[ 116 ] 水髪の騎士レールザッツ
「さて、どんなモンスターが来るんでしょうねぇ?フフフ」
まずい……。この水髪の騎士レールザッツは、ノルムより強い可能性がある。ルヴィドさんがこうもあっさりやられるなんて……。
「来ないんですか? なら……。ナーデルフロワ」
「しまっ!」
レールザッツから放たれた無数の小さな氷の針が足に刺さると、一瞬で凍っていく。
カチカチカチ……。
「なっ! 動けない……?!」
「ノルムのおかげでこの辺一体は、全て私の掌の上……おわかりですか?」
言われて気付いた……。五人のノルムが手当たり次第に撃ちまくったメルクーアレッタにより、あたり一面水浸しだ。
「氷魔法使いと水のフィールドで戦うなんて、無能なのですか?」
グローリアヴァイトがあれば、どんな敵もゾンビアタックで倒せると簡単に考えていたけど……甘かった。この氷結は回復ではどうしようもない!
「ヴェルア・オルト!」
「ファレンさん!」
「あ、相性って話なら、私の方がっ!」
ファレンさんの魔法のおかげで氷が溶けたっ。ノルムより格上なら先の先をいくしかない! 足を拘束していた氷を剥ぎ取ると宝剣カルネオールを手に駆け出した。
「私はノルムのように甘くありませんよ。全力で行かせていただきます。グラオペルリング」
僕の剣が届くよりも速く、レールザッツを氷が覆って球体となり回り始めた。防御系魔法か?! 氷程度の強度ならカルネオールで砕ける!
パキーン
「なっ……」
「鉄や鉱物は超低温環境下で硬度が脆くなるんですよ。知らなかったんですか?」
回転する氷球を攻撃した宝剣カルネオールが真っ二つに折れ、切先が地面に突き刺さる。
「こうなってしまったら、私を倒す術はありませんよ」
レールザッツを内包した氷の球体は、地面から氷柱に押し上げられぐんぐんと高度を上げていく。
「これは氷魔法練度★7の絶対防御魔法。この状態の私にはいかなる攻撃も効きません。そして――。ナーデルフロワ」
高速で回る球体から、小さな氷の針がいくつも飛来し辺りを無差別に凍結していく。なんとか回避するが、肩に腰に刺さり凍結されていく。そうだった。練度★7は同時併用が可能なんだ。
「ファレンさん! 頼みます!」
「は、はい! ヴェルア・オ……あ、ぅ」
「ファレンさん!」
ルヴィドさんと同様に、ファレンも一瞬で氷漬けになってしまった。
どうする!? 回復も重力も氷魔法の前には意味がない。僕とって最悪の敵だ。考えろ。何か打開策は……。宝剣カルネオールも砕けた。僕に残された手は……。
「ハウリングヴェルアラウト!」
ミルトの放った魔法であたり一面の氷が氷解した。フィーアがリンドブルム襲来の時に使っていた声を拡散する風魔法練度★2のハウリングラウトと、ヴェルアを組み合わせた広範囲火炎魔法。これも訓練の中で見つけた魔法の一つだ。
「ミルト助かった!」
「ふぇい」
気の抜けた返事をして倒れ込むミルト。
「変わった魔法ですね。さすがジンテーゼと言ったところでしょうか?」
「クラウンクロイツ・オルト・ヴェルト」
千を超える雷の剣がレールザッツの氷結界球を襲う。ミルトの魔法でルヴィドさんが覆っていた氷が少し溶けて顔が現れた。
「ほぉ、まだ生きていましたか……。男の私が嫉妬するくらい美しい顔立ちだったので、取っておこうと思いましたが……。確実に殺すべきでしたね」
レールザッツが話す間もルヴィドさんの攻撃は止まらない。次々に雷の剣が回転する氷球を襲うが、その回転力は見た目より激しく……全ての攻撃が防がれた。
「だから無駄だと仰ったのに……。さようなら。ナーデルフロワ・オルト・ヴェルト」
空間を埋め尽くすほどの氷の針が、次々と氷球から発せられ凍っていたファレンさんが、少し溶けていたルヴィドさんが、倒れているミルトが……僕の体が完全に凍った。
「ふむ。ノルムがもう少し賢ければ、私とのコンボですぐに終わったのに……。さて、トドメを刺しておきますか」
レールザッツが氷結界魔法を解くと、針のような長い剣を手にこちらへ向かってくる。変わった形状だが、凍らせた相手を突き刺すための剣なのだろう。
ダメだ……。全身が氷で覆われてまったく身動きができない……。寒さで唇も動かないから魔法も唱えられない……。
「まずは一人目」
レールザッツの剣が、僕の心臓を突き刺した。
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