[ 167 ] ファブロの進捗
「ユンガ、大丈夫?」
「あれ? ぶっ飛ばされたのにどこも痛くない!」
ドアごとぶっ飛ばされたユンガをクーアで癒してから起こすと、観念したのか店の中に案内してくれた。
「なんで、頑なに中に入れたくなかったの?」
「えーと、その……」
「あ、もしかして大事な作業中だった?」
「いや、大事というか、なんというか……」
歯切れの悪い回答をするユンガに工房のある部屋へ案内してもらうと、ファブロさんが何かを必死に探していた。
「ぬあ! 入れちまったのか!」
「師匠……もうロイエさんに相談した方が……」
「うーむ、そうだな。その方が良いか……」
何か訳ありのようだ。武器の製作が上手くいかないのだろうか。
「何かあったんですか?」
「そのぉ、武器なんじゃがな……」
「やはり魔吸石で武器を作るのが難しかったですか?」
「あ、いや、うーん」
ギルドで待機中、少しまとまったお金が出来たからレオラにお金を持って行ってもらったけど、足りなかったのだろうか。
「師匠がね、魔吸石を無くしたんだよ」
「え?! な、無くした?」
「いや! 違うんじゃよ? ちゃんとはここに置いて作業してたんだが、いつのまにか……」
「あれがないと魔法を吸収する剣は作れないから、ロイエさんに大金を貰ってる手前どうしようかと思い……」
「部屋の中は隅々まで探したんですか?」
「もちろんだよ! 何百回も探したよ」
「間違えて材料として溶かしちゃったとか」
「それは無いな」
ふむ。作業中に無くしてしまった。そんなずさんな管理をするような人とは思えないけど……。
「す、すまない……。貰った金はあれこれ試作品を作ったり生活費に使ってしまってな……。返そうにも返せないんじゃ……」
それで店に入れたくなかったのか……。しかしカルネオールの代わりの武器が無いとなると困ったな。
「師匠、やっぱり盗まれたんじゃ無いですか?」
「うーむ」
「盗まれた? 心当たりがあるんですか?」
「一週間ほど前かの。なんだかギルドの方で騒いでおっただろ? 何かあったのかと少しだけ店を空けたんじゃが、あの日以降……魔吸石が見つからんのだ」
毒男事件のあった日か……何か関係があるのか?あの日はギルドのみんなも町中に散らばってたから、犯罪を起こすような変な奴がいればすぐに見つかりそうだけど……。事実、僕もこの東側を担当していたが、怪しい人物は見なかった。
「無くしたか、盗まれたかのどっちか……ってことですね」
「うむ、とりあえずここに無いことは事実じゃ」
「まぁ……無くなってしまった物は仕方ないですよ」
「そ、そうか? そう言ってもらえると助かる……」
「師匠、なら代わりにあれを渡すのはどうですか?」
「あれか……そうじゃな。仕方ない」
そう言って、ファブロさんは店の奥の戸棚の中から布に包まれた、一振りの剣を出してきた。
「これは……?」
「うむ。わしが若い頃に王都で鍛治師を競う大会が開かれてな。優勝賞品が欲しくて参加したんじゃよ」
「へぇ、面白そうな大会ですね」
「優勝者には大金が与えられて、かつ王への献上品となる刀を造れるという名誉あるものだった」
それは確かに刀鍛冶としては、是非とも出席したいイベントだ。名実ともにナンバーワン刀鍛冶の称号をえられるということだ。
「大会の内容は単純、剣と剣をぶつけて最後まで折れなかった剣が優勝じゃった」
「なら、より硬度の高い、硬い鉱石が必要ですね」
「へへ、それは二流のすることさ」
「そうなんですか?」
「ふふ、その大会で優勝したのがわしなんじゃが、その時の剣がこれじゃ」
厳重に包まれた布を解くと、中には黒い鞘に入った剣が現れた。ファブロさんがゆっくりと鞘から剣を抜くと、真っ黒い刀身にほんのり赤みを帯びた、見事な霞仕上げの剣だった。
「銘はゼーゲドルヒ。わしの作った剣の中でも最強の切れ味を誇る」
「最強の切れ味?」
「師匠はその大会で最硬の剣ではなく、対戦相手のどんな剣でもぶった斬る最強の切れ味を持った剣を作ったんだ」
そんなに切れ味がすごいのか……。だけど、素人目には切れ味がすごいようには見えない。なぜかというと刃が全然尖ってない……。
「あの、ごめんなさい。そこまで鋭いようには……」
「ふふふ、その大会の参加者は三百人。トーナメント式じゃったが、わしの剣が戦った回数は七回」
「そんなに撃ち合うんですか? どちらかの刃が折れるまで叩くなら、刃がボロボロになりそうですね」
「この剣はな。大会で使ったままの状態じゃよ」
「え?」
「その秘密はこの刃にある」
カンとファブロがハンマーでゼーゲドルヒの刀身を叩くと、驚いた事に刃が微振動で震え始めた。
「な、なななんですか、これ……」
「衝撃を受けると超高速で微振動し、相手の武器を破壊する剣。それがゼーゲドルヒの真髄じゃよ」
武器破壊剣……。確かにそれなら大会を勝ち残ることは可能かもしれない。
「相手の攻撃を微振動で無効化し、逆に微振動で相手の刃を振動を与え叩き折る。故に刃は無い。折れなきゃ勝ちの大会じゃったからな」
バルカン村でレールザッツの使った氷魔法練度★7の魔法「グラオペルリング」は、自身を超硬度の氷で守り、それに加えて高速回転するから、カルネオールは一瞬で砕かれたけど、この剣なら破壊できるかもしれない。
「約束していた剣が造れない代わりだ。持っていけ」
ファブロさんからゼーゲドルヒを受け取ったが、カルネオールよりも重い……。カルネオールが刃渡20cmほどの短剣。このゼーゲドルヒは軽く50cmほどはある。僕に扱えるだろうか、それだけが心配だがこればっかりは慣れるしかない。
「わかりました。ゼーゲドルヒ、ありがたく頂きますね。あの魔吸石がもし見つかったら……」
「そうだな。もし魔吸石が見つかったら残りの代金をくれれば造ることは可能だ」
「わかりました。その時はゼーゲドルヒと残りのお金をお持ちしますね」
「うむ」
受け取ったゼーゲドルヒを、カルネオールの代わりに腰に刺すとやはり少し重みを感じる。
「あのロイエさん、その短剣。わたくしに譲って頂けませんか?」
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