[ 156 ] レオラの気持ち

「え? ロゼさんは行商ではなく冒険者として来たんですか?」

「え、ええ……ロイエさんとフォレストで別れてから、冒険者としてアルノマール市長の元で、ハリルベルさんと鍛えて頂きました」

「あの……お仕事の方は……」

「その、言いにくいのですが……。ロイエさんに仕事頑張ってと言われたのにイラッと来て、仕事は辞めました」

「えええ! ……なんかごめんなさい」


 星食いは本気で殺してくる。そんな戦いにロゼさんを参加させられない。その思いで突き放したけど逆効果だったか……。


「父と母が始めた仕事ですし、わたくしがいなくてもなんとかなります」

「そうですか……」

「アルベルタ商会を介してやっていた輸入商売は、元々辞めたいなと思っていたので丁度良かったですわ。セクハラひどかったですし」


 アルベルタ商会の人の名前なんだったかな……。ハゲ? いやデブ? あ、ブーデだ。そんなどうでも良いことを思い出すのに脳を使ったのを後悔した。


「とにかく、今回は緊急事態とのことで、アルノマール市長からの許可を頂いたので、馳せ参じましたわ」

「ロゼとブリュレが来てくれると助かるよ。人手不足で手が回ってなかったんだ」

「……良かろう。俺様も手を貸してやらんでもない」


 昨日のうちにシフトを組み直しておけば、有事の際ににもすぐに動けるだろう。しかし、いつまでもこの体制を維持するのは無理がある、早急に毒男を捕まえないと……。


「で、この鳥はなんで喋ってんだ? モンスター?」

「こんな可愛らしいのに、そんな言い方はよくありませんわ」

「ロイエの知り合いピヨ?」

「ああ、俺様はロイエの親分だ痛い!」

「いい加減なことを言わないでくださいませ?」

「は、はい……」

「わたくしはロゼ・フリーレン。ロイエさんの婚約者ですわ」


 確かに言いました。ロゼさんに釣り合うような男になった時に改めて相談を受けると……。今思うと恥ずかしすぎて穴に入りたい……。


「ちょっと! あんたもいい加減なこと言わないでよ! ロイエの婚約者? 勝手に言ってるだけでしょ?! この妄想女!」

「な、ななな、なんですって?!」


 ああ、レオラが火に油を豪快に注いでる……。ヒートアップした二人を沈めるように、ラッセの氷魔法が飛んできてブリュレを凍らせた。


「なん……で、俺が……」

「少々お静かに願います。あなた方、何しに来たのですか? フォレストからの両名は速やかに依頼の受注手続きを行い、内容の把握をお願いします」

「す、すみません……」

「だはっ、寒い寒い寒い……」


 ロゼさんと氷を解除されたブリュレは、大人しくラッセのいる受付カウンターに向かうと、ラッセに慄いたのか熱心に依頼の説明聞いていた。


「ねぇ、ロイエ。婚約者って本当なの?」


 二人がラッセの説明を受けてる間に、僕はレオラにナッシュからの旅やフォレストでの出来事、ロゼさんの話を中心に話した。


「ふーん、まだお子様って感じね。聞いた限りだとあの人は、ロイエに最初から恋愛感情があったわけじゃなくて、親が結婚しろってうるさいから適当に見繕ったってのが始まりよね」

「う、まぁそうだね」


 ロゼさんの店に行った時に肩をつついたら結婚という、意味不明な流れだったのは確かだ。


「で、ロイエの話を聞いて信頼しているのは感じられるけど、愛は感じなかったな。彼女自身も結婚をただ漠然と意識しているだけだと思うよ? ロイエは一度でも好きって言われたことあるの? キスもまだなんでしょ?」

「それは……まだ無いね……」

「なら告白前のただの男女じゃない。それをいきなり結婚だーって言ってるあの人は、ロイエの気持ちを考えてるのかな?と疑問に思うよ」


 確かにレオラの言う通り、ロゼさんを好きかと言われると、正直レーラとの修行中やデザントに来てからは思い出すことはあまりなかった。それどころじゃなかったという方が正しいけど……。


「ロイエも、もう少し恋愛の経験を積むべきだよ。ロイエをちゃんと見てくれて、心から好きになってくれる人が良いんじゃないかな」

「心から好きな人かぁ……」


 前世は勉強の毎日で、就職してからは激務だったから恋愛なんてしている暇は無かったなぁ。


「私はロイエが好きだよ」

「え? んむっ?!」


 レオラが突然、僕にキスをした。


「あー、チューしてるピヨー」

「ななななな! ロイエさんに何してるんですか!!」

「へへへ、しちゃったー早い者勝ちだもんねー」

「くぅうう! 決闘ですわ!」


 唇に残る柔らかい感覚が、僕の胸をドキドキさせた。

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