[ 173 ] シュテルンの策略

 シュテルンが呪文を唱えた瞬間、フィクスブルートから魔力が抜け、立っていられないほどの地震が僕らを襲った。


 ゴゴゴ……ゴゴゴゴゴゴゴオオオオ!!


「うわぁあ!」

「きゃあ!」

「よし、これさえあれば……!」


 巨大な地震で身動きが取れない中、シュテルンだけは風魔法で宙へ浮いてを地震の影響を受けていない。そのまま破壊されたギルドの天井から、飛び出すと空を滑空して逃げていった。


「みんなを起こさないと……。グローリアヴァイト!」


 倒れてるみんなを範囲回復魔法で回復させると、まだ揺れてる地面を蹴りマスターの元へ駆け寄った。


「マスター! 大丈夫ですか?」

「また毒がぶり返しているようです!」


 全力でアノマリーをかけて毒を中和するが、やはり治りが悪い……。ある程度かけ続けないとすぐに元の症状に戻ってしまうようだ。


 入り口付近で倒れている三人を見ると怪我は回復しているが頭を打ったのかピクリとも動かない。出かけようとしてシュテルンの近くにいたグイーダ、ロゼ、レオラの三人はダメージが大きかったようだ。


「いたた、何が起きたピヨ」

「ピヨ無事だったか。悪いけどあそこの三人を起こしてきて」

「おっけーピヨ」


 ラッセもマスターから離れて駆け寄ろうとするが、現状の把握を優先したのか、僕に向き直った。


「ロイエさん、魔吸石とは? この地震はなんですか? さっきシュテルンさんがやっていた行為にはどんな意味があるんですか?」


 魔吸石や星食いの話は、騎士団長のアウスから聞いていないのか。


「あれは魔吸石と言って、フィクスブルートから星の魔力を引き抜く道具です!」

「抜かれるとどうなるんですか?」

「この星が反撃としてモンスターを大量に召喚します! 近くに人間が多ければ多いほど比例して多く!」


 ラッセの顔が蒼白になる。それもそのはず、デザントは港町だけあってフォレストよりも人が多い。丁度船も入船しているので普段より多い。そこまで計算していたのだろうか。


「起きるピヨー!」


 ピヨがみんなの顔を突いて回ってくれている。


「うぅ、何が起きたんですの……?」

「いたたた! ピヨちゃん突かないでー!」

「こ、この地震は一体?」


 少し地震が落ち着いてきたので、何が起こったのか三人にも説明すると、グイーダはシュテルンの裏切りに酷く落胆していた。そういえばグイーダはシュテルンが好きだったっけ……。僕が回復魔法使いだと言うことを付け加えて説明すると、いろいろと納得してくれた。


「ラッセから『ロイエさんのギルドカード更新の手続きは私がやるからやらないでください』と言われていたので、不思議に思ってはいました」


 なるほど。裏では色々と手を尽くしてくれていたんだ。ラッセさんに感謝の視線を送ると、ふいっと顔を背けられた。とにかく時間との勝負だ。今はモンスターの大群に備えよう。


「これからモンスターが大量にやってきます。大抵フィクスブルートを目指してくるので、ここで迎え撃ちたいと思います」

「ロイエさん、住民を避難させないと……」

「街中の人を匿う場所なんてないわよ」

「大丈夫。住民は家の中にいるのが一番安全です。ナッシュのリンドブルムやフォレフトのカルミールベアの時も建物への被害は多少ありましたが、中まで入ってくるような事はありませんでした」

「わかりました。ならシュテルンさん、風魔法で街中に警告を……あ」


 グイーダさんがいつもの癖でこの場にいないシュテルンに声をかけ、彼が裏切った事を思い出して消沈した。


 そうか、街への警告などはいつも風魔法使いのシュテルンさんの役目だったか。ラッセは氷、グイーダは水、マスターは土、レオラは重力、誰か風魔法使いを探さないと……そうだ!


「ピヨ! ハウリングラウトを使って、大きな声で家を出るなと街中に警告を頼む!」

「わぉ、ピーヨ役に立っちゃう? よーし。すぅ」


 ピヨが魔力を込めると、特大の声で街中に警告を示した。


『モンスターが来るピヨ! 家から出ないでー!』


 ギルドの屋根が吹き飛んでいて好都合だった。昼時の空にピヨの声は良く響く。同じ内容で二回叫ぶと、魔力が切れたのか、ピヨが気持ち悪そうな顔で僕の肩に飛んできた。


「ありがとう」

「へへへ、練度が上がっておいてよかったピヨ」

「うん、助かったよ。休んでて」


 あとはモンスターの迎撃だ、シュテルンは放っておいていいだろう。あの口ぶりだと魔力の溜まった魔吸石が目的の可能性が高い。モンスターは呼ばれたが、邪魔しないなら今は深追いしてる場合ではない。


「グイーダさん、ラッセさん、ロゼ、レオラ。事態を把握出来てない住民はいると思いますので、避難させつつモンスターがいたら足止めをお願いします!」

「おっけー!」

「さーて、ロイエにいいところ見せちゃおうかなー」

「それはこちらのセリフですわ。レオラさん」

「二人とも……緊急事態ですよ」


 ラッセさんが二人を嗜めていると、気を取り直したグイーダさんがみんなに指示を飛ばした。


「ではロゼさんは東、レオラは港を確認して問題なければ東へ向かってロゼさんと合流。ラッセは南へ、私は西へ向かいます」

「僕はマスターの治療をして、ここに集まったモンスターを倒します!」

「わかりました。ロイエさんマスターをよろしくお願いします」

「はい!」


 みんな準備は済んでいたから、すぐにギルドから飛び出て行った。僕はその背中を見送りながら、マスターの回復に専念した。

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