[ 115 ] 水魔法練度★7

 目の前には五人の青髪騎士ノルム。目の錯覚……。 いや、影がある。実体だ。僕の知る中で、こんなことをできる魔法はない……。となると。


「練度★7……魔法?」

「そうだ! 恐怖に慄け! これぞ!水魔法練度★7! ペンタグラムゼルプスト!」


 見た目や装備も全く同じ分身を四体も生成する魔法か。これがただの分身ならいいけど……。


「お前のチンケな重力魔法など、我々の前では無意味と知れ!」

「雑魚共め!」

「殺せ!」


 三人のノルムが一斉に襲ってくる。装備まで複製するのか……! 厄介なことに分身も騎士の鎧を着て、剣を持っている。


キンッ!


 分身ノルムの剣撃をカルネオールで受けると、剣を打ち合う感覚などは本物とそう変わらない強度を誇っている。しかも刃こぼれしてもすぐに修復するため、本物よりもタチが悪い。


「くっ! はっ!」


 本物のノルムが分身の後ろでレッドポーションとブルーポーションを飲んでいるのが見えた。やはり練度★7の魔法ともあれば魔力がキツイはずだ! 分身に構ってる暇などない! 本体を叩く!


「ジオグランツ・ツヴァイ・ジオフォルテ!」


グシャ!


 重力の段差で三人のノルムを押し潰すと、ポーションを飲んでる本物のノルムへと走った。肩の傷を治しても、服についている血は隠せていない。


 高速で走る僕の前に、ファレンさんを人質に取ったノルムの分身が道を塞いだ。


「こいつがどうなってもいいのか?」

「た、助けてぇえー!」


 三体しか向かってこないと思ったら、一体はファレンさんを捕らえていたのか……。ファレンさんには申し訳ないが怪我しても回復すれば良いと割り切って、僕は分身のノルムへ斬りかかった。


「ごめん! ファレンさん!」

「な! クソの役にも多々ねぇ雑魚騎士がっ!」

「ぎゃあっ!」


 分身ノルムがファレンさんの喉を切り裂くが、僕の刃も分身ノルムの首へ届いた。スライムを切った時のように、スパッと首を跳ね飛ばす。動きが鈍くなった隙に分身ノルムの両手を切り落とした。


 落ちた剣と腕は水になり、グニャグニャと再生のために集まっていく。分身にダメージはないが一時的に四肢を切り離せば、元に戻るまで時間が稼げる。


「ファレンさんは回復をかけ……ぐぁああ!」

「おいおい、戦いの最中によそ見はだめだろー?」


 肩の洋服が血に染まっている本物のノルムが僕にメルクーアレッタを打ち込んできた。僕の後ろにはさっき重力で潰した三体が迫っている。やはり重力でいくら潰しても水は水だ。僕が移動して重力圏外になればすぐに元に戻るか。


「さて魔力も少し回復したし、さっさと終わらせるか」


 待てよ……。いま、僕を貫いたのはメルクーアレッタだ……。そんな、ノルムはいま練度★7の魔法を使用中なのに……。


「じゃあな、誰だか知らねーけど。俺の最大の呪文でトドメを刺してもらえることを光栄に思うんだな」


 ファレンさんを斬った分身ノルムも復活して、五人のノルムにファレンさんと僕は囲まれた……。切り抜けるのは無理だ。ファレンさんがいるせいで巻き込んでしまうから重力魔法も使えない……。どうすれば……。


「あばよ! メルクーアレッタ・オルト・ヴェルト!」

「メルクーアレッタ・オルト・ヴェルト!」

「メルクーアレッタ・オルト・ヴェルト!」

「メルクーアレッタ・オルト・ヴェルト!」

「メルクーアレッタ・オルト・ヴェルト!」


 悪夢だ……。五人のノルムがそれぞれ魔法を唱えてきた。まさか練度★7は他の魔法を同時に発動出来るとは……。


 辺り一面を覆い尽くすほどの水の球が現れ、僕らを目掛け一斉に発射される。乗り切るにはこれしかない!


「死ねぇぇぇえ!」

「グローリアヴァイト!」


 温存しておく余裕はないっ! 足元に回復魔法陣が発動し、僕とファレンさんを淡い光が包み込む。


「な、なんだこれは……?!」


 範囲自動回復魔法陣を出したは良いが、メルクーアレッタは止まらない。次々と僕やファレンさんを貫いていく。


ビュン! ビュンビュン!


「ぅ、ぐは! がはっ!」


 シュゥ……。


「治っていくだと……貴様。まさか」


 水のレーザーに打たれながらも、僕らはその場で瞬時に回復していく。どれくらい体を欠損すると回復出来ないのかわからないけど、ルーエさんとノルムのメルクーアレッタを回復できていることから、このサイズの攻撃なら魔法陣がある限り僕らは死ぬことがない。

 

「ふざけるな! 回復が間に合わぬほど細切れにしてくれる! うらぉあああ!!」


 五人のノルムが、手当たり次第に水のレーザーをぶちまけてくる。僕は回復しながらカルネオールで本物のノルムへ切り掛かった。


「ぐぁあああ! こうなったら! う……うゔぁ! ぐ、魔力が……。うぶ……」


 開幕からメルクーアレッタ・オルト・ヴェルトをあれだけ乱発に加えて練度★7の魔法まで使ったのだから、魔力は枯渇して当然だ。


「敗因は魔力配分ですね。僕らの師匠が言ってましたよ。『魔法は便利だけど頼るな、いつでも使えると思うな』と」


 カルネオールでノルムを斬りつけると、ブシャ!と血が飛び出て、分身は水に戻り青髪騎士のノルムが力なく倒れた。


「はぁはぁ。開幕から分身されてたら危なかったかもしれない……」


 それにしても、レーラさんとの特訓のおかげで練度★7持ちの魔法使いを倒せた……。これは僕にとって大きな進展だ。


「あ! ミルト?!」


 魔力枯渇で動けないけど怪我はない。大丈夫そうだ。

「ファレンさん、ミルトの事を頼みました」

「あれ、怪我が治ってる――。は、はい!わかりました!」


 早くルヴィドさんの加勢に行かないと! ブルーポーションを飲みながらフィクスブルートを目指すと、巨石の隣……巨大な氷柱の中に閉じ込められたルヴィドさんを見つけた。


「ルヴィドさん!」

「おや。ノルムは破れましたか……。まぁ彼は雑でしたからね。仕方ありません。この雷魔法使いですか? あまり激しくお怒りになるので、氷漬けになってもらいましたよ……と」


ゴゴゴゴゴォォォオオオ!!


「じ、地震?!」


 フィクスブルートの赤い輝きが黒ずんで行く……!


「魔吸石は僕が持ってるのに!」

「おや? 魔吸石が一つだなんて、どこ情報ですか?」


 水髪の騎士レールザッツが、邪悪に微笑んだ。

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