[ 127 ] ヘーレ洞窟入り口
「あれだ! あの洞窟だぜ! あれがヘーレ洞窟だ!」
ユンガの指差した方に視線を向けると、前方の山の裾野にポッカリと空いた入口と古びた小屋が見える。
「ミルト、調整してくれ」
「はーい」
ミルトが風魔法の出力を調整してゆっくりと洞窟の入り口に近づく。洞窟の周りは思ったよりも整備されていて、上空から見た通り壊れているけど小屋まである。
「昔は鍛治師がよく来ていたと言われるだけあって、小屋まであるのは便利ですね」
「うん、モンスターが大量発生してダンジョン化したのも、ここ一年くらい前の話だからね」
とりあえず入り口付近にモンスターはいないし、足跡もついていないことから、やはり洞窟の中が問題らしい。
「ユンガ、君が最近来たのはこの辺り?」
「ああ、洞窟の中に入ってしばらく進むと開けた場所にでるんだけど、そこに火を吐くニワトリがいて通れなくて引き返したんだ」
「火を吐くニワトリ?」
「練度★6パーティが消息を絶った後、マスターが調査に向かいましたがその時の報告だと、尻尾が蛇のニワトリが火を吐きながら石を投げてきたとか」
「火を吐いて石を投げるニワトリ?!」
尻尾が蛇だと……よくゲームに出てくるコカトリスみたいなモンスターかな。この世界に石化魔法は無いと思うけど。
「どれくらいの大きさなんですか?」
「これくらいだったぜ?」
ユンガは、膝あたりを指さしてサイズを教えてくれた。
「結構小さいんですね」
「バッカ! おま、あの凶暴さみたら逃げ出すぞ?!」
「そんなにですか……」
「あの豪快なマスターが逃げ出したほどですからね」
マスターの練度は知らないけど、マスターになるほどだから練度★6は超えているだろう。そんな人が入り口で逃げ帰るほどか、覚悟した方が良さそうだ。
「万が一があるといけません。逃げ道の確保でシュテルンさんは入り口で待機しててもらってもよいですか?」
「いや、忘れたかい? 今回の依頼は練度★7必須依頼だから俺の名義で受けてるんだ。ロイエはまだ練度★3だろ?」
そうだった。マスターに話したら練度★6のパーティが全滅してるんだからと、練度★7以上じゃないと許されなかった。ルヴィドさんは練度★6で、ミルトは永久に練度★2と、とてもじゃないけど依頼を受けるレベルには達していなかった。
「ロイエがどうしても、その剣を作ったファブロさんに会いたい。モンスター討伐は何度もやったことあるというから無理して来てることを忘れないでくれよ」
「すみません、そうでした。ではラッセさんは……監視役でしたね。となると、ルヴィドさんここで退路の確保をお願いしてもいいですか?」
「そうですね。私とミルトはここに来るまでけっこう魔力を使ったので休みがてら、門番をするのが良いでしょう」
「早く帰ってこいよぉ」
ユンガは、おっさんに会えるかもしれないのに置いてくなよ!と譲る気はないみたいなので、僕とシュテルン、ラッセ、ユンガの四人でヘーレ洞窟へ潜る事になった。
僕が回復術師だと知らないメンバーになってしまった事と、普段の戦いから連携の練習をしてないメンツということで、とても不安だ……。
「あの突入前に、シュテルンさんとラッセさんがどこまで戦えるのか教えてもらえますか?」
「仕切りたがり屋なんですね。初心者」
「練度★3の癖に、練度★7の俺に戦えるのか?だって? 失礼しちゃうなー」
「ご、ごめんなさい」
「いやいいよ、連携は大事だし」
話が長くなりそうだと思ったのか、シュテルンは切り株に腰をかけた。
「俺は風魔法の練度★7、武器はこのナイフさ」
シュテルンさんは、袖の中からシュッとナイフを取り出した。まるで手品みたいに一瞬で取り出した。風魔法による機動力と小回りの効く二刀流ナイフでの攻撃か。確かに強力だ。
「僕は重力魔法と剣術が得意ですが、現在剣は折れてしまい半分程度の長さになっています」
「俺はさっき見せたけど水だぜ! 武器は自信作のハンマーソードだ!」
ユンガの見せてくれたのは、剣の先にハンマーが付いている武器で、破壊力はともかく……とりあえず鞘にしまうことのできない危なったかしい武器だった。
「あのラッセさんの魔法は……」
「今回は監視役として来ていますので、一切戦闘は致しません。ポンコツ」
「そこをなんとか……」
「監視役というか、危険があったら助けるように言われてるんだけどね」
「……コホン」
「すみません……」
シュテルンさんはここでもサブマスターみたいだけど、力関係はラッセさんの方が上っぽいな。騎士団長のリーダーを兄に持つ妹だからかな。ただの受付嬢ではない気がする。
「では、ルヴィドさんミルト、よろしくお願いします」
「ええ、ロイエ君も気をつけて」
「お土産待ってるー」
こうして,僕たち四人はヘーレ洞窟へと足を踏み入れた。状態異常回復の魔法もあるし、大事には至らないだろう……。
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