[ 166 ] ファブロの店へ

「ロ、ロイエさん! 行きましょう! 逃げますわ!」

「え?!」


 店の奥に連れてかれたロゼは、衣服が乱れ肩や足があらわになった状態で飛び出してきた。


「待ってえ〜もう少しぃいいい!」

「ひいい」

「グリーゼル!」

「ああぁっ」


 ホラー映画さながらに店内を這いずり回るミネラを、ロゼが氷魔法で地面に固定した。


「とりあえず追ってきてはいないですね」


 近くの武器屋の裏まで逃げると、ミネラが追いかけて来ていないことを確認した。


「店の奥で何が?」

「それが……籠手を見せて欲しいと言われて渡したら、今度は足も!いや、もしかして他にもあるんじゃ?と次々服を脱がされて……」


 よく見るとスカートは捲りあがり、胸のボタンは取られて豊満な胸が少し見えていた。


「あっ、あの服が……」

「す、すみません。はしたないですよね」


 後ろを向いて衣服を直していくロゼの後ろ姿が、妙に艶かしかった。


「あれ? 右腕の籠手は?」

「ミネラさんに取られました……」

「取り返してこようか?」

「いえ、戻る方が怖いので良いです。ヴェルア一回分しかないので、そんなに戦闘に差は出ませんし」

「そうですか」


 どちらかというと、ミネラさんに渡しておくという行為が怖い、返ってない気がする。


「それよりロイエさん、時間は大丈夫ですか?」

「そうですね。あまり時間もないので最後にファブロさんの店を覗いてギルドに戻りましょうか」

「確か、新しい剣の製作を依頼してるっていう」

「そうです」


 ユンガとの出会いとヘーレ洞窟、ファブロに武器の依頼をしたことを話しながら東の外れにある店へ向かった。


「わー、ナッシュっぽいデザインですね」


 店の屋上に剣のオブジェがついてるデザインは、やはりナッシュ発祥で懐かしいらしい。


「ごめんください」

「返事ないですね」

「おかしいな。基本的に家から出るような人じゃないんだけど……」


モンスターが出たって、それを食って洞窟に一年もこもっているような人だ。家にいないわけがない。


「留守ですかね?」

「いえ、絶対いますよ。入りましょう。ロイエです。いるんでしょう? ユンガ、ファブロさん。入りますよ」


 ガチャっとドアを開けると、ユンガがドアの向こうに立っていた。


「あー、誰かと思ったらロイエさんじゃありませんか、まだ武器は出来てないのでお帰りください。それではさようなら」

「え? ちょ、ちょっと待ってください」


 ドアを開けた瞬間に、ドアを閉めて追い出されそうになった。


「あ、お金のお支払いはまだ大丈夫ですんで、さようならー」

「ユンガ?! 少しくらい話をっ!」

「いやいやいや、だからまだ出来てませんって!」

「何を隠してるんだっ! このっ!」

「か、勝手に入ってくるな! ムギギ!」


 ドアを挟んで押し問答していると、背後から「ロイエさん退いてください」というロゼの声が聞こえて、さっと横に避けると、魔石装具によるフリューネルで加速したロゼが、体当たりでユンガごとドアを吹き飛ばした。


「……ミネラさんのところでもそうだけど、ロゼってそんなに手が早い子でしたっけ」

「ちちち、違うんです! これもあれもそれも全部アルノマールさんの修行が……! ああああぁー!」


 何を思い出したのか、ロゼはガタガタと震え目と焦点が合わなくなった。


「ロゼ……?」


 ロゼは、ハリルベルさん逃げて、こんなの死んでしまいますわ、と独り言をぶつぶつと言い始めてしまった。やばい、変なトラウマを刺激してしまったかもしれない。


 し、仕方ない……!


「ロゼっ! 戻ってきて!」


 ギュッと抱きしめると、ロゼの震えが止まった。


「え?! あれ? ロロロ、ロイエさん?!」

「よかった……治った……」

「わたくしに何か? 確か……」

「いい! やめて! 思い出さなくていいから! 僕が悪かった! この話は忘れよう!」

「? はい、わかりました……けど、ロイエさんに抱きしめられてわたくしは幸せです」


 ニコッと微笑むロゼは格別な可愛さだったが、隣でユンガがドアの下敷きになっているという、とてもシュールな光景だった……。

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