[ 172 ] 謀反
「ロイエさん! マスターの容体は?」
「ポルトさんがレッドポーションで治しましたが、毒にも侵されていて……」
グイーダとシュテルンは僕が回復魔法使いだと知らない、なるべく情報は渡さない方が良いだろう。ここは嘘をついておく。
「この毒、どうやら練度が高いほど治りが悪いみたいで」
マスターの巨体をギルドのテーブルに寝かせると、グイーダさんが濡れタオルやら回復薬やらをたくさん持ってきてる間にシュテルンから質問が飛んだ。
「それで? 毒男はどうしたんだい?」
「僕が来た時にはポルトさんとマスターしかいませんでした」
「おいおい、マスターがまったくダメージを与えられずに負けるわけないだろう。近くに倒れていなかったかい?」
「岩が多くて……物陰に隠れていたかもしれませんが、すみません」
確かに違和感は多い、パタリと消えた毒男。ボロボロのマスター。ずっとギルドにいたシュテルン。
「いえ、マスターが負けるほどの使い手なら深追いは危険です。毒を使うから弱いのかと少し侮ってました。とりあえず市民に死者が出なかったのは、不幸中の幸いです」
「そうですね」
ラッセさんがフォローしてくれたけど、もしかしたら手負の毒男が近くにいたのかもしれないと思うと、マスターの苦労を無駄にしてしまったかもという自責の念が湧いてくる。
「とにかく近くにいるのは間違いないので、三名ほどでチームを作り捜索をしましょう」
「じゃあロイエ君はここにいてもらうとして、俺とレオラ、グイーダで捜索しようか」
ラッセさんの事務能力を考慮するとそれがベストだけど、何か引っ掛かる。果たしてシュテルンをギルドから出していいのだろうか。
「わかりました。レオラさんすぐ出れる?」
「ええ、それは問題ないけど……」
「……ごほっ!」
三人が毒男の捜索に向かおうとしたら、マスターが意識を取り戻した。
「マスター! 大丈夫ですか?」
「あ……ああ。ここは、ギルドか……くそ、あの野郎……」
アノマリーをかけ続けていた効果が出てきたのだろうか。少し手足の腫れは治まってきた気がする。
「マスター、毒男の顔を見たんですか?」
「うぐっ……。ああ、ポルトだ。あいつが毒男だった」
「なんですって……」
ラッセさんが驚くのも無理はない。シュテルンじゃないのか……。ポルトさんは確か水魔法使いのはずだ。風魔法が使えないから、声質を変えることは出来ないし、報告書の偽造をするタイミングもないはずだ。
「ごほっ。それと……」
マスターの視線がシュテルンを見た。
その視線を追って全員の視線がシュテルンに向かう、その刹那。シュテルンが呪文を詠唱した。
「テンペルストザンダジア」
その瞬間、猛烈な強風が吹き荒れ吹き飛ばされた。突然すぎて何が起きたのかわからない。目の前は砂煙で見えず、身体中に激痛が走り打撲や切り傷を負ったのだと感じた。僕はわけがわからないまま、とっさにクーアを唱えて怪我を回復させた。
砂煙が晴れてくると事態を飲み込めた。ギルドの床が捲れ上がり、屋根が吹き飛び、空が見えている。壁も粉々で、まるでこの場に竜巻でも発生したかのような惨状……。こんなことを出来るのは一人しかいない。
「シュテルンさん!」
「……フリューネル・オルト!」
「ぐはっ」
シュテルンの魔法で弾き飛ばされた。遠距離系の風魔法使いは近づくのすら一苦労するのか……。
「ほぉ、流石ラッセだね。あの速度を反応するとは……」
よくみるとグイーダ、レオラ、ロゼが倒れているが、氷の盾がラッセとマスターを守っている。
「シュテルン……あなた! 自分が何をしたかわかっているの?!」
「わかってるよ。だから、やるからにはキッチリ……ね。ヴィベルスルフト!」
シュテルンが繰り出したのは、風魔法の練度★5、連続フリューネルを可能にする上位魔法だ。高速で連続加速出来るこの魔法はリュカさんがカルミールベアで使っていた。
シュテルンが一瞬で間合いを詰めると、腰の剣を抜いてラッセに襲いかかった。それを同じく剣でなんとか応戦するラッセ。しかし、シュテルンの移動速度は変則的で速い。空中で跳ねると一瞬でラッセの背後を取った。
「遅いよ」
「くっ!」
ラッセが殺される、そう思ってクーアをかける準備をしていたが、マスターがシュテルンの狂剣を素手で止めた。
「ごほっ……。やめろシュテルン。目的は……なんだ」
「魔吸石を返してください」
「……テ、テーブルの裏の凹みだ。みんなに手を出さないと誓え……ごほっ」
「わかりました」
シュテルンがテーブルの裏を手で探ると魔吸石がその手に握られていた。ファブロさんの家から魔吸石を盗んだのはマスターだったのか。一体なぜ……。
「ロイエ!」
突然のマスターからの指示、でも何をして欲しいか僕にはわかった。
「ジオグランツ!」
「おっと」
発動が早い練度★1のジオグランツを選択したが、ヴィベルスルフトが発動中のシュテルンを捉えることは出来なかった。
「ふふ、重力魔法は遅いのが難点だからね。風魔法には絶対勝てないよ」
素早い動きでシュテルンが下がると、先ほどの突風で捲れ上がった床下からフィクスブルートが覗かせている。
「しまっ!」
「遅い! ブルートザオガー!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます