[ 070 ] スライム騒動
「任せてください!」
スライムはこの世界で初めて見たけど、思ってたより大きい。サイズ的には三輪車ほどはある。これに顔を包まれたら窒息しそうだ。
「ジオグランツ」
僕の重力は近づかないと使えない。スライムの攻撃範囲がわからないけど、ギリギリの距離まで近づき魔法を発動させた。
「ツヴァイ・ジオフォルテ」
最大まで広げたジオグランツの中で、スライムの動きが一瞬鈍くなり、その上から中サイズのジオフォルテが降りかかる。
ボスリーラヴァイパーを倒した自慢のコンボだが、体がゼリーだからか、体積の割には体重が軽く、ぷるぷるしてるせいで重力魔法の効きが最悪に悪い……。
まずい。スライムは……僕の天敵だ!
「くっ!」
どっちも最大出力なのに、スライムは少し変形して、動きが鈍くなった程度だ。じわじわと近づいてくる。
どんな攻撃をしてくるかわからないけど……行くしかない! 僕は宝剣カルネオールを手にダッシュすると、スライムを一閃……スライムは魔石となった。
「ふぅ……」
「あんらー! おめぇづぇーなー!」
ちょっと何を言ってるか分からないけど、倒せてよかった……。僕も剣術は習った事がないし、一度誰かに教わりたいな。
「ロイエ!」
騒ぎを聞いて、村長の家からハリルベルと村長が駆けつけてくれた。ロゼの姿が見えないからきっと笑い転げてるんだと思う……。
「叫び声がしたけど、大丈夫か?」
「スライムが出て……」
「またですか……あの人は何をしているんでしょうね」
「村長さん、またというのは?」
あの人ってのは誰だろう。
「うちの村の特産はキノコなのですが、そのキノコが取れる洞窟がダンジョン化してしまいまして……スライムで溢れかえっているのです」
「ええ! 大変じゃないですか? ギルドに依頼はしたんですか?」
「もちろんしました。それで三日ほど前に依頼を受けてくださった冒険者の方が来られまして、ダンジョンへ向かったのですが帰ってこないわ。スライムは村へやってくるわで……」
「それで先程は、間に合ってると仰ったんですね」
「ええ」
その冒険者、最悪死んでる可能性があるな……。食料なしで三日も音沙汰なしなんて。ハリルベルもその考えらしく、頷いている。
「村長さん、夕飯と宿の代わりと入ってはなんですが、僕らがダンジョンの調査を引き継ぎましょうか?」
「そーですね。本来、受注者から応答なくなった場合、 でも、五日は様子見が鉄則ですが、村の者に被害が出てからでは遅いですし……お願いいたします」
相変わらず村長の顔と綺麗な声が合ってない……。ハリルベルの後ろでは、村長の家から出て来たロゼがまた笑い転げてる。
「夕飯の後、ダンジョンに案内して頂けますか?」
「わかりました」
それからリュカさんの縄を解いて、ハリルベルとロゼが村の警備をしている間に、僕とリュカさんは夕飯を食べ、村長と共にダンジョンへ向かう事になった。
「こちらです」
村長について行き村から一度出た。洞窟は村民しか知らないという場所にあるらしく、向かっていると前方が火事でも起きてるのかと思うほど赤くぼんやり光っている。さらに進み、木々を抜けると僕たちは目を奪われた。
そこにはナッシュで見たのと同じフィクスブルートが、赤く淡く輝いていた。
「これは……」
「フィクスブルートという巨石でして、代々この村の守り神として崇めております」
まるで脈打つかの如く赤く光っている。ナッシュのフィクスブルートを死んだフィクスブルートと表現するならら、こちらは生きたフィクスブルートといっても過言ではない。
「なんでぼんやり光っているんだ?」
「昔、お婆様がフィクスブルートは赤く光ると仰っていましたが……これが本来の輝きなのでしょうか?」
「魔法都市ヘクセライにもフィクスブルートはありますが、ナッシュのような色合いです。このようにぼんやり光るフィクスブルートは初めて見ました」
ナッシュのフィクスブルートと何が違うんだ……? そしてこの巨石はいったいなんなんだ……。謎は深まるばかりだけど、今は気にしても仕方ない。
フィクスブルートを過ぎると、洞窟の入り口のようなものが見え、先ほど逃げて来た村人が引き続き洞窟の警備をしていた。
「あれがら異常はねが?」
「んだ、なんもね」
びっくりした。
突然村長の声が太くなり、方言がキツくなった。
ロゼが過呼吸なほど笑い転げる。
「あの村長? その喋り方と声は……」
「村長たる者、外交のために正しい発音と聞き取りやすい声は必須でして、これが出来ないと村長にはなれません」
また綺麗な声に戻る村長……。
なるほど……村長も陰で努力してきたんだな。
「洞窟の中は結構入り組んでまして、スライムの不意打ちが来ることもありますので、お気をつけ下さい。こちらが地図になります」
「ありがとございます。とりあえず今日は軽く調査してみますね」
「はい、よろしくお願いします」
魔力ランタンに火を灯すと、ハリルベルを先頭に僕らは洞窟へと進んだ。
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