[ 078 ] フォレストギルド
「ねぇトロイさん。あの巨木はなんて名前なんですか?」
「世界樹ですか? コンティなんとかって名前です! 覚えられないので、みんな世界樹と呼んでるっす!」
「そ、そうですか」
頼りないトロイの案内を受けながらBエリアを抜け、ギルドのあるCエリアへとやってきた。
正門近くだけあって、賑わっており見たこともない食べ物の屋台も見られる。森が近いから、果物や野菜を使ったメニューが多いみたいだ。
「あそこがギルドっす!」
ナッシュのギルドの数倍大きい……。こんな正門の近くにあるなんて、儲かってるんだろうな……。ナッシュのギルドとは何が違うんだろう。
「こ、こんにちはー」
恐る恐る入り口の扉を押して入ると、僕が見たかったギルドがそこにはあった。
「いらっしゃいませ。初めての方は受付へお願いします」
ギルドはレストランほどの広さで受付カウンターが複数並び、バーではガラの悪い冒険者が朝から酒を飲んでいる。奥の広いスペースでは素材の買取みたいな事をしており、まさに『ザ・ギルド』な雰囲気だ。
ギルドの中をキョロキョロしていると、酒を飲んでいたゴロツキ冒険者が立ち上がり、僕の前にやってきた。
「おいおい、こんなお子様が冒険者かよ。ガーハハハハ! ママのところへ帰んな」
うわぁ、人生で一度は言われてみたいセリフランキングに確実に入る奴だっ……! ここは軽く捻ってやらないと彼らに申し訳ない。
「誰がお子様だって? ハイハイが得意なのは君らだろ?」
『ジオグランツ』
二メートル四方の弱めの重力場を生成する。
「うおっ! こ、こいつ重力使いか! へ! これくらい、へでもねぇ……」
『ツヴァイ・ジオフォルテ』
重力の段差で殺さないよう、同じ範囲のジオフォルテを重ねて発動させた。
「ぶへっ!」
「どうしたんですか? そんなところでハイハイしちゃって……お子様ですか?」
完全に我を忘れて楽しんでいると、パンパンと誰かが手を叩いて仲裁に入ってきた。
「はーいはい。僕のギルドで暴れないでくださーい」
階段を降りきたのは、前髪で片目が隠れた紫髪の高身長猫背の男性……。二階から降りてくるというお決まりのルールを踏んでるあたり、フォレストのギルドマスターだろう。
「ガンツ、君は誰でも彼でも突っかからないでよぉ。あーめんどくさい」
「さーせん……ルーエさん」
「で、君たちはどちら様かな? 腰のカードホルダーを見る限り冒険者のようだけど」
「ナッシュからフォレストへの護衛任務を受けて、先ほど到着したところです。報告に参りました」
ギルドマスターは僕らを一目見ると、はぁーめんどくさいと息を吐くと「田舎ジジイのお使いか……」とボソリと吐き捨てると、トロイに向かって指を刺した。
「おい役立たず。ハイネル村の依頼はどうした」
「ちゃんの達成したっす!」
「あー? どうやって?」
「え、えーと、堀を作ってスライムを落として……その上から土をかけて生き埋めに……これが証拠の魔石五百個っす!」
「ふーん? 嘘くさ。まぁいいや。村長のサインもらってるなら。プリンちゃん、後よろしく」
「はい、ルーエさん」
ルーエと呼ばれたマスターは、それだけ確認すると「あーめんどくさ」と言い残して、二階へ戻って行った。
うーん、僕らはあんまり歓迎されてないな。マスターがフォレストに回復術師がいるって偽の情報を流したから、仲の良いイメージだったけど、そんな感じはしないな……。
「では、ナッシュからの冒険者一向様。カウンターまでお越しくださーい」
女性従業員に呼ばれてカウンターへ五人で並ぶと、受付嬢が怪訝な目をしてこちらをみている。
「なんで穴掘りモグラ君まで並んでんのよ」
「あ! プリンさん、自分はハイネル村の依頼の報告っす!」
「あー。じゃあいいわ並んでて」
どうやら街の中の依頼と、街の外の依頼で並ぶカウンターが違うらしい。プリンと呼ばれたこの子が街の外担当なのか……。
黄色い髪に、黒い瞳……身長が低く最初は子供かと思ったけど、たぶん年上だと思う。地雷は踏まないようにしよう。胸はフィーアと同等にぺったんこだ。
隣のカウンターに立ってる子は、街中依頼担当なのだろうか。銀髪のショートヘアだ。これでロングヘアーにウサ耳ならフィーアに似てるな……。
「ウサ耳にして欲しいな……」
「え〝……あ、あたしに、ですか?」
「あ……いや! ごめんなさい」
「ちょっと! ロイエさん! な、何ナンパしてるんですか!」
思っていたことが口に出てしまい、ロゼに怒られてしまった。完全にナンパ野郎だ……。僕はやはり心のどこかでフィーアとまた笑い合いたいと思っているらしい。
「あのー? 手続きしないんですかー? シルフィにゾッコンですかー?」
「あ……ごめんなさい。手続きします」
プリンさんにも怒られてしまった。銀髪の女の子はシルフィって言うのか……。慌ててポーチから依頼状を出すと、彼女はすぐに手続きしてくれた。
「はい。報酬の金貨十枚ね。そっちのあんたにも」
「ロゼさん、こんなに……いいの?」
「ええ、冒険者祝いも兼ねてますわ。ふふ」
「ありがとう……」
「お、後ろのあんたランクアップだよ。おめでとうランクDだ。更新するからギルドカード貸しな」
ハリルベルは今回の依頼達成でDランクへと昇進した。僕はまだ貰いたてのGランクのままだ。仕方ない。
「ほらよ。Dになったよ。受けれる依頼が増えるから見ていくといい。ただこの村ではまだ名前が売れてないから、断わる依頼主もいるかもしれないけどね」
あそこがクエストボードか、ナッシュのギルドにはほとんど依頼無かったからな。ちょっと見てみるか。
「材木伐採護衛と、材木伐採護衛に? 材木伐採護衛……。ここのギルドは材料伐採の護衛しかないんですか?」
「あー? うちの街にはね。街の外に出る場合は、全てギルドを通さないと実施しちゃいけないんだよ。村を少しでも出るならギルドに依頼するしかない」
「つまり、主要取引材料の木材を斬るたびに、ギルドに護衛の依頼が……」
「そうそう、それがナッシュとは違うところだね。あそこは採掘所で石掘るのに冒険者が護衛しないで、自分たちで好き勝手掘るからギルドにお金入らないんでしょ」
確かに言われてみると、ナッシュはキーゼル以外の採掘所もあるが、みんな好き勝手に掘ってるな。毎日護衛依頼があれば、確かに冒険者は潤うのに……。
「で? 役立たず。本当に一人でやったの? あんたが?」
トロイさんの依頼の受理が行われたが、トロイさんがプリンさんに詰められてる。一応助力しておこう。
「僕ら、ハイネル村からトロイさんとここにきましたが、ちゃんとスライム達を倒してましたよ」
「うーん、そう言うならいいか……はい報酬」
「あざっす!」
よかった。これでトロイさんも依頼達成だ。
ん? クエストボードを見ていると、不可解な依頼に目が留まった。
「怪盗ノワールの捕獲依頼……?」
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