[ 121 ] デザントのギルド
翌日。僕らは大人しく牢屋で待っていると、砂漠都市デザントのギルドマスター、オスティナートがやってきた。
「おい! ガキども! さっさと出ろ!」
筋肉質で捻り鉢巻きを巻いた坊主頭のオスティナートは、冒険者というより武器屋のオヤジと言った方が早い装いだった。
「す,すみません……」
「何を謝ってやがる! 村を救うために頑張ったんだろ! 立派じゃねぇか!」
どうやらアウスさんが裏で手を回してくれたらしい。僕らは書類上もたまたまモンスター発生に居合わせた冒険者として処理されている。
おそらく調査班の中にも監査班のスパイが潜入している可能性を考慮して、回復術師であることなどは上手く隠してくれたようだ。
それにしても、まさか王国騎士団の中に僕らの仲間が出来るなんて……いまだに信じられない。あれだけ捕まらないように逃げ回っていたのに……。
彼は「水上都市アクアリウムで落ち合おう」と言った。僕を回復術師だと知ってもなお、あの態度。調査班が何人も行方不明になってる以外にも、星食いを憎む理由が何かありそうだ。
「とりあえず詳しい話を聞きてーからついて来い! 野郎ども!」
「おー!」
野郎ではないミルトが元気よく返事した。
「おー! おめぇ、見どころがあんじゃねぇか! 強くなれるぞー! ガーハハハハ!」
豪快なオヤジであるオスティナート。彼が仕切る砂漠都市デザントのギルドは、街の中央噴水のすぐ側にあった。
ナッシュのギルドは僻地、フォレストのギルドも門に近いCエリアで立地はよかったが、デザントのギルドは街のど真ん中にあった。砂漠都市という名とは裏腹に水が豊富で街のあちこちには噴水や水路が造られている。
「水源が豊富なんですねぇ」
「は?! 水源?! そんなもんあるわけねーだろ! なんだなんだ? お前ら! まさかデサントに来たの初めてか?!」
「え、ええ……まぁ」
声がでかい……。
「カーッ! そりゃあ案内しなきゃいけねぇなぁ! ギルドに着いたらグイーダに案内させるからな! 楽しみにしておけ!」
モンスター大量発生の事件の話をするんじゃなかったのかな。いつの間にかデサントの観光の話になっている。それにしてもこれだけ水が豊富なのに、水源がない? ちょっと意味がわからないな……。
「おう! 今帰ったぞー!」
「お帰りなさいませ。声デカクソ親父様」
なんだこの口の悪い受付嬢は……。
海もないのに魚のオブジェが乗った建物に入ると、黒髪のショートヘアに青いカチューシャ、藍色の民族衣装のような衣装を身につけた小柄な女性がで迎えてくれた。
「そちらは、何処の馬の骨様ですか?」
「ガーハハハハ! めっちゃおもろいだろ!」
全然面白くない……。
「ラッセ! フォレストから来た冒険者だそうだ! 説明よろしくな!」
「かしこまりました」
オスティナートがギルドの中にある巨大な椅子に腰掛けると、そのまま酒を飲み始めた。椅子はミシミシと今にも壊れそうな音を立てている。
「草しかない街フォレストから、ようこそいらっしゃいました」
な、なんか一言多いんだよな……。凛と佇まいは素敵だし、透明感のある声は聞いていて心地よい。それだけ残念だ。なんでこんなに口が悪いんだろう。
「そいつはラッセ。このギルドの名物受付嬢だ。めちゃ可愛いだろ? ガーハハハハ!」
「うんうん、面白い! 可愛い!」
ミルトはラッセを気に入ったようで、手を繋いでブンブンと振っている。
「ご紹介に預かりました。ラッセ・ラーベンコールと申します。低脳様」
ラーベンコール?
「まさか……王国騎士団の調査班の?」
「おう! アウス・ラーベンコールの妹だ。そいつは」
どうりでこの世界では珍しい黒髪だと思ったら……。ぶっきらぼうなところは似ている気がする。
「ラッセ。グイーダはどうした? そいつらにこの街を案内してやって欲しかったんだがなー」
「グイーダ様は先ほど用事があるとお出かけになられました。豚野郎」
豪快なマスターのオスティナートと、なぜか敬語で人を罵るラッセ。デザントのギルドもクセの強い人が多そうだ……。
「ん? 依頼ですか? ってそんな雰囲気でも無さそうだね」
入り口で騒がしくしていると二階から、白い長髪にキリッとした顔、軽装な水色の鎧を着けた細身の男性がおりてきた。
「おう、シュテルン。こいつらバルカン村をモンスターの群れから救ってくれたみたいでよ!」
「ほぉ、それはそれは是非詳しくお聞きしたいですね」
シュテルン? あれどこかで聞いた名だ。シュテルン……シュテルン。
「あれもしかして……ナッシュのサブマスター?」
「おや? 確かに昔ナッシュでサブマスターをしていたがなぜ知っているんだい? ナッシュの出身者かな?」
思い出した。エルツが言っていた人だ。信頼できてなんでも話せると言っていた人。フィーアが転勤したと言っていたサブマスターのシュテルンだ。
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