[ 071 ] スライム洞窟

 洞窟の中は、リーラヴァイパーを倒した二番坑道よりは狭かった。トロッコのレールは敷かれてないため、キノコ採取は歩いて回るのが基本なのだろう。


「戦闘は、俺とロイエに任せてください」


 先頭を行くハリルベルが、剣を片手に張り切って進んでいく。恥ずかしいから、リュカさんとあまり話したくないだと思う。


 まぁ、戦略的にもハリルベルを先頭にした方が、僕が後ろから重力での援護や回復もさせてあげられるので、理想的な陣形かな。


「あの……ロイエさん。村長さんの家では申し訳ありませんでした」

「大丈夫ですよ。人間何がツボにハマるかわかりませんから」

「いえ……お客様を笑うなど、商人として失格です」


 落ち込むロゼを宥めながら洞窟を進む。確かにあちこちにキノコが生えているけど、特産のキノコは見当たらない。特産のキノコは蜜キノコという名前で、黄色に光ってるらしい。


「あのー、ハリルベル君」


 僕の後ろを、ロゼと並んで歩いていたリュカさんが一歩前に出た。


「な、なんでしょうリュカさん……」

「ロゼさんから聞きました……私お酒を飲んでしまって何か、大変な粗相をしたとか、ごめんなさい」

「い、いえ……やわらか、じゃなかった。ちょっとびっくりしちゃっただけで、何も問題ない……です」

「何をしてしまったか、誰も教えてくれないのですけど……」

「それは知らなくて大丈夫です……」

「そうですか……」


 ハリルベルが恥ずかしそうにしているが、なんとか普段通りリュカさんと話をしようと頑張ってくれている。

 

 以前職員カードを見せてもらった時、リュカさんの年齢は二十八だったな。婚期、そういうことか……がんばれハリルベル。


「そういえば、全然スライムいませんね……」

「そうですね。ダンジョン化したなんて言うから、とんでもない量がいるかと思いましたが……」


 洞窟の中は思っていたよりもガランとしていた。


「それにしても村長から貰った地図とだいぶ違うような……」

「ええ、基本的には一本道と聞いていましたが、横道だらけで……地図が間違っているのでしょうか」


 分からない……。ただこの洞窟で何かが起きてるのは間違いない。先に入ったと言う冒険者の姿もないし……。


「あの……リュカさん、スライムについて何か情報は持ってませんか?」

「そうですね。スライムは、強さ的には下級にあたります。基本的に温厚で攻撃的ではない事と、攻撃手段がほぼ皆無な事ですね、弱点さえ突けば……「ハリルベルさん! 上です!」」


 ロゼの悲鳴のような声が洞窟に響いて、ハリルベルが一歩後ろに遠のいた。


「うおっ!」


 べちゃ!っとハリルベルがいた場所へスライムが落下。間一髪で回避出来た。さっきのと同じで青い色のスライムだ。この世界のスライムは青のみなのだろうか。


「びっくりさせやがって……てやぁあああ!」


 ハリルベルが剣でスライムを無数に切り付けるも、水を切るようにすぐに元に戻ってしまう。僕の時は一撃で倒せたのに……。ハリルベルがムキになって切り刻むも、やはりノーダメージのようだ。


「ヴェルア!」


 ハリルベルが剣先から炎を出して攻撃するが、見た目からして水属性のスライムにはほとんどダメージがない。


「ムーー! スライムごときー!」

「待って、ハリルベル!」

「ヘルブラ……なんだよ」

「僕にやらせて」


 返事を待たずにハリルベルの前へ出ると、宝剣でスライムへ切り付ける。スライムはそのまま切り落とされ形が崩れると、魔石へと変わった。


「あれ?!」

「やっぱり……どうやら、この宝剣カルネオールは、スライムの特攻武器としての効果があるみたい」

「なるほど、ならロイエ先頭で進むか。その刀身の長さは俺には扱いづらくて……」

「そうしよう」


 しかし本当に横穴が多い。地図を持っていてもどれが正しい道なのか……。目印に壁に印を付けながら進むと奥の方から人の声が微かに聞こえた。


(だーれーかー)

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