[ 077 ] アルベルタ商会
深緑都市フォレストの地上の街ランツェルは、ナッシュの街並みとどこか似ていた。
ナッシュは中央広場を中心にABCDのエリアがあったが、フォレストも同じで巨木を中心にABCDとエリアが分かれている。
南門から入った僕たちは、入ってすぐの商店街で勧誘をしている封印教団と一悶着あった後、そのままBエリアへと向かった。
Bエリアは、西側が海に面しており港があるのが特徴だ。貿易品を管理するために商社がいくつかあり、そのうちの一つがアルベルタ商会。
主にポーションの販売を取り仕切る大手で、どこの店でもアルベルタ商会のマークがついていて独占状態だ。この世界には独占禁止法は無いのだろうか。
馬車で大通りを進むと、デカデカとアルベルタと書かれた看板が見えた。看板の大きさでオーナーの気質が見て取れるようだ……。
――「デュフフ。いらっしゃいませ、ロゼ様」
アルベルタ商会に着くなり、会長であるブーデ・アードリゲが歓迎してくれたが、ぽっこりお腹に油ぎった顔と、薄い頭。金ピカの洋服に指輪だらけの手が眩しい……。
ブーデは、絵に描いたような成金貴族だった。
「ごきげんよう。ブーデ様。本日は貿易品の納品に参りました」
「いつもより早い時期でしたので、どうされたのかと思いましたよ。デュフフ」
「現在ナッシュは、リンドブルム騒ぎでダメージを受けておりまして、早急に経済を回す必要があるのですわ」
「なるほどぉ、そりゃあ災難でしたね」
ちなみに、僕らより先に出発した馬車も到着していた。乗ってきたのは、フリーレン商会の従業員でピレンという名の少年だ。若いのにしっかりしていて驚いた。彼の指示に従い荷物を下ろすと、僕らはお役目ごめんとなった。
ギルドへの報告もあるので、ロゼがアルベルタ商会との交渉が終わるのを外のベンチに座って待っていると、誰かの視線を感じた。
ちなみにトロイは穴を掘って遊んでいる。
「ロイエ」
「うん、見られてるね……」
「いや、あそこ」
顔を上げると、木陰を白い帽子が揺れている。誰だか隠す気もないようだ。
「ミルトさん、何やってるんですか……」
「え?! バレてる? まっじー?」
「もう隠す気がないくらいバレてますけど」
頭をポリポリしながら、たははーと茂みから出てくると、パンパンと白いドレスについた葉っぱを落とし、僕らの座ってるベンチへやってきた。
「で、何してたんですか?」
「いやほら! なんか豪華な馬車だから金目の物でもないかなーと」
「完全に泥棒する気じゃないですか」
「いやー、あはは」
「で、本当の目的はなんですか?」
雰囲気でわかる。彼女は決して弱くない。それなりの実力者だ。なら何か理由があっての行動だろう。
「あー、言っちゃダメって、ルヴィドには言われてるからさー。秘密で頼むよ?」
手を合わせてスリスリしてるが、部外者の僕らに喋っちゃうって、めちゃくちゃ口軽いな! 彼女に僕らの情報はなるべく教えないようにしよう……。
「先月のことなんだけどね? 君たちは知らないかもしれないけど、フォレストがモンスターに襲われたんだよ。それも二回も」
「何が襲ってきたんですか?」
「最初は熊みたいなモンスターで、グリズリーっていう身長が二メートル半はある巨大な奴でさ。それが二十五体。その次はリンドブルムっていう小型のドラゴンが三十八体」
思ったより多くて、その数にちょっとビビった……。
「あれ、ナッシュにもリンドブルムが来ましたけど、もしかして……」
「フォレストでの撃ち漏らしかもね」
ハリルベルに聞いたらモンスターが大量発生するのは、月に一回あるかないからしい。ナッシュではリンドブルム八体……これはフォレストの撃ち漏らしが漏れてきた可能性が高いが、リーラヴァイパーも大量発生した。
「モンスターの大量発生が、どうしたんですか?」
「実はどっちも、現れる前に大きな地震があったんだよねー」
その発言に少し戦慄した。あった……。ナッシュでリーラヴァイパーが大量発生した時も、直前に大きめの地震が……。
「二回ともだよ? 二回とも地震があった後にモンスターが出たから、これは誰かが封印を解こうとしてるのだ!」
ふ、封印? ここで封印教団の勧誘に繋がるのか!?
「あ、その目! ちゃんと聞いてよ! 誰かが封印を解いて意図的にモンスターを出現させてる疑惑があるんだってばー!」
「意図的にって、地震を起こして……ですよね? そんなすごい人ならモンスターに街を襲わせるより、自分で街を破壊した方が早いような……」
「いやいや! だいたいこういうのってなんか理由があるんだって!」
ミルトは大袈裟に腕を振って全否定してる。
「モンスター封印解除装置!みたいなのを、持ってるとしたらお金持ちくらいだよね? と思って、なんか荷物を大量に持ってきた君たちを疑ってるのさー」
「僕たちはナッシュから来たばかりですよ? 順番的にも違うと思いますけど」
「たしかに?! ま! 何か怪しい物見つけたら教えてね! バイバーイ!」
本気で台風みたいな人だ……。でも、モンスター大量発生前に地震が来る。これは見過ごせない気がする。ミルトの言う通りなら、誰かが何かの目的で、やっていることになる。
アルベルタ商会が怪しいとミルトは言っていたが、果たしてそんなことが可能なのだろうか?
「ロイエさんお待たせしました」
考えを巡らせているとロゼと、従者として一緒に入ったリュカさんも出てきた。
「どうでした?」
「まぁ少し買い叩かれましたが、概ね問題ありませんわ」
「つかぬことをお聞きしますが、このアルベルタ商会って怪しい感じはします?」
「怪しいというのは、どういう……?」
僕は、二人に先程のミルトの話を早速バラした。仲間なんだから言っても問題ないはずである。
「地震ですか……。アルベルタ商会は問題なく利益も出ていますし、そんな事をしてまで主力製品のポーションの需要を高めようとはしないと思いますけど」
「まぁ、可能性の話ですので……」
僕らはアルベルタ商会での仕事を終えると、依頼達成の報告のためギルドを目指した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます