[ 113 ] 緊張

 修行を開始してから、三ヶ月が経過した。


「クラウンクロイツ・オルト・ヴェルト!」

「よし! そこで二割を上空旋回! 三割を地面スレスレで待機! 残りの三割でミーを攻撃! 最後の二割でロイを攻撃!」

「は、はい!」


 驚いたことに、ルヴィドさんは一ヶ月で練度★6を解放した。それから毎日自身の最大呪文をコントロールに全力だ。


 千を超える雷の剣を同時に操りつつ、僕らはそれに対応するという合同訓練を、最近はよくやっている。


「ザントフリューネルシルド!」


 ミルトの前にある地面が、風で巻き上げながら盛り上がり、通常のザントシルドよりも大きな砂の盾が一瞬で現れた。これは、ザントシルドを唱えながらフリューネルを同時に唱えるという詠唱方法を発見したから出来たことだ。


 風で舞い上がった砂もザントシルドに取り込むことで、通常よりも速い速度でより大きな盾が出せるようになった。ザントヴェルアシルドで、炎を纏った盾も出せる。魔法の組み合わせは多く、使い勝手の良い魔法を探している最中だ。


 ミルトが巨大な砂の盾で飛来する二百の雷の剣を防ぐと、僕も飛んできた無数の雷の剣を、素早い足捌きで回避した。


「よっ! ふっ!」


 避けきれない攻撃は宝剣カルネオールで受け止めて地面に刺して放出し、次の攻撃に備える。


 僕は、三ヶ月間ずっと四倍重力の中で生活したおかげで、人一倍身体能力が向上した。


 特に、足にかかる重力だけを軽くし速く走る技をレーラに教わった事と、宝剣カルネオールが対魔法防御の盾としても使えることに気付いたのは大きな進展だった。


 重力のような範囲技は防げないけど、今みたいな単発的な攻撃ならある程度防げる。


「よーし! そこまで。ルー、連続で最大呪文を出せるようになってきたな。魔力総量もいい感じだ」

「ありがとうございます」


「ミー! もう少し自分を包み込むイメージでザントシルドを出してみよう。左右と背後がガラ空きだ」

「はーい!」


「ロイは、足にかかってる重力をセーブしろ、少し体が浮き過ぎてる」

「わかりました!」


 みんな順調に強くなっているが、僕の練度はこの三ヶ月上がっていない。やはりそれなりの年月が必要なようで、少し焦った。


 そんな修行が続き、さらに四ヶ月後。

 ある日突然、星食いの第二陣がやってきた。


「この村に半年ほど前! ゾルダートという王国騎士が来たはずだ! 隠し立てすると容赦はせんぞ!」

「あぁ! リオっ!」

「ゾルダートを連れてこなければ……。この娘を殺す!」

「それが王国騎士団のすることか!」

「黙れ! 貴様らが隠し立てするからだろう! 皆殺しにされたいようだな!」


 ピーと緊急用の笛の音が聞こえて村に向かうと、フィクスブルートの周りに馬に跨った王国騎士団が三人来ていた。あの黒髪の騎士はいないか。彼なら少しは話がわかるかもしれないと思ったんだけど……。


「あ、あれは……」

「どうしたんですか? ファレンさん」

「やばいです。あの青髪と水髪の二人、監査班です。見たことがあります」


 ゾルダートと同じ監査班か。星食いとみて間違いないだろう。


「もうちょっと修行したかったんだけどな。しかたねーか。ファー、村人が逃げるまでの時間稼げるか?」

「……私もこの村の人には恩があります。やってみせましょう」

「頼んだぞ」


 この日のための段取りは決めてある。村人は既に大多数が密かに避難所へ退避しているはずだ。


 村長は代々フィクスブルートを守ってきた一族だ。「例えここがまた戦場になろうとも、フィクスブルートを守るために戦ってくれるなら我々の命は預ける」とまで言ってくれた。絶対にこの村を守りたい。


