[ 114 ] 青髪騎士ノルム

「お前の相手は俺だろ! ゼレン!」


 赤髪騎士が、物凄い速さでレーラに引っ張られていく。作戦通りレーラさんはリーダー格の赤髪騎士を孤立させる気だ。


「ロート様!」

「ノルム! レールザッツ! そいつらはお前らに任せる!」


 ノルムと呼ばれた水魔法使いの青髪騎士は、相性的にルヴィドさんでは分が悪いと思ったのか、即座に近距離系のミルトへターゲットを変更した。


「ヴァリアブルクヴェレ!」

「グリーゼル!」


 青髪騎士ノルムの放った水の蛇を、ミルトが瞬時に凍らせる。その様子に驚いたのは二人の騎士だ。一人に一つの属性が基本のこの世界で、ミルトの六属性所持は異例中の異例だ。


「な……! こいつ! ダブルだと?!」

「いや、彼女はさっきから土と水、火と氷を使ってます。恐らく数年前にヘクセライの近くの爆破された実験場から逃げたジンテーゼの可能性があります」

「なるほどな。ジンテーゼか」


 ジンテーゼってなんだ? 話的にはミルトみたいな実験体の事を指している気がするけど……。


「その話、詳しく聞かせてほしいです……ねっ!」

「ほぉ。クラウンクロイツを待機させていましたか……。器用なことを」


 ルヴィドさんの雷の剣が、次々と水髪騎士レールザッツを襲い、それを氷の盾で防がれていく。砂の盾と違って氷の盾は発生した地点から右へ左へと、その面積を伸ばせるようだ。二人が激しい攻防を繰り広げならが離れていく。


「よし! 雷野郎さえいなければ問題はねぇ。お前らは俺様が相手してやるよ」


 ルヴィドさんが青髪騎士を相手した方が相性が良かったんだけど、ミルトの秘密を知っていそうな水髪騎士レールザッツへついて行ってしまった。僕とミルトで青髪騎士ノルムを倒すしかない。


「複数属性所持はやっかいだが、ジンテーゼとわかれば……。メルクーアレッタ・オルト・ヴェルト!」


 青髪騎士ノルムは、僕とミルトのそれぞれへ狙いを定めて次々とレーザーを打ってきた。


「ザントグリーゼルシルド!」


 ノルムの攻撃をミルトの氷の盾が防ぎ凍らせる。貫通力を警戒してか、盾は普段よりも厚みがあり、ノルムのメルクーアレッタでは貫通出来ていない。


 メルクーアレッタは貫通力の強い魔法だが、実はクラウンクロイツほど速くはない。発射された後も水の軌跡が視覚的に見えるため、僕の向上した身体能力があれば回避するのは容易い。


「ちっ! このガキ、なんて動きしやがる。まぁいい。狙いはテメェだ」


 ノルムは、僕へ牽制の攻撃をしつつミルトへ執拗に攻撃す。


「ガンガンいくぞオラー!」


 ガリガリと砂氷の盾に水がぶつかり凍る……。ノムルの狙いはなんだ? あいつの水魔法がミルトに効かないことは明白……。


「ミルト大丈夫か?!」

「ふぁーい」


――ジンテーゼと分かれば――


 まずい! これを狙っていたのか! ジンテーゼが仮にミルトのような実験体のことを指しているとしたら、奴が狙っているのはミルトの魔力切れだ! 攻撃がミルトに集中してるうちに僕が切り開くしかない!


「ジオグランツッ!」


 レーラさん直伝の高速移動術でノルムへ近づく。ルーエさんとの戦いで水魔法使いの速度はわかってる。


「くっ! チョコマカと!」


 しめた! メルクーアレッタが切れた! ノルムがどんなに強かろうが、魔法再使用まではチャンスだ!


 ノルムが剣を抜いて応戦してくるが、やはり宝剣カルネオールの方が切れ味が良い。刃がガタガタになってくる剣を前にノルムの焦りが見える。


「はぁあああ!」

「ぐあ!」


 ノルムの肩に一撃決まった。もう左手は使えまい。剣の強さと剣術、体のこなしは僕の方が上だ。一気に畳み掛ける!


「ミルト援護を!」

「うぷ。うげぇ……」


 魔力切れか! いくらミルトが多数の魔法を使えるとは言っても練度★2しかない。練度は上がるごとに魔力総量が桁違いに伸びるため、練度が低いミルトは魔力切れが早い。


「私がお助けします! ぬん! ヴェルア・オルト!」


 ミルトが動けないと思いファレンさんが飛び出してきてノルムに魔法を浴びせるも、最悪の選択になった。


「はっ! ありがてぇ! ヴァッサー!」


 辺りにブワッと水蒸気が立ち込めて、ノルムの居場所がわからなくなった。どこだ……?! いや、見つけた! カチャと鎧のぶつかる音、騎士の鎧が仇となったな!


「そこだぁあああ! もらった!」


 高速移動してノルムの首へ宝剣カルネオールを一閃するも……。ノルムの首が落ちない……! 確実に斬ったのに手応えがおかしい……!


「この手応えは……いったい」

「メルクーアレッタ」

「ぐはっ!!」


 ノルムとは別の場所……。水蒸気の奥から水のレーザーが飛んできて、僕の肩を貫いた。すぐにクーアで癒して体勢を整える。


「んー? 手応えがあったと思うが、レッドポーションでも使ったか?」

「てめぇ、何をしやがった……」

「外したようには見えなかったぜ?」


 な、なんだ……?! 何が起きてる?!

ノルムの声があちこちから聞こえる……。水蒸気の隙間から二人の人影が見える……。


「なんだ? ノルムが……二人?」

「二人? 何を言ってんだコイツ」

「そんな……バカ、な」


 水蒸気が完全に晴れると、そこには五人の青髪騎士ノルムが立っていた。


「二人じゃねぇーよ、五人だ」

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