろしく!」と送り出してくれた。


――こうして九日目の朝、僕は中央地区へ向かった。


  ハリルベルが調べてくれた情報によると、やはり盗賊団から逃げた日、王国騎士団はナッシュまで来ていたらしい。彼らからしたら『不死身の盗賊団』の中核を成していた回復術師は、共犯者と思われても間違いじゃない……。


 それに、盗賊団によって被害を受けた人から見たら……僕は犯罪者の一味でしか無い。こうして生きている事すら、本当は許されない事なのかもしれない。


 この四年間、それを考えない日はなかった。


「君。ちょっといいか?」

「え?」

「ここはどこだ?」


 顔を上げると、黒マントに黒フードを被った怪しい出立ち……マスターの言っていたよく迷子になる冒険者。


「……ミア・ブリッツさん?」

「なぜ俺の名を知っている……貴様、何者だ」


 ミアは無駄のない動きで後ろに下がると、マントの中の剣に手をかけて構えた。ゾクっとするほどミアの冷たい青い瞳は、僕を捉えて離さない。


「ま、待ってください! えっと僕は! ギルドマスターの知り合いです! ほら! こないだ道案内をしました! 魔法の街?ヘクセライ?の話をしたり!」

「ああ、あの時の子か……。貴様、案内している最中にいなくなっただろ……覚えているぞ」


 チャキ……と刀の鍔鳴りの音が聞こえた。そっちが勝手にいなくなったのに!


「冗談だ……。俺はなぜか道がよくわからなくなるんだ。迷惑を掛けたな……」

「今度はどこを目指しているんですか?」

「だから、魔法の街ヘクセライだ」

「うーん、僕もどっちにあるのか知らなくて……」


辺りを見回すと、既に中央地区に入っており一軒の道具屋が視界に入った。軒先には世界地図が売っている。


「あ! あそこの道具屋の軒先で、地図売ってますよ!」


「すまないが、一枚買ってきてくれないか?」


 ミアは視線を床に落として暗い表情をしている。よほど言いにくいのか、問い詰めると白状した。


「すぐそこですけど……」

「実は、俺は本当に方向音痴なんだ……。俺は自分を信じない……そこまでいけるのかわからんからな」


 そんなに?! ほんの十メートル程度なのに……。


「一緒に行くのはどうですか?」

「こないだそれで迷子になったから、ついて行くのは危険な気がする……」

「わ、わかりました。買ってきますから、そこから絶対動かないでくださいね」

「ああ、頼む」


 ミアから金貨一枚を受け取ると、道具屋で地図を買って急いで戻ったが、やはりミアは居なくなっていた……。


「絶対動くなって言ったのに……」

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