[ 170 ] シュテルンの犯人疑惑
なぜシュテルンさんがここに……。東門の警備をしているはずでは? 当然ラッセさんが指摘する。
「シュテルンさんには、本日東門の警備を頼みましたが?」
「いやいや、もう一週間だよ? 午前中は突っ立ってたけど、もう良いんじゃないかと思ってね」
「勝手な判断は困ります」
「元々門番はいるわけだし、俺たち冒険者がこれ以上護衛に付くのは過剰だと思うけど?」
ラッセさんとシュテルンさんの間で火花が散っているのがわかる。立場的にはサブマスターのシュテルンさんの方が上だけど、管理能力は完全にラッセさんの方が高く、信頼がおける。
「そんな怖い顔しないでよ。大丈夫だって、日中は人通りも多いんだし、それに街の警備は俺らの本業かい?」
「……本業ではありませんが、冒険者は住民からの依頼なくては成り立ちません。街の防犯に務めるのは必要な責務です」
「それに異論ないけど、過剰サービスだって言ってるんだよ」
「ですが、市長とマスターが決めた事で税金から報酬を頂いています。決めた事を勝手に破らないで欲しいという話です」
「その会議、俺は参加してないけどね。わかったって、昼飯食ったらすぐに戻るよ」
そういえばこの二人が会話しているのをあまり見た事がないけど、騎士団長の兄を持ち規則に忠実なラッセさんと、生粋の冒険者であるシュテルンさんでは、根本にある優先度が違う気がする。
「ところでシュテルンさん。せっかくなので、報告書に関していくつかお聞きしたいことがあるのですが」
「ほぉ、なにかな?」
まずい。まだ証拠も集めてないのに、シュテルンの挑発に乗ったラッセさんが踏み込んで聞いてしまう……。止めた方が良いのだろうか……。
バン!!
その時、ギルドの扉を勢いよく開いてレオラが飛び込んできた。
「ロイエ! すぐに港に来て! 毒男が出たの!」
「なんだって?!」
バカな……シュテルンはここにいる。
「休憩所に置いてあった水に毒が仕込まれていて、何人かの男達が飲んでしまったわ! 怪しい黒いフードを被った奴がいたの!」
「わかった! すぐに行く!」
ギルドに置いてある偽薬の箱を手に取り駆け出そうした僕の背後から、ラッセさんの質問が飛んだ。
「犯人はどこですか?!」
「私と港長で西門の方に向かって追跡したんだけど、港長がギルドに知らせてくれっていうから私はこっちに!」
西門ならマスターが控えている。そっちは任せて大丈夫だろう。僕は、僕にしかできない事をやろう。
「わかりました。シュテルンさんはここで待機してください。レオラさんはすぐに南門にいるブリュレさんへ声をかけて、二人で西門に向かって挟み撃ちにしてください」
「それなら風魔法を使える僕が行った方が早くないかい?」
「いえ、マスターに万が一のことが場合に備えて、ここで指揮を取るサブマスターは必要です」
「ラッセさんがいれば十分だと思うけど?」
また言い合いが始まってしまった。シュテルンが白だと確定したわけではない。それはラッセさんも同じ思いのようだ。動けないように何としても引き止めてもらおう。
「ピヨ! 行くよ! ジオグランツ!」
「おっけーピヨ。フリューネル!」
判断を待っているレオラの横を通り抜けて、僕は港へと急いだ。
――港へ着くと屈強な男達が何人も横たわっており、毒を免れた複数の人がどうしたら良いか戸惑っている。症状は男の子の時と同じく手足が腫れと呼吸か。
「十人ほどか……。手の空いてる方! 解毒薬を持ってきました! 飲ませてあげてください!」
港で無事だった男達に声をかけ、次々と偽解毒薬を飲ませると、片っ端から状態異常回復魔法のアノマリーをかけて状態異常を治していく。
「おかしい……」
治りが遅い……。男の子の時はすぐに腫れも引いて元に戻ったのに、明らかに効きが悪い。まったく効いていないわけではないみたいだけど。
男の子で実験して、この一週間で改良をしたのか? 念の為にもう一度全員を回って再度アノマリーをかけると、何人かはすぐに症状が回復してきた。
「よかった……」
「坊主! 解毒薬ありがとうな! もうみんな大丈夫そうだ! いやーよかった」
「あの、何人か治りが遅いようですが……特にこちらの男性が」
「リッツか? こいつはこの港で一番強いから大丈夫だよ。こんな毒程度で死ぬような奴じゃねぇさ」
「そうですか」
みんな治るのに時間差がある。特にリッツという男の人は特に治りが遅い……。何か法則性があるのか?
とにかくギルドに戻ろうと立ち上がった時、ドン!ドドドド!!!と激しい地鳴りと共に、西門の方向に目視できるほどの巨岩が十五メートルほど盛り上がるのが見えた。
確かマスターのオスティナートは土魔法使いだ。西門で戦闘が起きてる。すぐに察した僕は西門へと急いだ。
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