[ 174 ] ポルトの事情

 この毒……。なんなのかわからないけど、回復した途端にすぐに毒が広がるからアノマリーをかけ続ける必要があるみたいだ。僕はマスターの毒を回復していく中で、コツのようなものを掴みかけていた。


「オルトが使えればすぐに治りそうなのに……」


 重力魔法回路ではオルトが解放されたけど、どうやら回復魔法回路とは繋がっていないらしく、回復魔法ではオルトを使うことが出来なかった。


 しばらくすると、マスターが喋れるほどまでに回復した。


「ごほ、ロイエ……すまねぇな。はぁ、だいぶ良くなってきたぜ」

「よかった。あの……ポルトさんと西門でなにがあったんですか」


 レオラはフードの奴とポルトさんを同時に見てるという話だ。しかし、マスターはポルトが毒男だという、つまりフードを被った奴は何者なんだ?


「……俺が西門を警備していたらフードを被った奴とポルトが来たんだが、ポルトはそいつが毒男だって言うじゃねぇか……。しかし、そいつはいくら攻撃してもダメージを感じていないようだった」

「ダメージを感じない?」


 そんな無敵な魔法あるか? それとも僕と同じで回復魔法使いなのか?


「ああ、とにかく倒せないとわかったから、封じ込めるために手当たり次第岩を投げて退路を塞いだんだが、背後からポルトの奴が俺を攻撃してきやがった」


 なるほど。いくらマスターでも不意打ちの攻撃は対処しようがない。まさか味方が攻撃してくるとは思わないだろう。


「それで、どのタイミングで毒に?」

「俺を攻撃した後、ポルトが俺の体に何か液体を垂らしからそれが毒だったんだろう。その後は意識が無くなってわからねぇ」


 なるほど……。とにかくその毒には気をつけないと……。回復出来るのは僕しかいない。


「マスター、ポルトさんって何者なんですか?」

「あいつは五年ほど前にこの街にきてな。行方不明の娘を探してるって話で、この街が一番大きいし港もあるから他の街の情報も手に入るだろうと、ここに住み着いたのさ」

「娘……?」

「ああ、元々王都で暮らしていたらしいんだが、一緒に住んでいた娘がある日突然いなくなったらしい」

「そうですか……」


 この街で娘さんを探しながら、港長として五年も働いて、なぜシュテルンさんと共謀したんだ? ポルトさんのメリットはなんだ? シュテルンの目的とポルトのメリット、何かが噛み合ったからこそ、二人は協力したんだろう。


「マスター、シュテルンさんは……」


 言いかけた時、マスターの肩を水のレーザーが居抜き、鮮血を撒き散らかした。


「ぐっ!」

「マスター!」


 すぐに回復魔法をかけると、瓦礫の向こうからふらりと、黒いフードの男が現れた。


「あれだけ痛めつけたのに、もう回復してるとはな。回復術師とは恐ろしいものだ。まぁいい……。さぁ、俺のニーナを返せ」


 顔は見えないけど……。この声、ポルトさんだ。でも、いつもとまったく口調が違う。こっちが本当のポルトさんってわけか。


「あの、ニーナって何ですか」

「しらばっくれるな! 貴様が肩に乗せていた鳥だ!」


 え? ピヨ?! こいつの狙いはピヨなのか?! そういえば、ポルトさんがピヨをどこで見つけたか聞いてきたけど……。チラッと視線を下げるとポーチの中で休憩しているピヨと目が合った。


「あれには私の娘の魂が宿っている! 返せ!」


 娘を探している。その話はさっきマスターから聞いたばかりだ。確かにピヨの出生は不明だったが……。魂が宿っている。そんかことあるか? ルヴィドさんが教えてくれた、ミルトの中に眠る母の魔力回路のような話だろうか。


 しかし、ポルトさんが姿を出したのは好都合だ。シュテルンが去った今、ポルトさんさえ封じればあとはモンスターを倒すだけだ。ここは先手必勝だ。


「ジオグランツ・ツヴァイ・ジオフォルテ!」


 不意打ちの重力魔法でフードを被ったポルトを押し潰すと、グシャっと水飛沫を出しながら簡単に潰れた。


「……え」

「なんだと?! ロイエ! 練度★7の水分身だ!」


 バルカン村で青髪騎士ノルムが使っていた水で分身を作る魔法『ペンタグラムゼルプスト』

 ノルムは五人に分身してメルクーアレッタを連打してきたが……。


「マスター! 僕の近くに!」


 ノルムと同じ攻撃ならグローリアヴァイトである程度無効化できる。そう思った僕の考えをあざ笑うかのように、物陰から四人のポルトが現れると一斉に魔法を放った。


「ヴァリアブルクヴェレ」

「ヴァリアブルクヴェレ」

「ヴァリアブルクヴェレ」

「ヴァリアブルクヴェレ」


 突如現れた十メートル近い津波のような水が、僕とマスターを取り囲んだ。

 まずい、窒息は回復魔法ではどうにもできない……!

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