[ 024 ] 市内散策

「この辺りって話だったけど……」


 僕は朝早くから、街の東側に足を伸ばしていた。 ハリルベルから聞いた話によると、ルント湖に近い西側より東側の方が富裕層が住んでいるらしく、短期の利率の良い仕事が転がってる場合があるとか。


「君。ちょっといいか?」

「はい? なんでしょうか」


 良さそうなお店はないかなと、狭い路地を歩いていると、黒いマントに身を包んだ黒い髪の男性に声をかけられた。


 すごく怪しい……。ポカポカとした陽気の中、黒い長袖に長ズボン……おまけに黒いマント。顔はフードを被ったあるけどセミロングの黒い髪が目にかかっている。


「ここはどこだ、?」

「え……? いや、僕も最近この街に来たばかりで、ナッシュという街ですとしか」

「なに?! ナッシュだと! なんて事だ……」

「ど、どうしたんですか?」

「魔法都市ヘクセライに向かっていたはずなのに……」


 ま、魔法都市?! 行ってみたい……。重力魔法の解放について何かヒントが得られそうだし、僕の回復魔法の練度が七もあるのに、実際にはオルトすら使えない疑問が解決出来るかもしれない。


「おい。ヘクセライはどっちだ」

「いや、だから僕もこの街に来たばかりで知らないんです」

「あぁ、そうだったな」

「ギルドにいけば教えてもらえるかもしれませんよ」

「なるほど、一理あるな……案内してくれ」


 なんか変な人だけどマントの中にチラッと剣が見えたから冒険者なのかな。フードの中でチラッと見えたけど、黄色いダイヤの形をした耳飾りが特徴的だった。


「魔法都市ヘクセライ?っていうのはどんな街なんですか?」

「ん? ああ、ヘクセライか。どんなと言われてもな……建物がたくさんあって人間がいるぞ」


 こ、この人は何を言ってるんだろ……。口下手なのかな。こんな事をしてる場合じゃないんだけど、放置しても後で気になりそうだし仕方ない。


「ちょっと!」

「ん? ああ、すまんすまん」


 少し目を離した隙に違う路地へ入っていくマントが見えて慌てて追いかけた。真後ろを歩いてはずなのにどつやったら道に迷うんだ……。


 まだ東側からギルドへ行く道がわからないので、一度ハリルベルの家まで戻り、そこから階段を降りてギルドは向かった。


「あ、あそこです。あれが……ギル、ド……あれ?」


 いない! またいなくなった! さっきまで後ろを歩いていたはずなのに……。もしかして迷子になりやすい人なのかな、もしかしてじゃないな。探した方がいいのかなどうしよう。


「おや、ロイエ君じゃないか。練度とお金は集まったかね?」

「昨日の今日ですよ……まだです」

「そうかそうか。それよりキョロキョロして誰か探してるのかい?」

「さっきまで道案内をしてたんですけど、気付いたらいなくなっちゃって……」

「迷子……? もしかして、黒いマントを纏って、耳に黄色いダイヤの飾りをしておらんかったかい?」

「え、そうです! その人です!」

「この街に来ておったのか……。なら無視していいぞい。そいつの名前はミア・ブリッツという冒険者でな、すぐ迷子になるんじゃ」


 やっぱり冒険者だったのか。でもすぐ迷子になるんじゃパーティを組んでる人は大変だな……。


「わかりました。僕も彼に時間を割いてる暇はないので助かりました」

「ほいじゃ頑張ってのー」


 マスターは手を振ると、ギルドは戻ってしまった。ドアが空いた時に中が見えたけど、フィーアが珍しく忙しそうに走り回っているのが見えた。


「無駄な時間を食っちゃったな、早く仕事を探さないと……」


 急いで来た道を引き返して、用水路に掛かった巨大な橋を渡り東地区へ向かうと、路地の角を子供が猛スピードで走ってきた。


「どいて!」

「泥棒だ! そいつを捕まえてくれ!」

「え!」


 慌てて子供を追いかけると、すぐに捕まえられた。僕の脚力から逃げるはフィーアじゃなきゃ難しいと思う。


「離せよ! この!」

「お、落ち着きなって」


 子供の腕を掴んで、押し問答していると、店主らしき人が追いついてきた。


「お! 捕まえてくれたか! ありがとな! この野郎、騎士団に突き出してやる!」

「くそっ……」


 き、騎士団?! 前世でも万引きを捕まえた時に協力者として、事情聴取に協力したけど身元確認もされたっけ……。まずい。僕は身元不明の不法滞在者。


「あ、あの! まだ子供ですし……」

「はぁ?! んじゃ、あんたが代わりに代金払うってなら見逃してやるよ」

「何を盗んだんでしょうか?」


 一応、 ハリルベルから「親方がもっとたくさん食えって、お金少し貰ってさ。たぶんロイエに渡せって意味だと思うんだ」って、銅貨五枚だけ貰ったけど……。


「パンだよ。こいつうちのパンを店の中で盗み食いしやがって」

「なるほど……いくらでしょうか」

「銅貨二枚だ」


 渋々、銅貨二枚を支払ったら、店主は「もううちの店に来るんじゃねーぞ」と子供にゲンコツして帰って行った。


「思いっきり殴りやがってあのオヤジ……くそぉ」


 子供……と言っても九歳くらいで十三歳の僕とそんなに変わらないけど、彼は頭を押さえて道端にうずくまった。


「これに懲りたらもう泥棒なんてやめなよ」

「っかよ! バッカじゃねーの! お前! 俺のこと捕まえなきゃ、お前も金払わなくて済んだじゃねーかよ! 余計なことしやがって!」

「な……」


 なんて躾のなってない子なんだ……。いや前世大人だった僕だからわかる。親からの愛情が足りなくて非行に走るのは、どの世界でも一緒のはず。


「ねぇ、君名前は? どこに住んでるの?」

「な、なんだよ。うちに来たって金は無いからな」


 そう言ってはいるが彼の身なりは相当良く、上着やズボンの生地もしっかりしており、南側で見る子供達と明らかにグレードが違う。


「僕の名前はロイエ。子供の頃に誘拐されてずっと盗賊に捕まってたんだ。やっと解放してもらえたら両親も兄も行方不明でさ。お金も家も行く宛もなくてウロウロしてたんだ」

「え……なにそれや、べーじゃん。大丈夫かよ」

「やばよね。良かったら君のことも教えてよ」


 腹を割って離したからか、彼は少し考えた後にボソッと話してくれた。


「……テト。テト・トロッツアルター」

「テトか、いい名前だね。両親はまだ生きてる?」

「当たり前だろ」

「当たり前か……大事にしてあげてね……」

「ぁ……悪りぃ」


 テトは悪ぶってはいるが根はいい子なんだと思う。ちょっとした反抗期。そう見えたが、どうやら違ったらしい。


「おい、何捕まってんだよ! ノロマ!」


 顔を上げると二人の男の子が僕らの前に立っていた。

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