[ 118 ] 火の化身
メラメラと全身が燃え上がるロートは、まさに火の化身だ。練度★1のヴェルアが子供騙しに見えるくらいの存在感、生命力を感じる。
「あれが……。火魔法の練度★9」
レールザッツがいまだに地面にへばりついてるところを見ると、レーラの重力魔法はまだ継続している。にも関わらず、ロートは気にも止めていない。
「ひぃ! ば、化け物!」
目を覚ましたファランさんが、拾った剣をロートへ投げつけると信じられないことが起きた。投げた剣が、ロートの体をすり抜けたのだ。
カランカランと、地面に落ちるとロートの体に触れた剣は燃え上がり、持ち手の部分が消し炭となった。
「火の精霊……化身。そんな、御伽話のような事が……」
「練度★9の魔法は、魔法使いが……精霊化する。ロート様は、まさに人間を超越した存在なの……だ」
いまだにレーラの重力魔法が効いているのか、地面にへばりついたままのレールザッツ。ゾルダートは一瞬で潰されたのに……。魔力の高い者は、魔法抵抗量も高いのかもしれない。
「ついでだ。この村ごと全て消え去るが良い」
ロートが屈伸をしてジャンプするだけで、爆発が巻き起こる。跳躍したロートがさらに魔法を唱え始めた。やはり練度★7を超える魔法は併用が可能なようだ。
「ブレンメテオーア!」
火の化身となったロートが、上空に太陽のような巨大な火炎弾を生成すると、地上に向けて投げ飛ばしてきた。
目算で直径が十メートルほどありそうな火炎弾……。あんなモノが着弾したら、この辺り一面は焦土と化すだろう。
「ロート様?! くっ! まずい! ここにいては!」
いつのまにかレーラは重力魔法を解いていて、レールザッツがフィクスブルートの影に隠れた。
「落とさせてたまるかよ! ゼレン・オルト!」
ロートの放った巨大な火炎弾に対して、レーラはゼレン・オルトで空へ押し戻そうとしている。
今まで炎や水などの自然事象に対して重力をかけたことはなかったけど、対象が巨大な火炎弾であっても、重力は作用しているようにみてる。なら火の化身である今のロートにも、重力は効くはず……。
ロートが空中を蹴り爆発を起こすと火炎弾を追い越し、レーラの後ろへと回る。
「ふん、それで? 次の一手どうする気だ?」
ロートの蹴りがレーラの失った肩をさらに焼く。激しい痛みの中、レーラは確かに僕の方を向いて笑った気がした。
「覚悟の……問題さ」
「ほぉ? 死ぬ覚悟が出来たという事か」
ロートの拳が残されたレーラの片腕を掴むと、掴まれた箇所から焼けて炭化していく。
「そう……だ。お前と死ぬ覚悟だよ!」
レーラがゼレンを解除すると、頭上で押し戻していた火炎弾が落下速度を増し、レーラとロートの元へ落ちてくる。
「バカめ! 我の放った魔法が我に効くわけがなかろう! 死ぬのは貴様だけだ!」
「それは……どうかな。シュヴァルツェスグランツ!」
重力魔法の練度★7はレルムという魔法のはずだ。あれは、レーラが名前を言わなかった練度★8の重力魔法……?!
呪文を唱えた瞬間、レーラの前に黒い点としか言えないモノが現れて、まるでブラックホールのように辺りの全てを急速に吸い始めた。
「バカな! 我がこんな奴に!」
ロートがレーラを蹴り爆発させ離脱を図るも、発動したシュヴァルツェスグランツの超重力範囲からは逃れられない。
小さなブラックホールが火球を、レーラを、ロートを飲み込んで行く。
「くそ! 死ね! 死ね!」
爆発する拳で何度もレーラを攻撃するが、それでも重力魔法の発動は止まらない。
「レーラさん!」
ガギュゥゥウン!
最後の一瞬、黒い小さな点が六メートルくらいの巨大な穴へと広がり、範囲にあった全ての物を空間ごと飲み込んで消えた。
「そ、そんな……! ロート様!!」
「……レーラさん」
火の化身であるロートですら逃げ出せないブラックホール。それが重力魔法の練度★8の魔法……。自身すらも飲み込む、諸刃の魔法。
「バカな! 護衛班の一人であるロート様が練度★8程度の奴に負けるなんて……」
レールザッツが地面を拳で何度も叩く。ロートは監査班のことを手駒としか見ていない様子だったが、レールザッツにとって、護衛班というのは特別な存在だったらしい。
「お、王へご報告せねば……。手ぶらでは帰れぬ。回復術師。お前には来てもらグァアアア!」
なんだ? レールザッツが雷に打たれたかの如く感電して倒れた。ルヴィドさんはまだ倒れたままだ。一体誰が……。
バチバチバチ……。
気がつくと、僕らは帯電した角を持つ黄色いウサギの群れに囲まれていた。
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