「ミー。お前が一番機動力が高い。ファーが騎士団の気を引くから、捕まってる女の子を助けて避難させてくれ」

「わかった! 私に任せてっ」

「俺があの赤い髪のリーダー格の奴をやる。ロイは水髪を、ルーは青髪をそれぞれ頼んだ」


 作戦の再確認をしていると、ファレンさんがフィクスブルートの前に姿を現した。


「この村の者に危害を加えるのはおやめください!」

「貴様、ゾルダートと一緒にここにきた雑用兵だな。まだ生きていたとは……。ゾルダートはどうした」

「ゾルダート様は……。あのクソ野郎の骨は肥溜めに沈めました!」

「クハハ。いい度胸だ……。一撃で楽にしてやろう」


 赤髪の騎士が剣を抜くと同時に、ファレンさんが手に持った粉を騎士達に向けてばら撒いた。


「なっ?!」

「喰らえ! ヴェルア・オルト!」


『ボォオン!』


 粉塵爆発だ。ファレンさんの魔法の威力を少しでも上げるために用意していた。


「ちっ! 雑魚が! ヘルブランランツェ!」

「ザントヴァッサーシルド!」


 粉塵爆発に紛れて、ミルトがフリューネルでファレンの前に飛び込み水砂盾で赤髪騎士の魔法を防ぐと、ぶわっとあたり一面に水蒸気が散った。


「くっ! ノルム! レールザッツ! 来るぞ!」


 ミルトが捕まってた女の子を救出すると、一目散で退避するのが見えた。


 ミルトが女の子を助けているのを見計らって、レーラが飛び出した。騎士団を全開で押しつぶす。


「ジオグランツ・ツヴァイ・ジオフォルテ・オルト・ヴェルト!」


「なっ! ぐううぅぅ! 重力使いか!!」


 ゾルダートの時と同じく超広範囲の重力圧による先制。これで終わってくれれば最善だが……。


「ヒヒー……ンッ」


 騎士団の乗ってきた馬が潰れた。


「むぅ。小賢しい……。メルクーアレッタ・オルト・ヴェルト」


 青髪騎士の近くに無数の水玉が宙に現れると、レーラに向かって水のレーザーが次々と飛んでいく。ルーエさんと同じ魔法とは思えないほどの精密な射撃だ。一度に全部を打ち出すのではなく、無数の水玉から時間差で次々とレーラに向かってレーザーが照射される。


「ちっ! なんて精度だ!」


 レーラもギリギリ回避しているが反撃する暇はなく、重力魔法は強制的に解除されてしまった。


「クラウンクロイツ・オルト・ヴェルト!」


 ルヴィドさんの呼び出した千を超える雷の剣が青髪騎士を襲う……! 訓練に訓練を重ねた精密な動きは、青髪騎士にも負けてはいない。


 逃げ場はない! 青髪騎士を捕らえた!とガッツポーズを取った瞬間、青髪騎士を氷の盾が守った。さらにルヴィドさんの足が凍っていく。


「カルトシルド・オルト・ヴェルト」


 水髪騎士が氷の盾で青髪騎士を守りながら、同時にルヴィドさんを攻撃してきた。


「くっ!」

「ザントヴェルアシルド!」

「ジオグランツ・ツヴァイ・ジオフォルテ!」


 ミルトが氷を溶かして破壊した隙に、僕は水色髪の騎士を軽くした。レーラさんの加重圧ですら耐えたのだから僕の魔法が効くわけない。軽くしてバランスを崩したところを取る!


 水髪の騎士に宝剣カルネオールを振りかぶった。その瞬間、背後からヘルブランランツェが飛んできた。


「くっ!」

「ほぉ? 俺の魔法を防ぐとは中々の業物だな」


 あれだけ魔法を打ったのに、彼らはほとんど無傷だった。ルーエさんやゾルダートとはレベルが違う強さだ……。


「なるほどな。お前らか……。ゾルダートを殺したのは。その首のぶら下げた魔吸石。返してもらうぞ?」

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