[ 128 ] ニワトリ
「陣形ですが、ユンガとラッセさんは後方で、僕とシュテルンさんは前衛と言うのはどうでしょうか?」
「いや、重力魔法は発動がやや遅いのと範囲が狭く、上か下にしか力が働かないよね? ロイエも後方にいて俺の撃ち漏らしを叩いて欲しいかな」
サブマスターであるシュテルンの力量を見ることで、まだ戦ったことのない風魔法の上位者との戦い方がわかるかもしれない。勉強のためにここは受けておこう。
「わかりました」
「燃やされたら俺の水が役に立つな!」
「そ、そうですね。では行きましょうか」
ヘーレ洞窟の内部は横幅五メートルほどの洞窟で、それほど広くはない。ナッシュの採掘所との違いは、床にトロッコのレールがないところだろうか。
魔力ランタンの灯りを頼りに、警戒しつつ歩を進めると段々と道が広くなって来た。
「ちなみにニワトリモンスターに名前はあるんですか?」
「ああ、マスターが逃げ帰った後に、レプティルクックとして登録されたよ」
「レプティルクックか……火を吐くなら水魔法はよく効きそうですね」
カルミールベアも火を吐いたな。火を吐くモンスターは多いのだろうか。
「ちなみにユンガさん、レプティルクックにあったのはこの先ですか?」
「ああ、もう少し行ったところに、ん?」
前方の地面が前触れもなくボコォ!と盛り上がり「コケーーー!」と、ニワトリが飛び出して来た。
「で、でたーーーー!」
確かに前情報の通り、トサカが炎のように赤いニワトリで、尻尾が完全に蛇になっている。が、サイズは小さい。それほど脅威には感じないけど……。
「コココ、コケーーー!」
飛び出したニワトリは、勢いそのまま空中で静止すると僕らに向かって火を吐いた。ハリルベルのヴェルアよりも大きい!
「フリューネル!」
とっさにシュテルンさんが風魔法で火炎を押し戻した。火には水という先入観があったけど、確かに風も相性が良いかもしれない。
「コ?! コ、コココ……! シャァア!」
火が効かないとわかったのか、尻尾の蛇がこちらを向いて鳴き叫んだ。僕が昔読んだ本だと、コカトリスというのはニワトリと蛇が合体したのではなく、蛇が本体だと聞いた事があるが……。
「シャァアア!」
尻尾の蛇が首を回すと、後衛にいる僕らを狙って砂の盾が地面から突き出して来た。
「二人とも下がって! ジオグランツ!」
突き出して来た砂の盾は、重力により地面に引っ張られ跡形もなく崩れた。やはり物理色の強い土魔法が相手だと、重力魔法は相性が良い。
「コーケー! コケー!」
レプティルクックが悔しそうに地面を踏んでいる。この程度ならまだカルミールベアの方が強かったな。
「アレストルム」
シュテルンの放った魔法が、レプティルクックを空気の輪で捕まえると締め上げた。これはリュカさんが使ってた風の拘束魔法だ。ただ術者が違えばその威力も違うらしい。
「……コ?!」
シュテルンが力を込めると空気の輪が締まり、ニワトリは真っ二つに弾け飛んだ。
「ふむ。この程度なら練度★6のパーティやマスターが逃げ出すとは思えないけどな……」
シュテルンも同じ感想だった。この程度のニワトリが束になったところで、ただが知れている。
「もう少し先に進んでみよう」
「そうですね」
しばらく進むと何度かレプティルクックと遭遇したが、難なく倒せた。これがマスターが逃げ出すほどのモンスター? 何か聞いていた話と全然違うな。
「ユンガが来たのっていつくらい?」
「んー、おっさんが帰ってこなくて心配なってだから八ヶ月くらい前だな」
ならその間に何かがあったのかもしれない。元々はもっと強いレプティルクックがいたとか、信じられないくらい大量にいたとか。
いや、ここは人が住んでないからデッドリーフロッグ同様に、ボスなしの大量発生のはずだ。大量にいたはずのモンスターはどこに行ったのだろう。
しばらく進むと、三つの分かれ道が現れた。
「どっちに進みましょうか?」
「元々希少な鉱石の取れる洞窟だ。もしファブロさんが行くとしたら最深部だと思うよ。耳塞いでてね」
「ハウリングラウト」
声を大きくして、遠くまで届かせる風魔法練度★2の魔法だ。僕らは慌てて耳を塞いだ。
「こ・ん・に・ち・はーーー!!!」
シュテルンさんの爆音が洞窟の中に反響する。反響音から内部の構造を把握するつもりだ。
「こんにちはーー!」
声が返ってきたが左の道は短い。声が重なって聞こえてる。
「……こ・んにちはーー!」
真ん中は左より長いけど、まだ短いな。
「…………こ・ん・に・ち・はーーー」
右だ。他と比べて声の返って来るタイミングが遥かに遅い。
「右ですね」
「そうだね、進もうか」
風魔法は戦闘だけでなく、こういったダンジョン攻略にも役に立つのはすごい強みだな。
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