[ 031 ] 強襲リンドブルム
急降下したリンドブルムはテトの体を脚で掴んで固定すると、その鋭い牙でテトを食べようとした。
「うわあぁぁああ!」
「ヴェルア!」
ハリルベルが走りながら火魔法のヴェルアで攻撃をするが、射的が短すぎる。
リンドブルムの羽を少し焦がした程度しかダメージを与えられず、追撃を警戒したリンドブルムはテトを脚で掴むと、再び上空へと飛翔した。
「くそ! 効かないか!」
どうする……どうする……。
考えろ考えろ……。
いま、僕に出来ることを……!
ここままではテトが死ぬ。
死なせない……誰も死なせたくない……。
生まれ変わった時に誓ったんだ!
僕はもう誰も見捨てない!
「 ハリルベル! ヴェルア・オルトでここら一帯の空気を温めて!」
「フィーア! フリューネル・オルトで僕をリンドブルムまで運んで!」
「え、流石にあの高さは無理よ?!」
「大丈夫! 届くよ!」
「もー! 着地はどうするのよ! どーなっても知らないからね!」
「チャンスは一度しかない! ハリルベル!」
とっさに考えた作戦を二人に伝える。時間はない。こうしてる間にもリンドブルムは遠ざかっていく。
「ウォオオオ! ヴェルア・オルトッ!!」
ハリルベルが回転しながら火柱を上げ、あたり一帯の空気を暖めてた。もちろん届くわけもないが、暖められた空気は上へ向かう! これは上昇気流を作るための布石!
思いっきり助走をつけて、ハリルベルの作った暖かい空気の中へ、僕は飛んだ!
「フィーア!」
「行くよっ! フリューネル・オルト!!」
ヴェルア・オルトで暖められた空気による上昇気流と、僕の脚力、背中を押すフリューネル・オルトの突風があれば……!
「うぉおおおおおっ! 届けええぇええ!」
ロケットのように飛ばされた、僕は……
遥か上空を飛行するリンドブルムの脚を
掴んだ!
「お、お前……どうやって……」
「テト、助けるの遅くなってごめんね」
リンドブルムが気付いたのか暴れ出した。もう片方の足の爪が僕の身体を切り裂く。
「うぐっ」
一撃一撃が重く、あちこち肉がえぐれていくが、回復魔法は使えない。
この高度から落ちれば二人とも無傷では済まないだろう。回復はテトに使いたい。
クーアは連続発動が出来ないという欠点がある。いつ振り落とされるかわからないこの状況で使ってしまうと、いざという時に使えず、二人とも死ぬ可能性がある。
死ぬのは僕か、テトか……。
そんなことは飛ぶ前から決めている。
「テト、今日も盗みをしていたね……。何のためにしているのかわからないけど、君はそんな事をする人間じゃない。自分の行動に誇りを持てる男になってくれ」
僕はテトのポケットに入っている宝剣を抜き取ると、リンドブルムの腹部に突き刺した。
「ギャオオオオオオォオォオッ!」
リンドブルムが激しい断末魔を上げてのたうち回る、僕はテトを離さないようにしっかりと抱きしめ、振り落とされた。
「くっ……テト、絶対生かしてお父さんとお母さんの元へ帰すから!」
何があってもこの手は離さない……。
手を繋いだまま、自由落下する二人……。
「ギャアオオオン!!」
「なっ!」
腹部に宝剣が刺さったまま、リンドブルムがしぶとく襲いかかってきた! テトの腹にリンドブルムの爪が食い込む……。このままでは地面に落ちる前にテトが死ぬ……! クソォ!
「クーア!!」
僕はありったけの魔力を注ぎ、テトの腹が致命傷の傷を受ける瞬間から細胞を治して、実質攻撃を無効化した。
バランスを失ったリンドブルムは、ひらひらと山の方へ逃げ始めたが、僕らの落下は止まらない……。
「くっ……」
もうクーアを使ってしまった。連続発動の制約があるため、テトの体に自動回復クーアは仕込めない。
――どんどんと高度が下がる。
このままでは落下の衝突でテトが死んでしまう……。
――地面が近づく。
何て無力なんだ……!
――死が二人に近づいている。
何で僕には誰かを助けるチカラがないんだ!!
その瞬間、僕の頭の中に文字が浮かび上がった。
【重力魔法:ジオグランツが解放されました】
フリューネル・オルトによる急上昇と超高度からの落下が解放のキーだったのか!
初めての魔法で上手く出来るかわからないけど、僕はテトを包み込むように呪文を唱えた。
「ジオグランツ!!」
その瞬間テトの身体を重力の膜が包み込み。ゆっくりゆっくりと降下する様子が目の端に見えた。
よかった……。
これでテトは助かる……。
「え……」
レベル解放されたお陰か、クーアが発動可能になっていた。慎重に手を胸に当て、怪我をしたら発動する自動式のクーアを体内で発動した。
「クーア……」
これで落下しても即死しない限り大丈夫……そう思った矢先、淡い光が僕を包み込み、衝突前にクーアが自動発動した。
「な、なんで……はっ」
さっきリンドブルムにやられた足の怪我……これに反応したのか……。僕の計算ミスだ……。
もう地面まで数秒という地点まで落下している。
ジオグランツはテトに使った。
クーアの再発動も出来ない。
全ての手段が無くなった。
短いけど、最後はそれなりに楽しい人生だった。
僕は目を閉じた……。
――「ヴァリアブルクヴェレ」
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