[ 236 ] カノーネの算段

「父と母、2人は無事なんですか?!」


 僕は2人が王都の研究所にいると聞き、マローネさんに詰め寄った……。しかしよく考えれば、当然それは彼女が研究所を出た時の話だ。


「私が脱出した時点では、2人とも生きていたけど……もう2年ほど前のことですから」

「そうですよね。すみません」


 確かアクアリウムで父の消息が確認されたのが、今から4年前って話だったな。その頃アクアリウムで騎士団に捕まって王都に連れてこられてマローネさんと王都の研究所で会ったのか……。


「母とは同じ独房にいたと言いましたが、父とは一緒じゃなかったんですか?」

「それには順を追って説明しましょうか。まずあなたの母、リリアも回復術師なのよ」

「え、母が?」


 母はマローネさんと一緒に捕まっていたのだから、よく考えばわかることだけど、なぜか素直に驚いてしまった。僕は自分の家族のことを何も知らない……。


「そうよ。だから私と同じ独房にいたの」

「では父も……?」

「いえ、リリアの夫は餌として連れてこられたのよ」

「餌……ですか?」

「ええ、奴らの研究には練度の高い回復術師が必須らしくてね。私は父と一緒に捕まったんだけど、私の目の前で父は毎日身体中を滅多刺しにされたわ。それを私が回復させる。そうやって無理やり練度をあげるのよ」


 ひどい、家族を傷つけて回復させなければ家族が死ぬ、つまり回復せざるを得ない状況を作るのか。強制的な練度上げだ……。


「リリアの相手はもちろん、あなたの父親のファーターさんだったそうよ。私たち回復術師は同じ独房だったけど、家族とはバラバラにされてたから、私はファーターさんを見てないのよ」


  母は毎日殺されかける父を回復させてたのか、どんなに辛かった事だろう。そしてそれが今も行われているとしたら……1日でも早く助けないと……。


「私が助け出されたのは、先ほどの練度上げの実験の最中のこと。回復解放軍の方が研究所を襲撃してくれたんです」

「その時、母は一緒じゃなかったんですか?」

「ええ、練度上げの実験はそれぞれ個別の場所で行われていたから……。ごめんなさい」

「いえ、マローネさんが謝る事じゃありませんよ」

「救出された私と父は回復解放軍の方と一緒に逃げましたが、思ったより敵の動きが速くて、すぐに敵に囲まれてしまったの」


 敵の本拠地へ救出に向かうなら、見つかるのは悪手だ。人質は弱ってる事が多いし、逃げるなら重力魔法使いも連れていって、空から逃げるべきだ。聞いてるだけで相当雑な作戦に聞こえるが、どんな計画だったのか気になるな……。


「その状況を突破してくれたのが父でした。父は私に「生きろ」と言い残すと、敵に向かっていき……。私と回復解放軍の方は父を囮に逃げるしかありませんでした……」


 ならマローネさんの父はきっともう……。それに襲撃して1人しか救えなかったのはマズイ。一度使った手段はもう通じないと思った方が良いだろうし、警戒も強くなっているだろう。


「大変でしたね……」

「いえ、リリアや他にも捕まってた回復術師を助けられなかった事の方が辛いです……」

「あの、捕まってる人の中に女の子っていました?」

「もしかして、ベルフィちゃんのことですか?」

「会ったんですか?!」

「え? あぁ……はい、同じ独房ではなかったけど、一度だけ会ったことがあります」


 調査班の副団長リューゲの持ってきた資料だとベルフィは死亡となっていた。あの資料がいつ作成されたものかわからないけど、マローネさんが脱出した2年前は生きていたとことになる。


 あの資料が嘘なのか、それともマローネさんが脱出してから死んでしまったのか。僕は生きてる可能性に賭けたい。


「マローネさんありがとうございます。父と母の居場所、そして生きてる可能性がある事がわかっただけでも、貴重な情報です」

「いえ、私はただ逃げてきただけの臆病者です……」

「そんなことありません。僕に出来る事があれば何でも言ってください」

「なんでも、と言ったな?」


 ぐいっと市長のカノーネがメガネをクイっと直しながら身を乗り出してきた。会って数分だけど、この人はなんとなく苦手な部類だ。何を考えてるかわからない


「カノーネさんに言ったわけじゃありませんけど……」

「同じ事だ。我々回復解放軍が決死の思いで助けたマローネから君は情報を受け取った。そしてマローネは今現在も我々の保護下にある。意味がわかるかい?」

「それはわかります」

「よろしい、では今度はボクらが聞く番だ」


 カノーネは、立ち上がって指を鳴らすと机の上に飛び乗った。やる事がいちいちキザっぽいのはなんだろう。


「ボクらが聞きたいのは、現在調査班と監査班、護衛班の同行とギルドがどこまで動いているのかの情報だ。王都に潜入しているスパイから連絡がなくなってね。情報が枯渇しているのだよ」


 カノーネはいけすかないが、協力すべき相手だ。僕らも彼の助けなしでは、父や母を助けることは出来ないだろう。


「わかりました。僕の知っていることをお伝えしますね」

「リュカ、君もよく聞いておくように」

「はい」


 こうして僕は喉が枯れるまで、今までの経緯や各自の所在地、今後の予定などを話した。

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