[ 171 ] オスティナートの奮闘

「マスター!」


 西門は、激しい戦闘だったことが一目でわかるほど破壊されていた。家はひっくり返り、押しつぶされ、あちこちに岩が転がっている。


 いくつか拳の形をした岩がある事から、土魔法の練度★5「リーゼファウスアルム」を使ったのだろう。これはトロイがフォレストで使ったのを見たことがある。土を操って巨大な腕を操る魔法だったはずだ。


「ロイエくん、こっちだ!」

「ポルトさん!」


 岩に潰されて半壊した家のすぐそばで、血だらけのオスティナートをポルトが抱えていた。


「何があったんですか!?」

「レッドポーションを持っていないか?! オスティナートが!」


 遠目からはわからなかったが、オスティナートは頭や背中から大量に出血しており、腕や足も腫れている……。これは、例の毒の症状だ。


「オスティナートが俺をかばって!」

「これを飲ませてください!」


 ポーチからただの水が入った偽解毒瓶を取り出すと、ポルトに手渡した。


「オスティナート! 口を開けろ! 飲め!」


 水が口に入ったのを確認すると、無詠唱でクーアとアノマリーを発動させた。


「おお、治っていく! 助かった! ロイエ君! 港にも毒に侵された男達がいるんだ! 行ってくれ!」

「大丈夫です。港で治療してから来ましたので、いったい何があったんですか?」


 土魔法使いであるオスティナートが暴れたにしては、民家まで押し潰されている。とても街を大事にしている彼の戦い方とは思えないが……。


「港で入港の仕事をしていたんだが、昼飯にしようと用意してあった水を飲んだら、バタバタと男達が倒れ始めたんだ!」


 レオラに聞いた話と、僕が現場見た状態と一緒だな。


「すぐに毒男の仕業だとわかって、あたりを見渡すと怪しい黒いフードの男が逃げていくのが見えたからレオラと追いかけたんだ」

「なるほど。それで二手に分かれて、レオラがギルドへ。ポルトさんが西門に追い詰めてマスターと合流したんですね?」

「ああ、そうだ。オスティナートは土魔法を練度★7まで使えるAランク冒険者だが、黒フードの男はそれをさらに凌ぐ土魔法を使っていた」


 練度★7のマスターを、この短時間でここまで痛めつけるなんて……。


「でも、マスターはどうやって毒に侵されたんですか?」


 見たところ、それほど進行してなかったので、症状的には戦闘中に侵された感じだが……。


「うーん、何せ激しい戦闘だったからね。俺にもわからないけど」

「そうですか……」


「ぐはっ!!」

「マスター?!」


 再びマスターの症状が悪化した。手足が腫れて呼吸が苦しそうだ。これは港にいたリッツという男性と一緒だ。アノマリーの効きが悪い……。マスターほどの強い人がなぜ。


 いや……強い人だからか? 練度が高いほど毒が強く作用している? それなら最初の被害者の男の子がすぐに治ったのも理屈が通る……。


 重ねてアノマリーをかけると、少し効いたのか症状が落ち着いてきた。


「とにかくマスターをギルドに運びましょうか、ここで寝かせておくわけにもいきませんし」

「そ、そうだな。俺は港の男たちが心配だから港に戻る。オスティナートのことは頼んだぞ」

「はい! ジオグランツ」


 ポルトと別れると、オスティナートを軽くして瓦礫の山を飛び越えてギルドを目指した。


「ロイエさーん!」


 足場の悪い中、ギルドへ向けて歩いていると、前方からロゼが走ってきた。


「マスター? どうなりました?!」

「マスターが大けがをしていて、治したんだけど毒にもかかっているんだ」

「とにかくギルドに向かいましょう」

「うん。あ、ちなみにブリュレはどうなったかな」


 ロゼに頼んだのは、ブリュレにフォルクからアルノマールへの手紙を届けてもらうことだった。おそらく手紙の内容は、増援や防衛に関する手紙だろう。膠着状態の今のうちに動ける人員を増やしておきたかったけど、まさか今日仕掛けてくるとは……


「ラッセさんから許可が下りまして、すでにフォレストに向けて出発しましたわ」

「そっか……」


 間に合わなかったか。膠着状態ならと思ったけど、既に事態が動いてしまっている中でブリュレを失ったのが吉と出るか凶と出るか……。


「でも、各市長やギルド間は、通信用の道具があったかと思いますが」

「あれは、王国騎士団が傍受できるようになっているからね。内緒話するのは向かないんだ」

「なるほどですわ」


 星食いは王国騎士団の上層部と繋がっている。街の防衛に関する連絡をしたら、それこそ増援が来る前に攻められる可能性がある。


「急ごう!」


 ロゼの魔石装具によるフリューネルでギルドへ足早に戻ると、回復はさせたものの衣服がボロボロで毒に侵されたマスターを見て、みんなの顔が青くなった。 

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