[ 129 ] 洞窟の異変
「うわー! 見てくれよー! 少し掘るだけで鉱石がこんなに!」
ユンガは鉱石が掘れることに歓喜していた。昔は鍛治師が大勢押し寄せたという洞窟だ。現在は立ち入り禁止になっているとはいえ、やはりここに眠る資源は壮大なモノらしい。
「持ち帰り禁止だぞ」
「ちぇー」
「ほかの鍛治師には立ち入り禁止にしているのに、君だけに許可は出せない」
そりゃそうだ。みんなが入りたいのを我慢してるのに……。まぁファブロさんは我慢しないで無断侵入したみたいだけど……。
さらに歩みを進めると、どんどんと暑くなってきた。
「暑いですね……」
「そうだね。湿地帯はひんやりしていたのに、洞窟の奥は暑いな」
「あぢー」
ラッセさんは一人だけ涼しい顔をしている。我慢強いのか、その洋服に特殊な効果でもあるのか……。
「ラッセさん、俺たちにもシェンバウムをお願いします」
「シェンバウムってなんですか?」
「氷魔法練度★2の魔法だよ。体に氷の結晶を纏うことでこういった暑さを無効化出来るんだ」
「へぇーって、それは便利ですね」
「仕方ありませんね。シェンバウム・オルト・ヴェルト」
キラキラとした結晶が、僕らの周りを回り始めた。
「あ、全然違う……すごく涼しくなりました!」
「だろ?」
「あとで請求しますから」
「……はい」
暑さが和らぐと進む速度も全然違った。僕たちはレプティルクックを処理しつつ、さらに進むと道幅が広がり少し開けた場所に出た。
「左右からの奇襲に注意しましょう」
注意喚起しながらランタンを掲げると、広場の真ん中には非活性化したフィクスブルートが佇んでいた。非活性化しているということは既に魔力を奪われているのか。
「ナッシュにあったやつより少し大きいね」
「シュテルンさん! あれ!」
フィクスブルートの奥に白銀の鎧を着た、二つの白骨死体を見つけた。
「なぜこんなところに王国騎士が……」
「階級や所属はどうですか?」
「無いな……。本来はこの位置に記載されているはずだが……」
十中八九、星食いだろう。フィクスブルートの魔力を吸ったはいいけど、レプティルクックの群れにやられた可能性があるな。
「あ、こっちは書いてある。調査班 リーグル」
やっぱり調査班か。星食いは何故か魔力を抜き取る際に調査班を連れてくる。何か意味があるのだろうけど。
「何か他に落ちてないですかね?」
「なにか? うーん、特になさそうだけど」
魔吸石が落ちてるはずだけど、確かに何も無い……。誰かが持ち去ったのだろか?誰が?
「ラッセさん、後でこの事はマスターと騎士団は報告をお願いします」
「了解しました。兄にも伝えておきましょう」
フィクスブルートを通り過ぎ、さらに進むと今度はだんだんと道が狭くなってきた。
今まで通ってきた道は自然にできたか、はるか昔に誰かが掘ったような道だっだが、ここからは最近に掘られたような荒さがある。
「シュテルンさんこれって」
「ああ、ここ半年かそこらで掘った感じだね」
「待ってください。あれは?」
見ると道端には無数の魔石が落ちている。それも一個や二個ではない。数十単位で落ちている。しかも綺麗に壁に沿ってだ。
「シュテルンさん、この壁に無数にある釘を刺した跡みたいなのは、なんでしょうか?」
「なんだろうね。穴の下に魔石が落ちてるけど……。モンスターをこの壁に突き……刺したのかな」
わからないことを考えても仕方ない。さらに洞窟を一時間ほど進むと、魔石は増え……足の踏み場すら無いほどだった。
「異常ですよ……。仮にこれ全部レプティルクックだとしたら、マスターが逃げ出すもの頷けますし、練度★6パーティが絶滅したのもわかります」
「そうだね……この量は無理だ。軽く千は超えてるぞ……」
しばらく進むと、片足だけ取られたレプティルクックが、半死状態で壁に羽を打ちつけたれているのを見つけた。
「これって……」
「誰かが脚を食べた?」
殺すと魔石になってしまうモンスターを、あえて半殺しにして死なない程度にして食べる……。狂気の沙汰だ……。
「……カンカン」
その時、洞窟の奥の方から、何かを叩くような音が聞こえた。
「鍛治の音だ!」
手掘りで掘られた洞窟の先に進むと、今までで一番広ち空間が現れた。マグマが流れる明るい部屋の中で、何かを必死に叩く人影が見えた。
「おっさーーん!」
「ん? 誰じゃ?」
振り返ったのは、熱した剣を叩く……毛むくじゃらのおじさんだった。
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