[ 055 ] 絶対見捨てない

  ハリルベルが放ったのは、恐らく火魔法練度★四の魔法だ。戦闘中に練度が上がったのだろう。


 クルトさんの土魔法で固められたボスリーラヴァイパーは、蒸し焼きにされてピクリとも動かない。


 クルトさんの意識が無くなったからか、ズシャッっと砂や石が崩れた。ここからでは、クルトさんの姿は見えない。


「ぅ、ぅ……」


  魔力枯渇間際の状態でハリルベルが放った魔法は、術者の命をも蝕んだ。ハリルベルはとても動けそうにない。


「クルトさん! 返事をしてください!」


「シャァララァアア!」

「くそ! こいつ……!」


 僕の抑えているボスリーラヴァイパーがジオグランツの拘束を解こうと、顔を持ち上げ牙を見せている。


 このままでは、僕の方が先に魔力切れを起こすだろう。


 どうする! 

 二人が命懸けで一匹倒してくれた! どうすれば!


「ロイ……エ。ぉ、お前だけでも……逃げろ」


  ハリルベル?!

 そんな……ここまでやってもらっておいて、僕に逃げろと、君たちを見捨てて一人で逃げろと言うのか! 


 僕にまた……見殺しにしろと言うのか!!


 その瞬間、僕の頭の中に文字が浮かび上がった。


【重力魔法:接続詞 ツヴァイが解放されました】


 練度が上がった……。

 そして確信した。

 やっぱり……。

 僕はこの魔法を予想はしていた!


 僕は、みんなを助けてここを出る!


「ツヴァイ・ジオフォルテ!」


 魔法を唱えた瞬間、ジオグランツで抑えていたボスリーラヴァイパーの上に、同じ効果だが有効範囲が半分しかないジオフォルテがさらに追加で重くのしかかる!


「潰れろぉおおおおお!」


――なぜ下位互換の魔法が練度★二なのか、その意味をずっと考えていた――


 ジオグランツによる重力二倍に加え、ジオフォルテが重なった部分だけ、ジオグランツとの重ね合わせ効果が発生した。


――魔法を同時に使える魔法があるんじゃないかと――


 つまり、二倍の二倍……四倍重力。


――火属性や土があれだけ攻撃的な魔法なんだ。重力魔法にも明確に攻撃出来る魔法があるはずだ、と――


 この魔法の真の効果は重さじゃない!


「切り抜け!!」


 追加発動させたジオフォルテを最大まで重くすると

 ボスリーラヴァイパーの巨体を

 二倍と四倍の重力の段差が……


 硬い皮膚すら易々と切り抜いた。


「ジャァラァアアアア!」


 ブシャ!と、ボスリーラヴァイパーの血が辺りに飛び散り、ドスンと絶命した。


 や、やった……。倒せた……。


「ハリルベル……! クルトさん!」


 近くに倒れている ハリルベルは重度の魔力枯渇状態だった。すぐにクルトさんから貰ったブルーポーションを ハリルベルに飲ませると、急いで入り口へ向かった。


  入り口では、いまだに煙が燻っているボスリーラヴァイパーの死体の近くを探した。すると、石の瓦礫の中に全身火傷を負ったクルトさんを見つけた。


「クーア!」


 レッドポーションを飲むのは無理だと判断し、僕は自分の魔力を使ってありったけの回復を施す。


 外傷が治っていくが治る速度が遅い。こんな時にオルトが使えれば……。なんで僕は練度★一のクーアしか使えないんだ!


 次第クーアの光が弱くなっていく、僕のクーアで直せる怪我が無くなったからだ。


「絶対死なせない……」


 僕より大きい二人を抱えて出口まで行くのは無理だ。辺りにもうリーラヴァイパーがいないのを確認すると、自分にジオグランツを掛けて軽くすると、大急ぎで入口まで走った。


 二番坑道の入り口に着くと、血だらけの僕を見て親方もマスターも驚いたけど、すぐにトロッコで向かい二人は無事に救出された。


 二人が救われたのを確認すると、気が抜けて僕はその場で気を失った。

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