[ 061 ] キーゼルの親方
リュカさんと別れると、僕は一目散にキーゼル採掘所を目指した。この時間、ハリルベルはいつも採掘所で仕事をしている。
階段を駆け上がると、キーゼル採掘所では工事が行われていた。輸出のため様々な鉱石を採掘してるって、ハリルベルに聞いた事があるけど……。
「おう、どうした」
「あ、親方……」
正直僕は、親方が苦手だ。ちょっと何考えてるかわからないところとか、体育会系なところとか……。僕のこと雇ってくれなかったし……。
「あの、ハリルベルに少し話があって……ですね」
「いま三番坑道にいるな……。グラナト! ハリ坊呼んでこい!」
遠くで、はい!と男性の声が聞こえた。
「丁度いい。俺もお前に話があったんだ。ちょっと顔貸せ」
「ひぃ。はぃ……」
親方について行くと、キーゼル採掘所の二階の個室へ案内された。名札を見る限り親方の私室のようだ。壁にはいろんな道具や鉱石が飾ってある。
「まぁ座れ」
「はぃ……」
話って何だろう……。いきなり殴られたりはしないと思うけど、殴られても治せるけど……。ソファーに向かい合わせで座ると、親方はギラリと僕を睨んできた。終わった……。
「お前。足枷を俺が壊した時、自分の足を回復をさせただろ」
「え、ぁ、の……」
バレてる……実はそうなんだ。親方がドルックという魔法で足枷を破壊してくれた時に、メキッと足の骨が折れたので咄嗟に治してしまった……。
「あの足枷はドルックじゃなきゃ壊せなくてな、破壊した時に足も壊れるんで、二重の足枷と言われてる代物だ。俺は破壊した後、レッドポーションをお前にやるつもりだったが、お前は無傷だった。回復魔法しかありえねぇ」
言い逃れ不可能だった。
「はい……僕が回復魔法で治しました。あの時は、痛みで咄嗟に……」
あまりの痛さに使ってしまったのだ、あの時は親方に何も言われなかったので、バレなかったのかなと、思ったけも、バレていたみたいだ。
「うちの現場にいたら怪我なんか毎日ある。回復術師のお前には目に毒だと思って、採用を断った。すまなかったな」
「いえ! 僕の方こそ、黙っていただいてありがとうございます……」
知らなかった。親方が僕のことを知った上で匿ってくれていたなんて……。語らずも影で支えてくれていたなんて。
「昨日ジジイから聞いたが、王国騎士団がここを目指しているらしいな」
「はい。今日の夕方に、この街を出ようかと思いまして……それでハリルベルに挨拶をと」
「そうか……。ならこれを持っていけ」
親方は立ち上がると、机の引き出しから一つの小さな袋を取り出して、僕に差し出してきた。
「いざという時、お前の助けになるはずだ」
「ありがとうございます。あの、これはなんですか?」
袋の中身を聞こうとしたら、ドアがノックされた。
「親方? ロイエが来てるって聞きまして」
「おう、入れ。すぐ閉めろ」
ドアが開くと、タオルを頭に巻いた作業服のハリルベルが入ってきた。さっきまで工事をしていたのか汗ビチャだ。
「ロイエどうし「奴らがもうすぐそこまで来てるらしい」」
それを聞いてハリルベルは息を呑んだ。
「やはり……」
「ハリルベル、親方も僕の回復魔法のことを知ってたの?」
話ぶりからハリルベルと親方は、僕が思ってよりも密な関係のようだ。
「お前が初めてここに来て俺が採用を断った後、こいつは俺が仕事を辞めるから、代わりにお前を入れてくれと俺様に食ってかかってきてな」
「親方、それは言わない約束……」
「まぁ回復術師には目に毒だって話をしたら、ハリ坊は大人しくなったがな」
「……ロイエは優しいからさ。みんなが怪我してたら治さずにはいられなくなると思って」
「……ありがとう。ハリルベル」
やっぱり僕はこの街が好きだ……。
みんなが好きだ……離れたくない。
「ロイエは、夕方にはここを出るらしい」
「今日?! いつかこの日が来ると思ってたけど、今日かー」
「ハリ坊。お前付いて行ってやれ」
「はい。そのつもりです」
「え……ちょ! ちょっと待って、ダメだよ! 王国騎士団に追われることになるんだよ?!」
「それでもだよ。もう俺とお前の仲だろ?」
「ハリルベル……」
すごく心強いけど……。少し心配だ。
「ロイエ。俺がやりたくてやってるんだ。死んだって恨まねーよ」
「わかった。ハリルベルが来てくれたら心強いよ」
「へへ、焼肉は任せろ。火には困らねーぜ?」
いまは不安がるよりも、ハリルベルが来てくれる事を心強く思おう。リュカさんがどこまで用意してくれてるか分からないけど、ある程度の準備は必要だ。
それと、リュカさんは嫌がったけど、やっぱりマスターには話しておきたい。ここまで僕に良くしてくれたのに、黙って出て行くのは気が引ける。
親方には謝ってハリルベルは仕事を抜けさせてもらうと、支度をするために二人で一度ハリルベルの家へ戻った。
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