[ 175 ] ピヨの勇気

 四匹の水の蛇がまるで洗濯機のように、僕らの周りを高速で回り水の奔流を作り出す。僕は咄嗟にピヨを上空へ放り投げ、マスターは僕の腕を掴むと引き寄せた。


「ザントシルド・オルト・ヴェルト!」


 足元の地面が盛り上がり、僕とマスターを何重もの砂の盾が包み込む。砂の盾の外で大量の水が押し寄せる音とポルトの叫び声が聞こえた。


「おい! ニーナをどこに隠した! ここにいることはわかってるんだ! それともこのまま溺れ死ぬか?!」


 クソ、まずい……。相性が悪すぎる……。砂の盾で水を防ぐのは限界がある。マスターの体調も全開してない。そうこうしている間にも、足元から浸水してきた。


「さすがに無理があるか……ちくしょう」

「マスター、何か打開策はありますか? ポルトさんの弱点とか」

「水魔法使いは、とにかく広範囲攻撃が得意だ。ヴァリアブルクヴェレによる水の蛇、メルクーアレッタによる水のレーザー。極め付けは水分身による超範囲攻撃ときたもんだ」

「改めて考えると、応用力が高いですね」

「ああ、しかし強い代わりに弱点も多い、それは魔力量だ」

「そうか。分身で強力な魔法を同時に使える分、消費もデカいから長期戦に向いてないと」

「うむ。あとは雷魔法使いか氷魔法使いがいれば楽なんだが……」

「ならラッセさんかロゼさんが戻るまで耐えれば……」

「いや無理だろうな、俺のこの体調じゃ、もってあと数分ってとこだ」


 話してる間にも太ももまで浸水が進んだ。僕の重力魔法でも打開することは難しそうだ。どうすれば……。悩んでいると外から声が聞こえてきた。


「ニーナを差し出せば助けてやる!」


 ピヨがポルトさんの娘だと確定したわけじゃない。もし仮に娘さんの魂なり魔力回路をピヨが持っていたとしても、マスターを殺そうとしたり、幼い子供にまで迷惑をかけておいて、ああそうですか感動の対面ですねで、済ませられる問題じゃない。


 やれるとしたら、砂の盾が潰れる直前に重力を軽くして、浮力で一気に上空へ飛び出すしかない……。


 そう考えていたら、外からピヨの声が聞こえた。


「やめるピヨー! ロイエをいじめるなー! フリューネああああ!」

「ふはは! ニーナやっと捕まえたぞ!」


 ま、まずいピヨが捕まってしまったか。


「やっと会えたね。ニーナ、パパだよ!」

「ええ?! パパ……ピヨ?! 覚えてないけどピヨのパパが人間なわけないピヨー!」

「さぁ、昔みたいにパパと暮らそう! な?!」

「嫌ピヨー! ロイエと離れ離れは嫌ー!」

「また、そうやってパパの言うことを聞かないのか!」


 パキッ


「ぁぁあああ!」


 な、なんだ?! ピヨの悲鳴?!


「飛んで逃げてしまうなんて、こんな羽……ニーナにはいらないからね。もう片方も折ってあげよう」

「な、なにされても! ピヨはロイエから離れたくないピヨ! ロイエはピヨにたくさん美味しいものを食べさせてくれて! 遊んでくれて! 冒険して! ピヨの親友なんだピヨー!」

「ロイエ、ロイエと……パパの言うことを聞かない子は! ママみたいに死んでもらうしかないな!」


 ポルトが魔力を込めると、砂の盾にヒビが入った。もうここは限界だ。今しかない!


「ジオグランツ・ツヴァイ・ジオフォルテ!」


 ザバァ!と砂の盾を破って大量の水が流れ込む、マスターも息を止めると手を掴み、流れ込んできた水の浮力と重力でスポーン!と僕らは上空へ押し出された。


「な! なんだと!」

「ロ、ロイエー!」


 ポルトにピヨが捕まっている。その右翼は血で赤く染まっていた。


「ピヨこっちだ! マスター!」

「任せろ! リーゼファウスアルム!」


 土魔法練度★5の岩石の腕を召喚する魔法だ。地面から生えた二本の岩の腕がポルトの足を捕まえると、力強く握り潰した。


「グアアァアアア!」


 ポルトのピヨを捕まえていた手が緩んだ瞬間に、ピヨがフリューネルで僕の元へ飛び込んできた。


「ロイエー! 怖かったピヨー!」

「よく頑張ったな」

 

 地上へ落下しながらピヨの翼をクーアを治すと、パシャァアと水分身のポルト達も水へと戻り、同時に水の蛇も姿を消した。

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