[ 030 ] 中央区Aエリア
ロゼと別れた後、Dエリアの安い飲食店で軽く食事を取ると、エリアを区切っている中央道を横切り、Aエリアへと足を踏み入れた。
「おぉ、豪華……」
Dエリアが庶民向けだとすると、Aエリアは富裕層向けだった。それもそのはず、すぐ側の東側に富裕層が住んでいるため、彼らの買い物はもっぱらAエリアになるからだ。
Aエリアは、そんな富裕層向けの店が多いため、食材屋はもちろんのこと、道具屋、骨董品屋、診療所、宝石店と多彩な店が揃っており、どの店も高級感あふれている。
中には、警備員兼ドアマンがいる店まである。
ギルドはあくまでモンスター討伐を主体とした組織であるため、アルバイトなどは基本的に、各店の張り紙での募集となっているようだ。
しかし、東側の店で見たのと同じように、雇用条件に東側在住者という文字がチラホラ見える。ただ全部ではなく、少しだけ一般募集を行っている店もあった。
その中で僕が出来て、条件が良さそうなのは三つ。
・食材屋での接客:日給/銀貨四枚
・医療補助:日給/銀貨七枚。経験者優遇
・東側への配達:日給/銀貨六枚
医療補助、これだ。前世での経験を活かせるし、最悪こっそり回復魔法を使えばなんとでもなる。
そう思って、もう一度診療所へ足を向けた時だった。
『ビ――!! ビ――!! ビ――!!』
街中に響き回る大音量で、警報が鳴り響いた。
どこから鳴っているのかわからないけど、とてもイベントの開始を知らせる音ではない。なにかあったのかもしれない。
どんな意味のある警告音なのか、誰かに聞こうと近くにあった七福店という店のドアに手をかけた時だった。
響き渡る大声が、街中に降り注いだ。
『こちらナッシュ市長のグロース・オックパートだ。緊急事態発生! 緊急事態発生! 現在ナッシュに小型のリンドブルムの群れが向かっている! 直ちに建物の中に避難してくれ! 繰り返す……』
リンドブルムってなんだろと、もしかしてモンスターかな?と、思っていたら、道具屋のドアから誰かが飛び出してぶっ飛ばされた。
「いてて……あれ? テト?」
「あ、お前……また邪魔しやがって! どけ!」
テトは僕を突き飛ばして走り出すと、すぐに後を追って道具屋から店主が出てきた。
「泥棒だ! 誰か捕まえてくれ! うちの宝剣が盗まれた!」
店主のすぐ後を、横に巨大な警備員が追いかけている。もしかして、またあの子らにそそのかされて……。
街の中で警告音が鳴り響く中、僕はテトの走って行った方へ走り出した。僕の足で追いつけないはずがないけど。
問題はどこに行ったか。テトのことだから、きっと土地勘のない西側やDエリアにはいかないはずだ。そう思い、東側とAエリアの境の大通りに来た時だった。
「ギュォオオオオンッ!!」
「リンドブルムだ!! みんな逃げろ!!」
誰かがそう叫び、みんなの指差す上空へ視線を向けると、遙か上空に羽を広げた大きさが八メートル近くあるドラゴンが、門を超えて街の中へ入ってきた。その数……八匹。
再度、拡声器を使ったような大きな声が聞こえた。
「みなさん! 建物の中に避難してください!」
聞き覚えのある声だと思ったらフィーアが住民に避難を呼びかけていた。道具もなしにどこからそんな大きな声が?と思ったら、向こうも気づいたらしい。
「ロイエ君! 悪いんだけど避難誘導手伝って! 迷子の子供とかいたら建物に押し込んで!」
「わかりました!」
BとCエリアは道がわからないため、先ほど回ったAとDエリアを中心に走り回った。特に多かったのは、お年寄りの逃げ遅れてで、一人一人おんぶして近くの建物へ連れて行ったりと、僕の足は十分に役立った。
「あ、ハリルベル!」
「ロイエが今日は中央区に行くって言ってたから、警報も鳴ってるし心配になって仕事抜けて来ちゃったけど……大変なことになってるね」
「ありがとう! お年寄りや子供の避難を手伝って!」
「わかった!」
ドゴォォオオオン!
避難させている間にも、リンドブルムは口から火炎球を吐き散らし街を破壊した。あちこちで火の手が上がる中、ある程度、避難が終えた僕らはフィーアの元へ集まった。
「だいたい避難が終わったよ!」
「ありがと!」
「どうするの? 倒せる?」
「そうしたいけど、私は近距離系であの高度までは魔法が届かないのよ」
「俺の炎も近距離系だから無理だ……」
僕が重力魔法を使えれば、きっとリンドブルムを地面へ叩き落とせるのに……。
「大丈夫ですよ。たまたまリンドブルムの天敵がこの街にいるから、ただどこにいるのか……」
「天敵?」
フィーアと ハリルベルの三人で、建物の影で話していると、二人の背後で東側へ逃げるテトの後ろ姿を見つけた。
「おい! テ……」
声をかけようとしたその上空から……!
一匹のリンドブルムがテトを狙っている!
「テト! 逃げろッ!!」
テトが逃げるよりも早く、翼を羽ばたいてリンドブルムがテトに急襲した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます