[ 119 ] サンダーラビット
「なんて数だ……」
次々とどこからともなく現れた黄色の兎は、ざっと見ても二百匹近くはいるように見えた。
「ミーー!」
可愛らしい鳴き声を出すと、黄色い兎達はバチバチと角に電気を帯電し始めた。もう無理だ――。みんなは動けず、僕も魔力はない。レーラさんも死んだ……。
「一か八か……。グローリアヴァイト!」
僕を中心に魔法陣が……広がらない。ダメだ……。何も起きない。魔力が足りない今の僕では発動ができない……。誰か一人くらいならクーアで回復出来るけど、一度回復したところでこの数が相手では意味がない。
もうあとは練度が上がることに賭けるしかない。重力魔法が練度★4になっても、オルトを覚えるだけだ。魔力はないし、仮に練度が上がって魔力が回復するとしても、これだけ近くにみんながいる状態では使えない。
回復魔法なら練度★5になれば、何か覚えるかもしれない……。ルヴィドさんやミルトは魔力切れが激しそうだから、いつの間にかまた気絶してるファレンさんの魔力を使ってクーアを発動すれば、もしかしたら……。
「クーア!」
ファレンさんの体がぼんやりと輝き怪我を回復させた。しかし、それで終わりだった。何も起きない。万事休す……。
「ダメか……」
あとは首からぶら下がってる……星の魔力が溜まった魔吸石。これについては使い方がわからない……。いや、吸のではなく……逆に溜まってる魔力を解放させれば、フィクスブルートが復活して召喚された魔物が消える……?
そんな都合の良い考えが頭を通りすぎたが、体を覆っていた氷は、レールザッツが気絶したのになぜか解けない。仮に動けたとしても、フィクスブルートに行くまでに黄色い兎の電撃を回避できる気がしない……。
「どうすれば……」
打開策が見つからならいうちに、兎たちが一斉に僕らに牙を向いた。クソッ! せっかくレーラさんがロートをたおしてくれたのに! こんなところで――!
「ザントシルド・オルト・ヴェルト!」
その時どこからともなく声が聞こえ、僕とルヴィドさん、ミルトにファレンやレールザッツまでもが、砂と石の盾に覆われていく。
一人につき三枚の盾が盛り上がり、頂点で結ばれるとドーム状になり僕らを兎の電撃から守ってくれた。
「いったい誰が……」
盾の隙間から外を伺うと、多数の王国騎士団がどこからともなく現れ黄色い兎と交戦しているのが見えた。その中に、僕の見知った顔……。黒髪の騎士の姿を見つけた。
助かるかもしれない。そう思いながら彼の顔を見ているとなぜか安堵し、僕はそのまま意識を失った。
――僕はレーラさんと修行している夢を見た。
音はないけど、いつもの修行風景
みんな必死に、そしてどこか楽しそう
レーラさんが僕の肩を叩いた
口が動いているので、何か喋っているみたいだけど
何を言ってるかわからない。
ただ、なんとなく……がんばれよって言われた気がした。
レーラさんが手を振りながら森の中に入っていく
レーラさん
レーラさん
「レーラさん!」
ガバっと起き上がると、知らない部屋にいた。
さっきまで誰かの放った岩の盾に守られて……。と頭の中を整理しようとしたら、見知った声が聞こえてきた。
「ロイエ君、大丈夫ですか?」
「うなされてたよ?」
「ルヴィドさん、ミルト……」
混乱する頭のまま辺りを見回すと、すぐにここが村ではない事がわかった。その理由は、鉄格子の嵌められた窓の外の景色が砂漠だったからだ。
「ルヴィドさんここは……?」
「ロイエ君も察した通り、どうやら砂漠都市デザントのようですね」
「べったべたするし、砂っぽいしお風呂入りたーい」
四角い部屋に鉄格子の窓。ドアは一つだけの質素な部屋。とても宿とは思えない部屋に、ここへ連れてきた人に歓迎されていないのは明白だ。
「ロイエさん、あの後何があったのですか? レーラさんやファレンさんの所在についてご存知ですか?」
「レーラさんは……」
僕が見た事の顛末を話そうとした時、カチャカチャと鍵を回す音の後、ガチャリとドアが開けられた。
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