[ 154 ] 警戒と対策

 ギルドを飛び出た後、東門に向かう途中でシュテルンさんを見つけて、男の子は助かった事と怪しい人物がこの街に潜んでいる事を伝えたが「その怪しい男はどんな顔? 背の高さは?」など質問攻めにあい、そういえば何も聞かないまま飛び出してしまったと反省した。


 僕は東門で街から出て行く人、怪しい飲み物を配っている人に目を光らせたが、結果として怪しい人物は見つからなかった。


 シュテルンから一時間ほど探して、不審人物がいなければギルドへと言われていたのでギルドへ戻ると、既にみんな戻っておりテーブルには市長と秘書、港長まで揃っていた。


「ロイエ、そっちはどうだった?」

「東門を捜索しましたが、怪しい人物はいませんでした」

「クソがどこに隠れやがった!」


 マスターがガン!と机を強く叩くと、レオラがビクッと震えたのが見えた。


「あの、マスター。不審人物の風貌とか色々聞きそびれて飛び出しましたが……」

「それは俺らも知らねぇ! 怪しい奴を探すにきまってるだろ」

「それはそうですけど」

「ロイエさん、すみませんマスターのいつもの暴走です。みなさんが飛び出して行くとは思わず、止めるのが間に合いませんでした」

「いえ、聞かずに飛び出した僕も悪いので」


 男の子が運び込まれたのは、いまさっきという話だったのでまだ犯人が近くにいると思って飛び出したけど、そんな簡単な話では無かった。


「お腹空いたピヨ……」

「ごめんな、ピヨ。もう少し待ってて」

「ピヨ……」


 僕とピヨの会話は聞こえていたレオラが、わざとらしく「お腹空いたー!」と叫んでくれた。


「あー?! 甘っちょろいこと言ってんじゃねぇ! 次の被害者が出るかも知れねぇんだぞ!」


 マスターの言うことももっともだけど、手掛かりがないから探しようも無い。今日から夜間の警備の数を増やしたり、起きた場合の対処法を考えた方が良いと思うけど……。


「まぁ待て、オスティナート。子供に毒を盛るという非情な犯人を野放しには出来ないが、こうも情報がないと動きようが無い」

「市長の言うとおりだ。夜間の警備を増やして、また誰かが毒を盛られた場合の話をした方が建設的じゃねーか?」


 市長と港長ポルトが援護してくれる。立場的には同じくらいの三人だが、二人が同じ意見なのだ。マスターも折れるしか無かった。


「そう、だな。よし! 今日の捜索は打ち切りだ! 夜間の警備を増やそう! フォルク! 金は出せるな?」

「ああ、街としての事件だ。金はなんとかする」

「ポルト! 港の人間を動かせるか?!」

「各門に一人づつ配置出来るが、一週間後に船が来るからそれまでだ」

「よし、一週間以内に捕まえれば問題ねぇ!」


 なるほど。街単位での事件の場合は税金が使えるのか、そしてギルドの冒険者は有事の際に取っておきたいから、非戦闘員とはいえ身体を鍛えてる港の人間を、警備に当てると……。理にかなっているな。


「マスターの案で良いかと思います」


 ラッセからも太鼓判を押されて、マスターは少し自慢げだ。


「よし! 解散!」

「いや、まだ決めてない事だあるだろう。今回の毒はロイエ君の持っていた解毒薬ではないと治せなかったと聞いたが、在庫はどれくらいあるんだ?」


 まずいな……。

 僕がいないと治せないけど、なんて説明しよう。

 みんなに話せばいいんだけど、あまり広めない方が良いと話し合ったばかりだしな……。


「あー、それなら大丈夫だ! 解散!」

「いやいやいや、解散!じゃないだろ」


 突っ込む市長と一緒に、ラッセも呆れ顔をしている。


「ロイエ君、解毒薬は後いくつある? 複数あるなら警備を担当する者に渡しておきたいが」


 うぅ、困った……。なんて答えよう……。

 もう正直に話した方が良いのではと声が出る直前、ラッセがフォローに入ってくれた。


「ロイエさんの持つ解毒薬はフォレストの試作品でして、重力魔法で一定の軽さにしてから飲む事で初めて効果が出るのです」

「は? どういうことだ?」


 当然、市長が噛み付くがさも当たり前だろと言わんばかりにラッセがいつものトーンで推し進める。


「今言ったとおりです。重力魔法を使えないものには使えない代物ですので、現在ロイエさんとレオラさんに持たせてあります。被害者が出た場合は、ロイエさんかレオラさんを読んでください」


 重力魔法が使えないと効果が出ない解毒薬なんて、どう考えても嘘くさいのに、実際に治った男の子がいるからか、少し怪しみつつも納得せざるを得ないようだ。


「わかった。であれば、二人のうちどちらかは常にギルドにいてもらうことは可能か?」

「そうだな、それは大丈夫だ。うちでなんとか調整しよう」


 マスターが回答してくれたが、そう言わざるを得ないな。今日ミネラと火山に行っておいてよかった。明日に回していたら一週間は動けないから完成も一週間遅れて、ファブロさんの作ってる武器に間に合わなかっただろう。


「はい、レオラと交代でギルドにいるので、もし被害者が出たらすぐに連れてきてください」

「わかった。そこまで体制が取れているなら安心だな」

「俺はひと足先に港の連中に声をかけてくるから、それまではギルドのメンツで各門の警備を頼む!」


 港長のポルトさんはそう言い残すと、足早にギルドを出て行った。それに合わせるようにギルドの面々は先ほどの持ち場へ各自散って行ったが、僕は解毒薬ならぬ解毒役としてギルドに残ることになった。東門にはシュテルンが向かった。


「では、すまないが我々もこれで失礼する。オスティナート、今回の件に関する費用だけまとめておいてくれ」

「わかった。それは任せろ」


 と言いつつ、それはラッセかグイーダさんの仕事になるんだろうなと、二人の顔が物語っている。

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