[ 155 ] 練度上げ

 警戒強化が始まってから、四日が過ぎた。


 街の入り口は港の屈強な男達が見回りを行い、僕とレオラが交代でギルドで寝泊まり。


 いつ呼び出されるかわからないから、街を出るような依頼や、手が離せなくなるような依頼を受けるわけにはいかず、ここ数日で受けたのは噴水の掃除だけだ。


「ジオフォルテ」

「ジオフォルテ」


 最近はレオラとギルドにいる事が多く、やる事もないので、練度上げの研究をしている。


 ボールを僕が重くさせ、レオラが軽くさせる。強弱を操作して、ボールを空中であげたり下げたりを繰り返して、ずっと魔法を使ってる状態を維持していた。


「うーん、これもダメか」


 二人とも練度★3になって長い、僕も戦闘がない時はずっと自分の体を軽くさせていたから、使用時間による練度アップの上限は超えてるはず。


「練度★3以上は、特定の条件をクリアしなきゃいけないけど、それがなんなのか個々で違うんですよね」

「そだねー。私とロイエでは近距離と遠距離って違いもあるからなぁ。ねぇ、ロイエは重力魔法を習得した時は何したの?」

「えーっと、空に飛んで逃げたリンドヴルムを倒すために、風魔法で飛ばしてもらって……」

「あ、なーんだ! 簡単じゃない! ロイエ、ちょっと外に来て」

「え、でもここにいないと」

「大丈夫、入り口までだから」


 レオラが何か思いついたなら、とりあえずやってみるしかない。ギルドの入り口へ出てみると、昼過ぎでみんな仕事に戻っているのか、それほど人通りは多くはなかった。


「んじゃー、ロイエはその手すりに捕まってから、自分に両方の魔法をかけてくれる?」

「はい……。ジオグランツ・ツヴァイ・ジオフォルテ」

「じゃあ限界まで軽くしてね」

「わかりました……くっ!」


 二重掛けだと、空に飛ばされそうになる。重力というのは星の持つ引力と、星の回転により発生する遠心力の引き算だ。ジオグランツで無重力に、ジオフォルテで自身の体重と同程度の遠心力が空に向かって働く。


 手が痺れてきた……。何をするんだろう。レオラが僕から離れていき、こちらに向き合って声を張った。


「やるよー! 私がロイエを軽くしたらピヨちゃんはフリューネルで飛んでねー!

「わかったピヨー!」

「え? なんです「ジオグランツ・ツヴァイ・ジオフォルテ!」

「フリューネル!」

「うわあああああああああーーーーー!!」


 僕は空に向かってロケット噴射の如く飛び上がった。


 僕の魔法で倍、レオラの魔法でさらに四倍、合計八倍軽くなった僕は、ピヨのフリューネルにより信じられない速度で空へ飛んだ。


「んぐぎぎぎぎぎッ!」


 速すぎて息ができない! 一瞬で街が小さくなり、大陸全土が見え、空が近くなる……! 既に重力魔法は解除したが発生した運動エネルギーは衰えず、勢いは止まらない。


 ま、まずい……このままだと宇宙に……!


 その瞬間、脳裏に文字が現れた。


【重力魔法:接続詞 オルトが解放されました】


 た、助かった!!


「ジオグランツ・ツヴァイ・ジオフォルテ・オルト!」


「ぐぇ!」


 今度は逆に重力を重くした。最大まで重力を強くした僕の身体は、超高速で地面へと落ちていく。


「ムギギギギ!!」


 既に重力魔法は解除したが、ジオグランツで二倍、ジオフォルテでさらに二倍、四倍の重力をオルトで三倍。合計十二倍の重力を受けた身体は、もはや止まらない。


 魔法は連続では使えない……! 僕が地面に激突して死ぬのが先か、重力魔法の再使用が可能になるのが先か……! 最悪な場合に備えてレイトクーアを仕込んだ。即死しなければ怪我をした瞬間に回復するだろうけど、この距離と速度では期待できない……。


 眼下に街が近づいてくる。

 ギルドが、噴水広場が、ドンドン近付いてくる。

 だ、ダメだ! 間に合わない!


「ジオグランツ・ツヴァイ・ジオフォルテ!」


 間一髪、レオラの放った重力魔法が僕を軽くして、ゆっくりと地面に降りる事ができた。


「どう? 練度上がった?」

「はぁ。上がったけど、もう二度とやりたくない……」

「ピヨも連れて行って欲しかったピヨー」

「上がったんだ! よかったじゃん!」

「さ、次はレオラの番だよ」

「え? いやいや私自分に重力魔法かけられないもん」


 そうだった……。僕が僕に掛けることは出来るからあそこまで、飛び上がったけど、レオラの場合は自分にかけられないのか。


「へへーん。残念でしたー」

「くそ、いつか同じ目に合わせてやる……」


 こうして、僕の重力魔法の練度は★4へと上がった。

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