[ 139 ] 金の瞳の死神

「テメェ、昔からある西側の街よりも、武器商人が作った東側の街が重要だと言うのか?」


 店長が指をボキボキ鳴らしている。いやあっているはずだ。自分を信じろ。


「そうです。確かに西側の街は古くからあり歴史もあります。ですが、東側の武器屋達は、納税という形でこの街に貢献しています」

「納税ねぇ」

「そもそも東側の街が発展したのは、近郊で取れる鉱石のおかげです。後から出来たので余所者かもしれませんが、彼らもデザントの一部です。そして育った優秀な鍛冶屋は世界に羽ばたいてデザントの名を世に広めるでしょう」


 店長の瞳を見て言い放つと、最後に西側のライスを食べた。どうして最後の場所をライスのみにしたんだ……ステーキと一緒に食べたかった。


「で、なぜ最後は西側なんだ?」


 余ったからなんて言えない……。恐らく最後の質問だ。慎重に行こう、考えれば答えはわかるはずだ。


「えーと、デザントを形作るのはこららの場所ですが、やはりそれらを作ってきたのは西側の人たちです」

「そうだな」

「西側の人達にとって、噴水、港、この店、ギルド、東側は重要な拠点です。すなわりこのプレートは西側の人にとっての重要な順に食べる必要があり、西側の重要度が最低なのではなく、西側目線の重要度プレートだったんです。なので最後の締めくくりとして西側のライスを食べました」


 少し無理矢理感はあったけど、どうだろうか。チラッと横目で見ると、ミアさんはむしゃくしゃとステーキとライスを交互に食べてる。僕もあの食べ方をしたかった……。


「不正解だ。東側に置かれたフルーツは、床に落とすのが正解だ」

「ええぇ――。そんな……」


 店長は東側を嫌ってるとは言ってたけど、そんなにか。


「と言いてぇところだが、街の発展という意味では、坊主の言った世界に鍛治師が羽ばたく、それも悪くねぇな。正解にしといてやるよ」


 店長に頭をくしゃくしゃされた。どことなく店長も嬉しそうだ。同じ街なんだし協力して街を盛り上げたらいいと思う。


「よし、お前を街の一員として認めてやろう」

「ありがとうございます!」

「話は終わったか?」


 ミアさんはいつの間にか食べ終わっていて、本を読んで僕らの会話が終わるのを待っていた。既に日は落ちているからか、早く依頼を聞けと目が訴えている。


「って! テメェー! なぜライスを残す!」

「ん? 俺は米は食わん」

「なんだとコラァ!」


 店長がミアさんの被っていた黒いフードを無理矢理剥がすと、ミアさんの顔があらわになった。セミロングの黒髪、黄色い耳飾り、金の瞳。


「ひっ! あああぁああ、あ、ああ! その金に瞳に黒フード……! 申し訳ございません! お代は結構です! どうか命だけは!」


 突然、頭を地に擦り付けて土下座を始めた店長と、その声を聞いて店員や客までもが土下座する、異様な光景になった。


「どうしたんですか?」

「ばっ! お前、知らねぇのか?! この方はな! 金の瞳の死神と呼ばれるSランク冒険者様だぞ!」


 金の瞳の死神? 確かに黒いフードは死神っぽいが、方向音痴の陰キャ冒険者の間違いでは? Sランク冒険者だが、ミアさんはそんなに恐るほどの人ではないと思うけど……。


「おい、依頼書を出せ」

「え? どうぞ」


 グイーダさんから貰った依頼書を手渡すと、ミアは店長にそれを突きつけた。


「幽霊屋敷の調査。この依頼を出したのはお前で間違いないな?」

「は、はい! 確かにそれは俺が出しました!」

「よし、俺たちがこの依頼を受ける。依頼の説明をしろ』

「え、えぇぇ?! 貴方様が?!」


 店長の手が震えている。よく見たらあの強気な店長が足まで震えてる。金の瞳の死神とやらは、いったいどんな噂なんだろう。


「恐れ多いというか……申し訳ないというか……」

「いいから早くしろ殺されたいか?」

「ひぃ! すぐに! おい! あれを持って来い!」


 店長が店員に何か指示を飛ばした。


「あの、金の瞳の死神ってなんですか?」

「え、いやーあの……」


 チラッと店長がミアさんの顔色を伺う。


「言え」

「は、はい……。金の瞳の死神というのは、市民の間ではちょくちょく話題なる名でして……。モンスターの討伐をお願いしたら、案内のために同行した依頼主まで雷に打たれたとか」


 そういえばナッシュのリンドブルムの時も、ハリルベルとフィーアがアダサーベンに当たりそうになってたな……。ノーコンなのだろうか。


「他にも、街道を走っていた馬車が黒焦げにされたとか……。山に穴が空いたとか逸話は絶えません……」


 概ね周りへの被害が大きいのか……。Sランクだけあって、魔法力は強そうだしノーコンなのだとしたら巻き添えを喰らって当然かもしれない。


「どうなんですか? ミアさん」


 当のミアさんはなんのことだ?と言った顔をしている。これは本気で覚えてないな……。


 たぶん被害に遭った人へのフォローなんかしてないし、すぐに迷子になってどこかいくからこういった尾ひれのついた噂が一人歩きしているのかもしれない。

 

「店長、持ってきました……」


 店員さんから書類と鍵を受け取ると店長は、口早に説明を始めた。


「えぇーと、西側の外れに、祖父が管理していた館がありまして……。出るんですよ。幽霊が……」

「気のせいでは……」

「いや! 俺も何度も行きましたが、館には誰かがいる気配がするし、館の中はありえない温度の低さで、足を踏み入れると突風が吹いて館の外に弾き出されるんです!」


 う、うーん。突風ねぇ、風魔法を使うモンスターでも住み着いているじゃ。


「氷は?」

「え? 氷……と言いますと……」

「幽霊は氷魔法を使うはずだ」

「いえ……。館の中が凍ってたりはしてないですが、なぜ氷魔法と」

「あ! 良いんです! こっちの話です!」


 ミアさんが不満げな顔をしている。手には本が握られている。恐らく幽霊は氷魔法を使うに決まってるだろうと言いたいに違いない。なんとか宥めるしかない。


「ミアさん、もしかしたら新種の幽霊かもしれませんよ」

「……なるほどな。望むところだ」


 ミアさんが単純で助かった……。


「では、館に入ると突風が吹く、誰かがいるような気配がする。この点について調査してみたいと思います」


 僕とミアさんは、ギルドカードを提示して身分を証明すると正式に依頼を受けることになった。


「今から行ってくる。今日中に戻るから起きて待ってろ」

「え! 今からですか?!」

「当たり前だろう。幽霊が活発的な時間に行かなければ会えない」

「そ、そうですか……」

「大丈夫です。ミアさんはSランクですので」

「いえ、心配なのは、彼が向かって館が無事で済むかどうかです……」

「あ、なーるほど……。それは保証できかねます……」


 一応ギルドの依頼規約には、依頼を遂行にあたって器物破損などが発生することもあるため、約款に細かく記載されている。


 ただミアさんの場合、魔法が強力なのでその規模がいちいちデカい。それゆえに、過去いろんな噂がたったのだろう……。


「よし、情報は手に入った。行くぞ」

「は、はい!」


 こうして僕とミアさんは店長から館の鍵を受け取ると、店を出て西側の外れにあるという幽霊屋敷へ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る