[ 069 ] ハイネル村
ナッシュのようなレンガの家ではなく、村長さんの家は藁葺きの古民家だった。この点でもナッシュとは文化が違いすぎる。
家に上がると、獣の毛皮をフードのように被った大柄でザンバラ髪のむさ苦しい男性が座っていた。
腕も足も親方並みに太く、親方の親戚じゃないかと思うくらいの眉毛も太いし、無精髭もイカつく貫禄がすごい。
僕もロゼもごくりと生唾を飲んで、発言を待つ。
「いらっしゃいませ、お嬢さん。私は村長のフィレンツェと、申します」
失礼だが……気持ち悪いことに、この村長はすごく丁寧な口調で綺麗な声だった。おまけに名前も清楚な名前だ。頭がバグりそうだ。
「は、初めまして……そ、そんちょぶふー!」
ダメだ。完全にロゼのツボにハマってしまったらしい。床を叩いての笑い転げている。
「失礼しました。彼女はフリーレン商会のロゼお嬢様です。ここへくる途中、毒キノコを食べてしまい笑いが止まらなくなってしまったのです」
「なんと可哀想な……。本日はもう日が落ちます。我が村で是非おやすみください。有料ですが、夕飯の準備や宿の提供も可能です」
村長が喋るたびに綺麗な声が繰り出され、さらに笑いのツボにハマり、ロゼは過呼吸寸前だった。これ以上は危険だ。
「夕飯と宿をお願いしても良いでしょうか?」
「かしこまりました」
「君たち、彼らに二番の宿を」
「ほな、用意すっぺー!」
やはり村人と村長の温度差がおかしいぞ。この村。
「では、護衛として冒険者が二名ついておりますので、何か困り事があれば、遠慮なく言ってください」
「間に合っておりますので大丈夫です」
挨拶を終えると、死にそうになってるロゼの肩を貸し、なんとか馬車まで戻った。
「ハリルベル?」
「ロイエぇー! 遅いよぉー!」
「リュカさんは目覚めた?」
「怖くて見てないからわかんない。とりあえず縄で絞っておいた……」
「縄って……」
馬車の中を見ると、見事にリュカさんは縄で縛られて天井から吊るされていた。
「とりあえず夕食と宿を頼んだから、休もうか。リュカさんは僕が見ておくよ」
「助かる……この埋め合わせは今度……」
リュカさんの猛攻が本当に恐怖だったのか、ふらふらする足取りで、いまだに笑い転げるロゼを引きずってハリルベルはひと足先に村長の家へ向かった。
「う、うーん。痛っ! ここはどこですか?」
「あ、目が覚めました?」
「はい……どうして私は縛られているのでしょうか?」
やはりお酒を飲んだ前後の記憶が飛んでるな、ハリルベルに熱烈キッスをお見舞いしたことも愛の告白も覚えていなそうだ。本人には言わないでおこう……。
「この縄は、ロイエ君の趣味ですか?」
「ち、違います。それはハリルベルがやったんですよ!」
「え、ハリルベル君が……私に。も、もうしばらくこのままで良いかな……」
良いわけないでしょー!とツッコミを入れようとした時、村の奥から叫び声が聞こえた。
「ずらいむーー――――!」
ず、ズラ?いむ? なんの事だろうと、リュカさんをそのまま放置して声のした方へむかうと、男性村人が全速力で逃げて来た。
その後ろ。かがり火の中にぷよぷよとした物体が見える。あれは……まさかスライム?!
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