[ 156 ] 助っ人

 あれから数日……色々やってみたが、レオラの練度は上がらなかった。本人はそのうち上がるからいいよと前向きだったが、僕だけ上がってしまって申し訳ない気持ちだった。


「しっかし、私とロイエのコンボの威力やばいね」

「だね……。僕だけで十二倍、そこにさらにレオラの魔法で四倍かかり四十八倍か」


 危なすぎて、とても人に対して使おうとは思えないけど、これならボスモンスターが出ても十分戦えると思う。


「ロイエ、今日の昼ご飯どうする?」

「また店長のところかな? でも正直行きすぎて……」

「飽きたよね」

「まぁ、そうだね。でもあんまりここから離れるなって言われてるし」

「あの、さ。なら今日は私が作ろうか?」

「え? レオラ、料理出来るの?」

「外食ばかりだとお金かかるから、節約のために基本は自炊だよ」

「へぇ、レオラは良いお嫁さんになれるね」

「お、お嫁さん……もう! ロイエったら!」

「痛ッ!」


 バシンバシンと叩かれた肩が本気で痛い。レオラと結婚する人は喧嘩したらボコボコにされるんじゃないだろうか。こっそりクーアで回復しておこう。


「節約といえば、ここにいるだけで毎日金貨二枚貰えるけど、警戒が解けたら本格的にお金貯めないと」


 現在、幽霊屋敷で五枚、鉱石採掘で四枚、解毒で五枚、待機六日目で金貨十二枚、合計で二十四枚。ファブロさんに払う金額の金貨六十枚まであと、三十八枚。


 いい感じに集まっているから、この調子なら溜まりそうだ。毒男の動向次第だけど……。あれから一切動きはない。


 街に引っ越してきた人は役所で登録しているけど、僕みたいに旅人は登録義務はないので、外からの侵入ならまったくわからないらしい。


「ラッセ、明日からどうするの?」

「毒男が現れないことにはどうしようもないですね。明日は港に船が入ってくるので、いま警備してくれてる方も明日は離れます」

「わかってると思うけど、私もロイエも港で仕事あるからね?」

「わかってます。明日はみなさん手が離せないので一番危険な日です。ギルドのメンバーで対応する予定ですが……ロイエさんは何かあったらすぐに戻ってきてくださいね」

「もちろん何かあったら飛んできますが……」


 ラッセ、グイーダ、シュテルン、マスター。四人では各門の警備をするとギルドの警備が手薄になる。


「人が足りなくないですか?」

「大丈夫です。事件のあった日に他のギルドに応援を要請してますから」


 ふらっとどこかに行ってしまったミアさんを連れ戻したのかな? いやあの人に警備なんて務まるわけがない。


「今日中には来ると思いますよ」

「どんな方です?」

「ロイエさんと面識があると言ってましたが……」

「誰だろ……」


 この近くですぐに駆けつけられる冒険者といえば、フォレストのブリュレやガンツさん、ハリルベルかな?ハリルベルが来てくれると嬉しいけど。


 フォレストにいた時のことを考えていると、誰かがギルドへ飛び込んできた。


「ロイエさぁああああああーーーーん!」


 僕に飛びついて抱きしめてきたのは、空のように綺麗な水色のロングヘアーと、吸い込まれそうな黒いパッチリとした瞳の一年前より少し大人びたロゼだった。


「やっと会えましたわーーーー!」

「うぷ、ロゼ?!」

「ああん! ロイエさん! ロイエさん!」

「ちょ! ちょっと! ロイエから離れなさいよ! ジオグランツ!」

「きゃあ! どちらか存じませんが、ロイエさんとの再会に水を刺すとはいい度胸ですわ! グリーゼル!」

「くっ!」


 カチカチとレオラの下半身が凍っていく。重力魔法使いは足場を固められると弱いのだ。特にレオラは遠距離のため、今みたいに凍らされてから近寄られると、魔法は一切当たらない。肉体の力だけでなんとかするしかなくなる。 


「ああもう! ロイエ助けてよー!」

「ロイエさんを呼び捨てにするなど、誰の許可を得たんですの!」

「ま、まぁロゼ。この辺にしてあげて、レオラも悪気があってやったわけじゃないんだ」


 庇うつもりはなかったけど、ロゼにはショックだったらしい。


「こ、この女性を呼び捨てに……。わたくしという婚約者がありながら、いつの間にか愛人を作ってるなんて、ショックです!」

「あ、あああ愛人!?」

「ロイエに婚約者がいたの?! 聞いてないよ! 婚約者がいるのに私と何日も過ごしてたの?!」

「す、すすすす過ごしてた?! ロイエさん!? どうあうことですの?」

「えーと、どっちも話すと長くなるんですけど……とりあえず落ち着いて?」


 ロゼとレオラが、なぜかバチバチにやり合い始めてしまってどうしたもんか対応に困っていると、ギルドにもう一人入ってきた。


「ちわー! 助っ人やでー! じゃなかった。……俺が来たからにはもう大丈夫だ」

「ブ、ブリュレさん?」


 ギルドに入ってきたのは、相変わらずミアの真似をした黒いフード付きマントを着込んだ冒険者ブリュレだった。彼は確かにフットワークは軽いし、過去にデザントに何度か来ているから、声はかけやすかったのかもしれない。


「おー? ロイエか、お前こんなところで何してるんや?」

「ロイエさん!? まだ話は終わってませんわ!」

「ロイエ! この女は誰なのよー!」

「もーー! うるさいピヨー!」

「と、鳥が喋った?!」


 二人が来ただけで、ギルドが意味不明なほどカオスな状態になった。ラッセさんはうるさいのが嫌いなのか、嫌そうな顔をしているが、僕にはこれくらいの方がナッシュやフォレストの事を思い出せて、嬉しい。

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