[ 130 ] 鍛治師ファブロ

「おっさん! 俺だよ! ユンガだよ!」

「ユンガ? おぉ、久しぶりじゃのう」

「おっさんこそ! ちょっと石取ってくるって出かけたまま一年も帰ってこないから心配したんだぜ?!」

「なんじゃと? 一年? まだ一ヶ月くらいじゃろ?」

「んなわけあるかー! 一年だよ!」

「そんなにおったかの?」


 どうやら夢中で鍛冶をしているうちに、時間感覚がおかしくなっていたらしい。


「あの、鍛冶屋のファブロさんで間違いありませんか?」

「そうじゃけど、おぬしらは?」

「デザントのギルドから、ファブロさんの捜索依頼を受けた冒険者です」

「そうか、わざわざすまんな」


 話を聞きながらも、剣を叩いてる手をやめない。生粋の鍛冶屋なんだろう。


「ここは立ち入り禁止区域に指定されています。一緒に出ましょう」

「え、嫌じゃよ。わしが来た頃は禁止されておらんかったぞ。あとから禁止になったらから出ろというのは、おかしくないかの?」

「あとから?」

「そうじゃよ。わしはここに来た時は誰もおらんかったぞ」


 つまり、ファブロさんがここを見つけて、その後に発見した人が鍛冶屋を連れてわんさかやってきて盛り上がり、星食いがフィクスブルートから魔力を抜いたせいでモンスターハウス化。みんな逃げ回って、練度★6パーティも負けてしまい、マスターも逃げ帰り。という流れか……。


「ファブロさんはどうやって、ずっと暮らしていたんですか?食料とか水は……」

「そこらへんに、一匹捕まえておいたじゃろ?ニワトリ。あいつを食っておったよ。いくらでもいるからな、食い放題じゃよ」


 食い放題……。なるほどあの壁の穴はレプティルクックを捉えていた場所で、その下の魔石は食べ終わって死んだからか……。


「水は? どうしてたんですか?」

「わし、水の魔法使いじゃからな、いくらでも出るぞい?」

「こんなところで自給自足してたんですね……」

「丁度、ここのマグマの温度が鍛冶に適しておってな。自分で水も出せば冷却もできるしの?飯もあるしの?つい、長居をしてしもうた」


 なんて爺さんだ……。あ、そうだ。カルネオールを直してもらわないと……。


「あの、ファブロさん。この武器なんですけど……」


 宝剣カルネオールを取り出して、折れた切先と共に手渡した。


「ほぉー? これはわしが作った剣じゃな? ふむ、懐かしいのぉ。確かナッシュにいた時に金がなくて質屋に売ったなんだったかな」

「七福屋という骨董品で購入しました。ただ、度重なる戦いの影響で折れてしまって……直せないでしょうか?」


 ファブロさんは折れた剣先をくっつけてみたり、ハンマーでカンカンと叩いてみたりと状態を見てくれた。


「うーむ、剣自体は直せるがコーティング材のカルネオールが手持ちにないの……。そういえば、似たような性質のものを拾ったような」


 ファブロさんがガサゴソと工具箱から取り出してきたのは、恐らく先ほどのフィクスブルートから魔力を吸った魔吸石だ。


「それをどこで……」

「ここに来る途中のフィクスブルートの側で拾ったんじゃよ。こいつには魔法を吸収する力があるみたいでの、カルネオールと似ておる」


 確かに性質的には似ているけど、魔吸石は呪文がないと発動しなかったような……。


「ちょっと癖があるが、わしの手にかかればカルネオールを超える剣が作れるかもしれんな」

「本当ですか?!」

「うむ。ただし、一ヶ月ほど時間がかかるがの」

「一ヶ月……」


 僕らは調査班のアウスとの密会のために、アクアリウムへ早急に行かないといけない……。次の船便が明日出てしまう。一ヶ月もここで時間を使うわけにはいかない。


「どうしよう……」

「ロイエ、とりあえずファブロさんには一度ここを出てもらって、店に戻ってから考えようか」

「そう……ですね。ルヴィドさんにも相談したいですし」


 問題は、いまだにカンカン叩いてるファブロさんをここから引き剥がせるかどうか……。


「おっさん、一度店に戻って来てくれよ」

「うーん。店はお前にやるから好きにしてくれていいぞ。わしはもうしばらくここで暮らす」


 やはりそうなるよな……。


「でも、ファブロさん、ここに来る途中でニワトリは全部殺してしまいました。もう食料がありませんよ」

「なんじゃと? うーむ、なら仕方ないのぉ」


 諦めてくれたからと思ったが、あとちょっとだけ、あと少しと延々にカンカン叩いてるファブロさんを、いい加減イラついたラッセさんが氷漬けにして鍛冶台から引き剥がした。


「長い。もう話し合いは終わってるのでさっさと撤退しましょう。鈍臭」

「はい……」


 ユンガに手伝ってもらってファブロさんの荷物を集めるとひとまとめにして、ジオフォルテで軽くした。


「帰り道はわかってるし危険もないから、ロイエに全員軽くして貰って、俺が運ぶよ」


 お言葉に甘えて全員軽くすると、シュテルンさんが風魔法で爆走して、行きは数時間かかったのに帰りは三十分ほどで入り口まで戻ることが出来た。

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