[ 168 ] ロゼの籠手

「カルネオールを? 折れてて刃渡10cmもないですけど」

「いいんです。刃の部分だけ取り出して籠手に取り付けられないかなと思って」


 その言葉にファブロさんが目を輝かせた。


「お嬢ちゃん、その籠手は? 自作かね?」

「え? ええ、フォレストの鍛冶屋で作ってもらったものですけど、設計はわたくしが行いましたわ」

「ほぉ、ちょっと見せてくれんか?」

「構いませんが……」


 ロゼが右手の籠手を外してファブロさんに渡すと、なにやら色々と調べ出した。


「ふむふむ、ほぉ? これがこうなって……ぎょえええ!」


 強い衝撃を加えたせいで、ボワァ!とヴェルアが発動してファブロの髭が燃えた。


「あちちちち!」

「ヴァッサー!」


 咄嗟にユンガが水魔法を発動させ、ファブロの燃えた髭の火を消した。


「だ、大丈夫ですか?」

「いやーははは。これは面白い!」


 チリチリになった髭面でファブロは笑った。


「嬢ちゃん! これをわしに貸してくれんか? 悪いことは言わん、折れたカルネオールを組み込んで、より使いやすい装備にしてやろう!」


 どうやらファブロの好奇心を刺激してしまったみたいだ。


「それは、構いませんが……お代はいかほどでしょうか?」

「お代はいらん!と言いたいが、わしらも金が無くてない……金貨二十枚でどうじゃ?!」

「それくらいなら構いませんが、本当はもう一つありまして、先ほどミネラさんに取られてしまいました」

「ミネラ? 誰じゃそれは」


 比較的若いミネラさんのことは知らないか。そもそも一年近く街にいなかったファブロは、この街の住人の名前を知るわけがない。


「えっと、ここをでてすぐ近くの防具が散らばってる店なんですけど……元は武器屋で、確かな店の名前は、シュ? シュタールだったかな」

「シュタール? もしかして、火炎ババアのいる店か?」

「火炎ババア……」


 ミネラのおばあちゃんのことか……。


「そ、そうです」

「まだ生きてやがったのか……」

「ファブロさん、お婆さんとお知り合いですか?」

「まぁ、昔……な」


 確かに年齢的には同じくらいなのか、何か因縁がありそうだけど、触れないでおこう……。


「ミネラさんというのは、お孫さんになります。お母さんの話は出てきていませんが、お父さんは亡くなられたとかで、現在は防具屋を営んでいます」

「ふむ。まぁいい、わしらはこっちの右手だけ預かろう」


 そういうと、さっそくファブロは籠手の改良作業に入ってしまった。作業の邪魔をしちゃ悪いと、ロゼが金貨二十枚を先払いすると店を後にした。


「なんだか装備がどんどん剥がされていきますね」

「え、ええ……いつのまにか」

「ファブロさんに関しては良いですが、ミネラさんに取られた分は今度僕が取り返しに行きますね」


 もうそろそろお昼になる。慌てて噴水広場に戻ると店長の喫茶店に入ってロゼとお昼を食べた。


「よぉ小僧。見たことねぇ女を連れてるな。レオラから乗り換えたのか?」


 給仕をしながら店長が、話しかけてきた。


「そんなんじゃないですよ」

「じゃあ二股か」

「ぶっ!」

「なんだ、図星かよ。ま、レオラには黙っといてやるよ。んじゃごゆっくり」


 この店長、たまに確信を突いてくるから怖い……。

 二股か……確かにそうなのかもしれない。


「ロイエさん、ファブロさんのお店で聞いた話ですけど……盗まれたとしたら、犯人は星食いの方々の仕業でしょうか」


 ロゼは小声で話した。まだ昼前だから店内には僕ら以外誰もいないが用心するに越したことはない。


「魔吸石を狙うなんて、星食い以外いないでしょうね……。この街には既に入り込んでいる可能性が高いかなと」

「え、既に……」

「鍛治師として何年もやってきたファブロさんが、客から預かった貴重な素材を失くすはずがありません。だから盗まれたと思います」


 消えた毒男。男の子の証言、盗まれた魔吸石。これらの点がもう少しで線として繋がりそうだ……。


「ただ目的がわからないんです。たった一人の男の子を毒に犯して、魔吸石を盗んで、一週間以上動きがない。今までの星食いなら、速攻でフィクスブルートから魔力を吸って……」


 待てよ。この街のフィクスブルートはどこにあるんだ? この街にきて二週間ほど経つけど見てないし、グイーダさんの説明にも無かったな……。


「ロイエさん?」

「ロゼ、ちょっとやって欲しいことがあるんだけど」

「はい、なんなんりと」

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