[ 120 ] 黒髪の騎士

「……全員起きたか」


 ドアを開けて入ってきたのは、例の黒髪の騎士と部下の三名の騎士。


「ああ、君らはそこで待機してくれ」

「しかし、アウス様……」

「下がれ」

「……かしこまりました」


 アウスと呼ばれた黒髪の騎士は扉を閉めると、懐から魔力ランタンを取り出してきた。まだ日は落ちておらず窓からの日は入るし、部屋は暗くない。


 彼は口の前で人差し指を一本立てると、声を出すなと合図した。それをみてルヴィドさんもミルトも顔を合わせて頷いた。


「ザントシルド・オルト・ヴェルト」


 小声で呪文を唱えると、ゆっくり部屋の壁を分厚い石や砂が何重にも覆い隠していく……。窓も塞がれ部屋の中は彼の持つ魔力ランタンの灯のみとなった。


「ふぅ……。やっとこうして君達と話が出来るな」

「どういう事……ですか? 僕たちのことを知っているんですか?」

「うむ。私は王国騎士団、調査班を任されているアウス・ラーベンコールという者だ」


 アウス、それが彼の名前か。こうして間近で見ると、やはり彼はナッシュ近郊の森で出会った騎士だとわかった。


 アウスは自己紹介を終えると、懐から三枚のカードを出し、僕らに差し出してきた。


「気を失っている間に属性測定器で調べさせてもらった。ロイエ、君はカードを偽装しているな。本当は回復と重力。発行したのは……この名前たしか、ナッシュで暴れてた爺さんだな」


 まずい、全部ばれている。マスターが偽造した事も全て。どうする、ここでアウスを倒して強行突破? 部屋はアウスの土で覆われている。ここで暴れると全員生き埋めになるな。


 僕の様子見をみて、慌ててアウスが口を開いた。


「誤解しないで欲しいのだが、俺は君たちを捕まえるつもりはない。むしろ君たちのおかげでやっと奴らの尻尾が掴めたのだがら、感謝しているくらいだ」

「感謝……ですか?」

「ああ、我々は星食いの正体を探していたのだ」

「……どういうことですか」


 その単語を知っているということは、彼が少なくとも星食いがフィクスブルートを狙っていることを理解している証拠だ。


「実は調査班のメンバーが、この数年で何人も行方不明になっている。いなくなったメンバーは、ほとんどの場合モンスターが大量発生した現場で死んでいるんだ。斬り傷が致命傷になってな……」


 奴らだ。しかし、なぜ調査班のメンバーを……。そう言われればルーエとトロイ、ゾルダートとファレン、確かに星食いは誰かしら星食いメンバーではない人を従えているな……。


「一人だけ、死ぬ前に見つけることが出来たメンバーがいたのだが、監査班の男に昇格のための極秘任務だと言われて連れてこられたと。連れてきた男の名は、ゾルダート。監査班の男だ」


 ゾルダートは、次々調査班の人はフィクスブルートへ連れてきたのか……一体なんのために? 待てよ?


ゾルダートはこんなことを言っていなかったか?


――「まぁいいや。ファレン……残念だが、お前にはここで死んでもらう。そういう計画だったんでな」――


 計画……? つまり星の魔力を奪うにあたって、調査班の人間が必要だった? なんのために……。


 今回村でのモンスター発生は二回あった、グリフォンとサンダーラビット。どちらも……。いや、グリフォンの時はゾルダートが、サンダーラビットの時はノルムが死んでいるな……。何か関係があるのか?


 レールザッツは、魔力が混ざると言っていた。この辺に何かヒントがある気がする。


「我々はゾルダートの動向を追っていた。いつか事件を起こすだろうと」

「もしかして……」

「ああ、村がグリフォンに襲われれた時、我々も側にいた。ノルム、レールザッツ、ロートが来た時もな」

「どうして加勢してくれなかったんですか! レーラさんは死ななかったかもしれない!」


 アウスのせいにしても仕方がない。それはわかっているが、誰かのせいにしないと治らない。


「ゾルダートを君らが瞬殺してしまったからね。星食いの動向を知る術が無くなってしまった。それであの村を監視することにしたんだ」

「ずっとですか? 何ヶ月も……」

「そうだ。しかし、護衛班のロートまで……あんな大物が絡んでるのは想定外だった。護衛班の強さは次元を超えている。私たちでは出て行っても瞬殺されるだろ。情報を持ち帰るためには死ぬわけにはいかなかった。すまない……」


 ロートの強さは魔法のレベルを超えていた。物理攻撃がすり抜けるなんて、もはや人間ではない。それをレーラさんが命を賭して倒してくれた。レーラさんに助けてもらったこの命、無駄には出来ない。


「とにかく星食い達は、国の中枢にはまで浸透している。おそらく国そのものが星食いの本隊だと言っても過言ではないだろう」


 星食いのバックが国そのもの……。それすなわち、この国そのものを相手にしなければいけない事を意味している。


「そんな規模……。私は散って行った仲間のためにも、この国を操っている黒幕を必ず討つ。そのためには準備が必要だ。護衛班はまだ後三人もいる。奴らに絶対勝てる条件を揃えるんだ」


コンコン


 ザントシルドの向こうで、誰かが戸板をノックする音が微かに聞こえた。アウスがザントシルドをゆっくりと解除する。サンダーラビットの時もそうだが、この人は魔法の扱いがとても繊細だ。


「アウス様?」

「なんだ」

「事情聴取が長いようですが?」

「今行く」


 アウスは戸の向こうの騎士に返事を返すと、足についた土を払い「水上都市アクアリウムで落ち合おう」とだけ小声で言い残すとドアを開けた。


「大丈夫でしたか?」

「ああ、やはり彼らは村長の言う通り、たまたま立ち寄った冒険者のようだ。ノルム様、レールザッツ様と共に戦っていたが先に力尽きて倒れていたらしい」

「やはりそうですか……。では、ギルドへ引き取りの依頼を行います」

「ああ、そうしてくれ」


バタンと牢屋の扉が閉じられた。

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