[ 202 ] ハイネル村
「おいおい、この廃墟が村か?」
「そんな……」
ハイネル村の入り口に着いた僕らは絶句した。
看板は破壊され、入り口から見えるいくつかの家は何か重い物で押し潰されたかのように完全に倒壊しており、側には倒れている人がいる。
「グローリアヴァイト・オルト・ヴェルト!」
唱えた瞬間、村を覆うレベルの巨大な青白い魔法陣が展開した。
正直クーアの方が回復力が強いが、効果範囲が狭い。もしかしたらまだ無事な人がグローリアヴァイトをヴェルトで強化すれば、広範囲での回復が可能だ。一分一秒を争う場面では、走り回るよりこっちの方が速い。
「うお! なんだこの魔法陣は?!」
「回復魔法です。まだ生きている人がいるかもしれません!」
「すげーな、お前回復魔法なんて使えるのかよ。鮮度の落ちた魚も治せるか?」
「え?! それはたぶん無理……じゃないかな。って、今はそれよりも! みんな無事な人がいるか探して!」
流石に何度も修羅場を潜っているみんなは行動が早い。
僕は一番近くで店長が生死を確認してる人の元へ駆け寄った。この顔……見覚えがある。初めてこの村に来た時に歓迎してくれた人の一人だ。
グローリアヴァイトで治っていてくれと淡い期待をしたが、この人……着ている衣服からしても外傷はない。
脈や心音の確認をするがどちらもない。毒でも無いようだ。青白い唇と濡れた髪……。これは溺死か? 急いで心臓マッサージと人工呼吸を施すが、復活する様子がない。ダメか……。
「ロイエ!! こっちへ来てくれ!!」
ハリルベルの声に呼ばれて僕と店長は一目散にかけだした。声は、以前みんなで攻略に向かった洞窟の方から聞こえた。
「こっちだ!」
村の裏手に入ると、以前は眩いほどに光り輝いていたフィクスブルートは、その光を失っている。その袂、大柄の大男が血塗れで倒れていた。右手と両足を失っている。
「クーア・オルト!」
全力で回復をかけると、みるみるうちに手足の切断面が閉じていく……。やはりクーア・オルトでも失った手足を生やせるわけではないのか……。
「う、ぅぅ……」
「大丈夫ですか?! なにがあったんですか?!」
村長の……確か、フィレンツェ……だったかな。そんな気がする。むさい見た目なのにバカ丁寧で綺麗な声が特徴の癖が強い村長だ。
「フィレンツェさん!」
「ぅぅ……。水が空から……みんな、を」
村長はそれだけ言い残すと、ガクッと気を失ってしまった。とりあえず衰弱しているが息はしている。僕の回復魔法は傷は治すが体力が回復するわけじゃない。このままだと衰弱死する可能性もある。
「急いでナッシュへ運ばないと……!」
「ロイエ待て、村長の体から流れていた血はまだ乾いていない。これをやった犯人が近くにいる可能性が高いぞ」
おそらく水魔法使いだろう。家が押し潰されていたのに岩などが近くに無く焦げた後もない。住民も溺死していたし……。
「水魔法の不意打ち予防をしておきますわね。シェンバウム・オルト」
これはアインザーム火山の山頂でミネラさんが使ってた熱を防ぐ氷のヴェールだ。効果時間が長く対象者の周りを薄い氷が覆ってくれる。
ロゼはヴェルトが使えないから、一人ずつシェンバウムをかけると、周りを警戒しながら村の中を捜索するチームと、村長を連れて村を脱出して身を隠すチームに分かれて行動した。
「村の中にもう生きてる方はいませんでしたわ……」
「こっちもダメだった」
ハリルベルとロゼが村から出てきたが、やはり生存者は居なかったらしい。敵に遭遇した場合を考えて、マスターと僕で護衛、店長にはヴァルムヴァントで炎の結界張ってもらい、低体温症になっている村長を適度に温めてもらっていた。
「そっか……。二人ともありがとう。とにかく急いで村長をナッシュへ連れて行こう」
こんな時にピヨがいればフリューネルで……。フリューネル? 待てよ……?
「ロゼ! 魔石装具だ! 確か足の魔石装具でフリューネルが使えたよね?!」
「え? ええ……使えますけど、魔石の手持ちがもうあまりませんの……」
「僕持ってるんだ。ほら」
アインザーツ火山で大量に集めたニワトリ……レプティルクックの討伐で手に入れた魔石だ。ピヨが勝手に食べていたが、まだそれなりの数がある。
「僕ら全員を軽くして、フリューネルでナッシュまで飛ぼう!」
「と、飛ぶ……ですか? そんなことが可能なのでしょうか」
「いけるいける! 村長が落ちないように木でいかだを作ろう!」
半信半疑の面々を説得して、木を切り村にあった紐でいかだを作成した。
「みんな乗って! 村長を真ん中に寝かせて、みんなは両サイドへ!」
なんだか救急車の中みたいな構図になったけど、やはりあれはあれで理にかなっているのだろう。
「ジオグランツ・オルト!」
オルトで範囲を広げて、みんなを包み込むように重力魔法を展開した。
「ロゼ! よろしく!」
「はい! 行きます!」
ロゼの魔石装具による連続フリューネルにより、僕らは馬車を超える速度でナッシュへと飛んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます