[ 050 ] オレの出番

「条件に合う冒険者? そんな奴おったかの?」

「クルトさんです」

「ああ、あのブルーポーションがぶ飲みで、ギルドの試験を通過した土魔法使いか」


 あんまり印象は良くないらしい。彼ではフィーアに勝てる気がしないので、恐らくシュテルンさんがいる時に腕力試験を選んだのかな……。


「近くにいるので連れてきますね!」


 もしかしたらまだロゼの店にいるかもしれない。僕は急いでロゼの店に向かい、その間に親方とがグラナトの手当を受け、坑道の地図などの用意してくれる事になった。


「クルトさんいますか?」


 ロゼの店の灯りが消えていたが、念のために確認するとドアは施錠されてなかった。声をかけてから恐る恐る店内へ入ってみると、奥の部屋の明かりは付いている。


「あぁああ、すごい。もっとぉ」

「うふふ。いいですわよ。もっとしてあげますわ」

「あぁ……何かが込み上げてくるぅ」


 部屋の奥から何やら怪しい会話が聞こえてきて、入って良いのか気まずくなった……。男女二人を残してきたけども……まさか。何かいけないものを見てしまう気がしたが、こちらも緊急事態だ。決してやましい気持ちはない……。


「あぁあ、ふぁあ」

「まだまだ、いけますよね?」


 部屋を覗くと、仰向けになって寝ているクルトさんの上に……。ロゼが、魔石を次々と口に放り込んでいた。


「もっと魔石をー!」

「ふふふ! どんどん入れてみましょう!」


 なんかやばい事になってる。クルトさんが魔石の食べ過ぎで、うっすら光り輝いてるように見える。


「あのー?」

「あら、ロイエさん。いまクルトさんの魔石を食べさせているところですわー。ご一緒にいかがです?」

「うおおぉおおお! みなぎってきたー!」


 僕が帰ってからずっと魔石を食べていたのか、店にあった魔石はほとんどなくなっていた。


「あのクルトさん、先程の地震の影響でキーゼル採掘所が大変な事になってまして」

「ふぅ……話を聞こうじゃないか」


 なんだか態度まで大きくなったクルトさんに、二番坑のに現れたリーラヴァイパーの話と、条件に会う冒険者を探してる話をした。


「なら、オレの砂の兵士を先頭にして坑道へ潜れば、ふいうちの毒攻撃は無効化出来るな。狭い坑道なら遠距離攻撃の心配もない」


 そうなのだ。砂の兵士の弱点は、広い場所での遠距離攻撃にやたら弱いこと、術者が狙われるとイチコロな点だった。坑道ではそれらの弱点が無くなる。


「ただ、ロイエ君にも来てもらわないと剣が持てないし、万が一の時に後方支援が欲しいな」

「わかりました。その点についてもマスターや親方に話してみましょう」


 ロゼに別れを告げると、ぼんやり光り輝くクルトさんを連れてキーゼル採掘所へ急いだ。


「親方! マスター! クルトさんを連れてきました」

「おぉクルト君か? 見違えたぞ。魔力が溢れておる」

「モンスターが出たと聞きました。オレの出番のようですね」


 親方、マスター、 ハリルベル、クルトさんと僕の五人で作戦について話をした。まずはクルトさんの力量を確認するために、僕の重力魔法とクルトさんの砂の兵士のコンボを披露すると、こんな使い方をした奴は初めてみたと同じ土魔法使いだからなのか、親方が偉く感心していた。


「では、砂の兵士を先頭にして、外後ろにオレとロイエ、後方支援にハリルベルという陣形が良さそうだな」

「そうですね。それが狭い坑道内で戦う最適なパーティですね」


 攻略法について話していると、マスターが手を挙げた。

 

「すまんの。立場上言わせてもらうと、ロイエ君は冒険者ではない。今回のリーラヴァイパー討伐に同行するのは反対じゃ」


 マスターの一言に静まり返ってしまう。確かに僕は正式な冒険者ではない。ただ、リーラヴァイパーの毒は岩をも溶かす程らしい。親方が入口を封鎖したけど、いつ岩を溶かして街に襲ってくるか分からない状況だ。


「ロイエ君を危険に晒すなら、他の街からの援軍を待った方が賢明じゃろう」

「まぁそう言われてみると、俺みたいな火魔法使いで遠距離の人がいるなら、入り口から遠距離魔法で蒸し焼きにするとかでもいいのか」

「いや、坑道内は入り組んでいて、細部まで魔法は届かないだろう。今回の討伐にはクルトとロイエのコンボは必須だ」


 珍しく親方が僕の後押しをしてくれた。リンドブルムの時もそうだったけど、戦闘における経験値は計り知れない。重力魔法を練度★三にするには、絶好のチャンスな気がする。


「大丈夫です。僕の前にはクルトさんと砂の兵士、後ろには ハリルベルが付いててくれるなら、僕の安全は保証されてます」

「むぅ、まぁ立場上行っておかなねばならんかっただけじゃ、この三人なら特に問題なくクリア出来るだろう」

「ありがとうございます!」


 なんとか僕も同行することを許してもらえたが、いくつか決めなきゃいけないこと、確認しなきゃいけないことがある。


「まず今回はキーゼル。お主からギルドへの依頼という形を取るが問題ないかね?」

「ああ、問題ない。俺の持ち場での発生だからな」

「では、依頼料と成功報酬、危険度に応じた費用として金貨十枚は頂くかの」

「わかった」

「お主らにも役割と危険度に応じて、報酬を支払う。クルト君は金貨語五枚。 ハリルベルは二枚。ロイエ君は正式な冒険者ではないため金貨一枚じゃ。残りはギルドへの仲介料とする」


 金貨一枚か。でもこれで今日中にクリアすれば、あと四日で金貨三枚。これは僕にとって練度上げと金貨集めという両方の面からもお得なクエストだ。


「それと、クルト君。今回パーティの中で練度★四は君だけじゃ、リーラヴァイパーの討伐における全責任は君にある」

「はい! わかっております!」

「いや、わかっておらん。仮に不意の攻撃で ハリルベル君やロイエ君が死んだら君のせいじゃ。君が殺したのと同義という事を心に刻むように」

「……はい。危なくなったら引き返します」

「うむ。現場の判断は君がするんじゃ。よいの? 二人もクルト君の命令には絶対に従うように。クルト君が逃げろと言われたら逃げる事。良いな?」

「「はい!」」


 僕は回復魔法があるから、多少の怪我をしても大丈夫と言う思いがあるけど、クルトさんは僕が回復術師だと知らない。マスターにも人には言うなと言われている。よく考えたら、回復魔法なしで乗り切らなきゃいけないのか。


「ロイエ君。これを持っていきなさい」


 マスターはレッドポーションを二つ手渡してくれた。


「使うかどうかはクルト君の判断じゃが、クルト君が判断出来ない状況の場合、君が判断するんじゃよ。よいな?」


 これは、回復魔法の使用判断は僕に任せると聞こえた。もし誰かが怪我して回復が必要な状況になったら、迷わず魔法を使おう。誰かが死ぬ事と、王国騎士団にバレる事は天秤に乗せる問題じゃない。人命が最優先だ。


「では各自準備が整い次第、二番坑に集合じゃ」

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