[ 062 ] もう一つのルート

「あれと……これと、ハリルベル着替え終わった?」

「ああ、持ち物もバッチリ!」


 作業着から戦闘服へ着替えると、ハリルベルはリュックに生活必需品を詰めた。僕も普段着からリーラヴァイパー戦で使った肩当て付きの防具を着込む。


 大変な事のはずなのに、ハリルベルと一緒だと思うと少しワクワクした。


「行き先は魔法都市ヘクセライだったよな?」

「うん、案内人のリュカさんが、移動手段とルートを用意してくれてるみたいだから、夕方に西門で落ち会う予定だよ」

「わかった。少し時間あるからギルド行くか?」

「そうだね。リュカさんは言わない方がいいって言ってたけど、マスターにはお世話になったし」


 身支度を終えると、親方に借りた大型のリュックは家に置き、手ぶらでギルドへ向かった。


「行くのか?」


 マスターは僕らがギルドに入るなり、喋る前に全てを悟ったらしい。


 マスターには、リュカさんと回復解放軍についての話、フィーアの話、今後のルートについて話をすると、うむうむと唸っていた。


「回復解放軍については、個人で動くことが多く、団体で動く王国騎士団より実態の捉えにくい集団という認識じゃな」


 マスターでも、存在をなんとかくでしか知らないなんて、よほど秘匿知れた集団なのだろう。


「わしは解放軍と会ったことがないが、王国騎士団に捕まるよりは良いじゃろう。それと逃走ルートは西側から魔法都市ヘクセライか……海路じゃな。それも良いと思うが王国騎士団のバカじゃない。ちょっと危険なルートかもしれんな」

「ちなみに、マスターの用意してくださったルートは、どんなルートですか?」

「もうすぐ来るはずじゃよ」


 来る? 鳥か何かで飛んでいくのかな……。そう考えていたら、トントンとドアをノックされて振り向くとロゼが立っていた。


「ロゼさん……?」

「こんにちはロイエさん。マスターさん、用意が出来ましたわ」

「うむ。ありがとう。ロゼちゃん」

「マスター、何の話ですか?」

「だから、さっき話してた逃走ルートじゃよ」

「え! あの、ロゼさんに……話しちゃったんですか?」

「必要な事じゃ」


 なるべく僕の脱出を知ってる人を増やしたくなかったけど。マスターの判断なら仕方ないか。


「さっさとやってしまいましょうか」

「そうじゃな」

「では、こちらが依頼票です」

「……うむ。確かに。では依頼を受理する」

「では、この依頼を受理する者はおるか?」


 何の茶番だ? マスターもロゼもなんだかカタコトだ。マスターが顎髭を揺らして、手を挙げろと催促してくる。


「え、僕やります……?」

「後一人、必要なんじゃが」

「じゃあ俺も……?」

「よろしい、依頼内容の通り冒険者二名との契約を執り行う。依頼主はこの二名で問題ない場合、契約者にサインを」


 マスターが契約書をカウンターに置くと、ロゼがサインを記す。本当に何の話だ?いまから依頼を受けても僕らもうこの街を出る……。


「ところでロイエ、ギルドカード作れたんだな」

「うん、テトっていう男の子に助けて貰ってね……大事なカードなんだ」

「そっか。よかったな」

「……うん」


 ハリルベルと話してるうちに、ロゼが書類を書き終わったらしい。マスターに書類を渡すと一通り確認した。


「これにで契約は完了した。依頼内容は、依頼主であるロゼ・フリーレンを深緑都市フォレストへの護衛任務。ロイエとハリルベルはその任務を請け負った」

「ご、護衛任務?」

「深緑都市フォレスト? それって東側のルント湖の先にあるという、こないだまで王国騎士団が調査していた街では……」

「そうじゃ、一度調べた場所に来るとは思わんじゃろう。深緑都市フォレスト経由で、最終的に陸路で魔法都市ヘクセライを目指すのが、わしの用意したルートじゃ」

「なるほど……でも」

「大丈夫ですわ。交易品の輸送としての移動は本当ですし、海路より安全だと思いますけど」


 マスターには、ルートを用意してもらって申し訳ないけど、今回は使わなくて済みそうだ。それにロゼを連れて行くのは危険すぎるし……もしロゼに何かあった場合、貿易商をやってるご両親に何と言えばいいか。


「用意してもらってすみません。今回は……」


 と言いかけた時、ギルドの天窓の窓ガラスが割れて、リュカさんが飛び降りてきた。


「ロイエ君! 大変よ! 王国騎士団に西側を抑えられたわ!」

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