[ 025 ] テトの事情
路地へテトと同じく裕福そうな洋服を着た男の子が二人やってきた。路地の角に座ってる僕の姿は、どうやら彼らからは見えていないようだ。テトとは顔見知りのようなので、様子を伺うことにした。
「誰がノロマだ! 邪魔が入っただけだ!」
「いいや! お前は、盗みすら満足に出来ねえ雑魚だな」
「だな!」
兄弟なのか二人の子供は、どちらもクリーム色のキノコヘアーだった。兄っぽい方はテトと同じくらいの年齢かな。
「うるせー! 俺だってやる時はやるんだ! 今度は七福屋の宝剣を盗んでやるよ!」
「あーあ、言うことだけはデケーんだよなーいつも」
「デケーんだよなー」
「うっせー! お前には出来んのかよ!」
聞き耳を立てていると、どうやらイジメ……?とは少し違うのかな、あの二人が煽ったせいでテトは盗みをしてしまったように聞こえる。
「七福屋のセキュリティはヤバいぜ? 俺でも無理だよ。もし盗めたらお前のことを認めてやるよ」
「認めてやるよ」
「言ったな! 約束は守れよ!」
「はいはい、じゃーなー雑魚虫野郎」
「野郎」
フーフーと荒い息をしているテトは、落ち着きを取り戻すと僕の方へ来て、床に銅貨三枚を置いた。
「さっきは悪かったな。金は返したからな」
「え、ちょ……」
「人には人の事情ってもんがあんだよ。勝手に首出すな」
そう言い残してテトは住宅街の中へと走って消えていった。お金持ってたんじゃないか……、やはりあの二人にそそのかされてやったのか。何がテトをそこまで動かしているのかわからないが……それは間違ってるよテト。
――テトと別れたあと、東側のお店でどんな募集があるのか探したけど、ナッシュの街はどうやらルント湖のある西側と、富裕街の東側ではだいぶ温度差がある事がわかった。
特にアルバイトの金額に天と地ほどの差がある。一日軽く見ただけでもこれくらいの仕事が募集されていた。
・道具屋の接客が日勤六時間で、銀貨八枚
・公園の清掃が三時間、銀貨五枚
・下水道の掃除が、金貨一枚
・ベビーシッターが、銀貨七枚
全部やれば金貨三枚にもなるけど、応募しなかったのには理由がある。それはこの募集条件のせいだ。
※東側在住者のみ。
恐らく先ほどのような泥棒騒ぎを回避するために予防するために、ガラが悪いと言われてる西側の住人や古くからある中央の人間は排除しようという考えなのだろう。
ハリルベルから聞いたナッシュの歴史だと、現在の中央地区が元々のナッシュの街だった。鉱山を採掘するにつれて奥へ奥へと街が拡大され、中央道を境に西側と東側が誕生した。
街として両方の土地を売り出したが、西側はルント湖が近くモンスターが襲ってくると変な噂が立ち、買い手がつかなかった。東側にはメーア海岸が広がっておりビーチが近いことも富裕層の購買欲を刺激した。
結果として、東側の土地を富裕層が吊り上げてしまい。貧困層は安くなった西側へ多くが移り住んだと言う事らしい。中央には昔から住む者も多く、西側ほどではないにしてもトラブルが絶えない地域だとか。
ゆえに東側の富裕層は、東側の人間しか信用してない。
とてもじゃないが僕のような身分もわからない不審者を雇ってくれるとは思えない。西側か中央で探すしかないか。
こうして一日目は特に成果もなく、 ジャックの飲食店でエルツの苦手な食べ物の情報と交換に夕飯を奢ってもらい。ハリルベルの家に帰った。
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